テンション復活
田口浩正について何の好きもない演技者だと思ってたし、るけど、よく言えば隙だらけのタ田口を初めて見た。悪く言えばプライドの塊といえばいいのか─────どんな言い方をしてもおそらく本人に否定されるだろうというこの感じこそがまさにぼくが受けた印象だ。
言うなれば、「予め自分について一定のマイナス評価を持っているという前提の母集団の輪の中に、後から入らなければならない」という状態の人がやってきて、額面通りその「自分を否定するその語群のひとつひとつを否定して回ってる」という立ち位置が適切か。
逆に自分を客観的に見せまくり、常に自己がどのように見えなきゃいけないかを嫌というほど意識している演技者(えんぎしゃ)という生業から、「え!?そのまま客観的に見られていいのかよ?」というほど、悪しく思われても仕方ねえぞそれはという態度で出演したので、リラックスしていたと言えるのかも知れない。だが、その匙加減といいますか実際マジでどうだったかの判断はぼくのような演技素人ではわからん。
田口が小浦くん(芋洗坂)と組んでいた芸能のコンビを再結成し、ゲストとして同期であるバカルディの番組に出た。さまちゃんには菓子を食いながら話すコーナーがあり、かつてマミーとか加納とかが来ていた……気がする。同期が来るなんて初めてのことだ。ゲストでそのような層が来たのは全裸監督ぐらいじゃないか?とにかくイレギュラーだったと言えるかも知れない。
小浦くんはバカルディのことも田口のことも憎からず思ってるのが伝わって来、自分の実力がなかったがグランプリとかに登壇し続け、肩を並べられるぐらいの結果、つまりこの番組に出ていることについて感無量という感じだった。これは小浦くんのストーリーとして完璧である。
田口はものすごい敗者意識のようなものを全面に漂わせていた。ガチ目にそういう人だっけ?と驚いた。これは芸能の中でも芸に特化したバカルディの主戦場ホームであるチャンネルに呼ばれた(呼んでもらったと捉えるのが良いと思うんだが)から、演技のプロである自己の能力が活かせないと踏んでいきりたおしていたのだろうか?コンビを一年ぐらいで解散して、演技の道に進んだのであれば芸歴は勝てないんだから、少なくとも相手のホームでイキリ散らす感じは到底世渡りを狙った行為じゃなさすぎて驚く。
少なくとも田口は先に生まれた方が無条件で殴ってこようがセクハラしてこようが何も逆らえない世界で生計を立てて来たはずだ。特に大竹とは相当根深いようだった。それは三村をみむっぴょとか呼んでたけど、大竹と小浦くんはそれぞれ大竹、小浦と呼んでたから。これは出川方式かも知れませんね。気に入ってる、年下だけど尊敬してる相手を愛称で呼ぶ。
だが、芸の息もわかってる。それは制作のディレクタに「今の大丈夫?(コンプラガン無視で話しちゃったけど使える?)」という裏回しを大竹三村に「いちいちそんなの訊かなくていいから」と差し込まれるおもしろを一個生み出し、最後までそれを天丼していた。またテンション自身の舞台の練習もしてるからだろうが、持ち芸をつつがなく披露していた。これは田口の「芸をやる壮年の演劇」をやるというスイッチが入ったからできるのかどうかをぼくは知らない。
小浦くんもずっとソロだっただろうし、田口には夥しい芸歴がある。そのブランクを埋めるにはふさわしすぎる能力がそれぞれに備わっていたとしてもおかしくはないのだろう。だが、テンションの当日券を買い求める潜在顧客たちにどれだけ訴求できたのかどうかは、田口のこの態度からはよくわからん。そうする必要がないからこそこの圧力が強すぎる田口だったのか。何度も言うが、田口自身がこのような講評をされることをすらまず望んではいないと思うのだが。