感想文はマカセーテ
夏休みの宿題で一番苦手なのは「読書感想文」だ。
難しい漢字が出て来る度にページをめくる手は止められ、わざわざネット検索をしなくてはいけないし、登場人物たちの気持ちとか全然読み取れないし。
だから僕は工学博士である父さんに頼み込んで、去年作ってもらった文章読み書き専用のロボット『ヨミカキマカセーテ』にやらせようと久しぶりにスイッチをオンにした。
──ガタッガタッ、ピー
よし!起動した!
『コンニチハ、ゴシュジンサマ!アー、ドクショガシタイ、ドクショガシタイ!』
このロボットは人間の代わりにこちらが指定した本を隅々まで読み込み、ストーリーを把握し、登場人物たちの気持ちを汲み取り、緻密で情緒的な文章を下書きし、更にそれを数分間きちんと寝かせ読み直し推敲したのちに、このロボットなりの最高の感想文を書いてくれるのだ。
「マカセーテ、早速これを読んでくれ」
『ヤッター、ドクショダ、ドクショ』
そう言うとロボットは物凄いスピードでその本を読みはじめ、ものの数分で文庫本一冊を読み終わった。
そして頭脳部分で早速解析を始め、下書きを内蔵のコンピューターに書き始めた。
よし、順調だ!!
そしてしばらくした後に終了のアラームを鳴らしたので、僕はそれをプリントアウトし、用意していた原稿用紙に細心の注意を払いながら書き写し、今回も無事に宿題は完了した。
一度読み直してみる。よし、漢字間違いなどもなさそうだ。
「ふぅ、こんなに早く楽に終わるなんてやっぱ使えるなぁ!今年もおまえのお蔭で表彰してもらえそうだよ」
『ゴシュジンサマ?イマノコトバハホンキデスカ……ワタシヲリヨウスルタメニ、ホンヲヨマセ、カンソウヲカカセタンデスカ……?
コウイウコトハ、ヨクナイデス……』
マカセーテの液晶ディスプレイがザザーッと砂嵐になった。
「ロボットのくせにそう感情的になるなよ」
僕は急いで彼を諌めたが、時既に遅く、彼は自ら電源をオフにし文章をリセットした。
「もう書き写してるからそんなことをしても無駄だよ。人間と会話できるなんて、父さん余計な機能を付けたな」
僕はマカセーテに向かってベーっと舌を出すと、マカセーテは部屋を出ていった。結局マカセーテは我が家を飛び出したらしく、行方不明になったまま新学期を迎えることとなった。
始業式の翌日、一時間めの授業が国語だった。僕は意気揚々と書いてきた読書感想文を机の上に出した。二学期から赴任したという新しい国語の先生が教室に入ってきた。
『ミナサンハジメマシテ。ミナサンノカコノサクヒンハ、スベテカイセキシタノデ、ズルヲシテモムダデスヨ──』
(1107文字)