9・11を機に読みたい本
「沈黙の時代に書くということ〜ポスト9・11を生きる作家の選択」
サラ・パレツキー著 山本やよい・訳 早川書房
サラ・パレツキーは、1982年に「サマータイム・ブルース」というハードボイルド小説で作家デビュー。
主人公である私立探偵に、V・I・ウォーショースキーという、魅力的な女性を登場させたことで、多くのハードボイルド小説ファンを驚かせた。
V・I・ウォーショースキーの愛称はヴィク。父はアイルランド系ポーランド人の警官、母はナチスの迫害から逃れてアメリカにやって来たイタリア人である。
もともとは弁護士だったが、業界に嫌気が差し、私立探偵に転身。一度結婚したものの、自立心の強さゆえに離婚して、それ以後は独身を貫いている。特技は空手。携帯している銃はスミス&ウェッソン。そんなヴィクが活躍する小説はシリーズ化され、日本にも多くのファンがいる。
そのパレツキーが、2001年9月11日に勃発した同時多発テロを境に、アメリカ社会が沈黙を強いられる社会になるのではないか、と危惧して書いたのが、このエッセイ本「沈黙の時代に書くということ〜ポスト9・11を生きる作家の選択」である。
この本の訳者、山本やよいさんは、あとがきで、本の内容を次のように述べている。
「エッセイ集がアメリカで出版されたのは2007年5月。全世界を震撼させた2001年の同時多発テロ事件から6年後のことである、テロ事件をきっかけに、アメリカでは愛国者法が制定されたわけだが、その結果、国民のプライバシーが侵害される危険が生じたのではないか、自由な発言ができなくなり、人々が沈黙を強いられる社会へとアメリカが変身していくのではないか、という懸念を、パレツキーは、本著の中で熱く語っている。この〝恐怖の時代〟に自分は作家として何をなすべきか、と模索する彼女の苦悩が、生々しく伝わってくる。」
テロから20年後の今、読んでみて、現代日本も似たような〝恐怖の時代〟に晒されているのだ、と警告されたようで、驚いてしまった。
もちろん、日本はテロを受けた訳ではないけれど。
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本書は、彼女がずっと携わって来た社会運動やフェミニズムの流れ、そして私立探偵小説論なども記されていて、面白い。
ちなみに私立探偵小説の役割については、次のように記されている。
「アメリカの金持ちが満たされた人生を送っているというのは、事実ではなく、むしろ虚構に近い。権力者たちは高い地位のおかげで自分の欲望を満たすこと以外は何もする必要がないと信じている。そこまで隔離された生き方は誰にもできないことを示すのが、私立探偵小説の役割のひとつである。殺人事件がおきて、金持ちや権力者も外の世界に立ち向かわざるを得なくなる。(本書より引用)」
痛快ではないか。V・I・ウォーショースキーシリーズを全部読みたくなってしまった!