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「仮想世界」経済から「マルチバース」経済循環へ

-- 30年後の未来を読み解く第三弾 :物語を紡ぐ(物語編) --

●「仮想世界」のエコノミー

 ゲームやクリエイター、eスポーツのための「仮想世界」のインタフェースが、スマホやPC、ゲーム機に代わるとき、仕事と生活を時分割マルチタスクで「仮想世界」に配分する人たちが登場する。労働、スポーツ、会話、観劇、クリエイティブ、ゲーム、リアルでの活動が「仮想世界」に移行していく。

○ミクロ・マクロ・ネットワークで表現する

前提:
・複数の「仮想世界」プラットフォームが競争する
・技術やサービスのオープン化、経済行為のすべてが参照可能な「仮想世界」が優位となる
・芸術性や希少性、ヒトの有限時間に価値がある
・ヒトは、生きがいと娯楽を求めて「仮想世界」で生活する

■構成要素:
ミクロ: 
ヒト、モノ(商品・サービス・トークン)
経済的コミュニケーション: 「仮想世界」におけるモノの生産、モノ・トークンの交換
マクロ: 個々の「仮想世界」、「仮想世界」で生産者を雇用する企業
メタ・ネットワーク: 「仮想世界」間および「仮想世界」内外の企業間でのトークンの流通、モノの交換
環境: ヒトが暮らす質量のある「リアル世界」、質量のない「情報世界」と「仮想世界」
技術・社会背景: 
・低賃金化と衣食住の低コスト化の波が、若者たちを「仮想世界」での欲求充足へと誘う
・スマホのように気軽に扱えるスマートグラスが一般化
・大量の取引を扱う暗号通貨(仮想通貨)がトークンとモノの価値を保障
・多人数参加のライフ・ワーク・ゲームを扱うメタバースプラットフォームがオープンソースで公開
・多数の「仮想環境」と「仮想環境」内企業が存在し、時分割マルチタスクで選択的に利用できる

■ネットワークの特性:
多次元性・多重所属:
 ヒトは自身の有限時間を複数の「仮想世界」に多重帰属して割り当てて生活し、生産し、交換する
適応・動的特性: 
 ヒトが暮らす環境の変化や興味の変化に適応して「仮想世界」への割り当て時間を変更する。例えば、衣食住の充足状況により、欲求を満たすものを求めて「仮想世界」において生産し、購買する
 複数の「仮想世界」、「仮想世界」内外の企業、個人が競合することによる新陳代謝が発生し、経済システムも成長する
可塑性と学習:
 「仮想世界」に暮らす住人の経済的コミュニケーションの履歴が蓄積されて公開される
フィードバック・ループ:
 技術・サービスのオープン化、経済的コミュニケーションの記録の公開により、企業、生活、労働、経済行為の間でのフィードバックループが形成される。
※より閉鎖的な「仮想世界」は変化に乏しく淘汰され、よりオープンな「仮想世界」はフィードバックループにより活性化して魅力と競争力を高速に上昇させる
恒常性・保守性:
 
よりオープンな経済構造をもつ「仮想世界」は変化が激しく安定状況を維持しようとする力が働く、技術・サービスのオープン化、経済的コミュニケーションの記録の抑制もその一つ

○仮想世界での欲求と価値

 ヒトは欲求の充足を求めて働き、遊び、行動する。「仮想世界」は衣食住と分離した欲求充足世界であり、自己実現と承認、娯楽(幻想、競争、運、模倣、知識・技能習得、収集)を利益として求めて生活する。

「仮想世界」における主な価値:
・希少性、芸術性を求めて収集する価値
 - 絵画、イラスト、動画、顔、衣服、置物、カード、演劇、音楽など
・ヒトの有限時間に還元される価値
 - 時間を費やす価値のある娯楽・コミュニケーションサービス
 - ヒトによる作業、労働
 - 自動化による時間の短縮、作業の代替
・サーバー能力に還元される価値
 - 処理負荷の高いイベントやアトラクション環境
 - 物理・化学実験などの研究・シミュレーション環境
 - 表現範囲=土地


●「仮想世界」の経済

 「仮想世界」の中で最も価値のある資源はヒトの有限時間だ。ヒトは、自身の求める欲求を獲得できる「仮想世界」を選び、より多くの時間を消費する。

 「仮想世界」の住人は、希少性や芸術性、娯楽や実験環境、労働力の価値をトークンに翻訳して循環させる。

 仮想世界の労働力は、「仮想世界」内での大小、巨大ビジネスを立ち上げて、「仮想世界」内に独自の価値流通ネットワークを構築する。「仮想世界」の住人は、自身の欲求充足のために自身の有限時間をトークンと交換し価値を獲得する。

 「仮想世界」の取引の蓄積と公開、仕組みのオープン化とAPI化が、「仮想世界」経済のフィードバックループを加速する。トッププレイヤーの業績が高速に交換される「仮想世界」は、その仕組みも含めて高速に新陳代謝して成長するため、無数に台頭する「仮想世界」との生存競争で選択されて生き残る。

 「仮想世界」内の企業は、魅力のある新たな価値を提供し続ける必要に迫られる。「リアル世界」の企業のように、特定のサービスや技術を囲い込んでいる余裕はない。

 サービスも技術もすべてがプラットフォームに組み込まれ、ゼロベースの競争が繰り返される。企業と労働者は安定を目指すのではなく、アーティストのように常に評価されクリエイトするサイクルを回し続ける。「リアル」「情報」「仮想」すべての外部環境の変化に適応する高速で動的な循環が、適応変化を加速して常に新しいものを求め、供給し続ける。

 拡張された仮想通貨の仕組みが、「仮想世界」内におけるトークンと価値の複製を管理して保障する。やがて、共通仮想通貨を翻訳装置とする「仮想世界」間での価値交換がはじまる。


●マルチバース世界での経済循環

 「仮想世界」間でのヒトの有限時間獲得競争は、同時に「リアル世界」、「情報世界」「仮想世界」を巻き込んだ「マルチバース世界」での経済圏へと広がってゆく。

〇マルチバース世界で生活する

 リアルもその一つとなる

 「情報世界」や「仮想世界」を「リアル世界」に存在する機器や経済をベースにして成立するサービスとしてとらえる時代が終わる。生活や仕事の主体が「仮想世界」や「情報世界」に徐々に移行していく。

 アナログとデジタル、線形と非線形、現実と仮想が混じり合い、すべてが現実となる。そこには音があり、映像があり、情報がある。ヒトが存在し、脳が知覚して認識するものが世界となる。

 「リアル世界」、「情報世界」、「仮想世界」の中に小世界が重ねられ「マルチバース世界」となり、ヒトは時分割で世界にまたがって存在してゆく。

 「リアル世界」の生活は「情報世界」のコンテンツにパッケージ化されつながれ、「情報世界」のコンテンツをリバースしてイメージ化した「仮想世界」を通して知覚、意識する。マルチバースにおける自身の居場所の位置感覚、方向感覚、連携のためのテクノロジーやサービスが提供される。

 「仮想世界」での経済循環とライフスタイルの変化が、マルチバース世界(=「リアル世界」「情報世界」「仮想世界」)での経済圏を構築する。

〇マルチバース世界にまたがる企業と労働者

 時分割マルチタスキングの波が、オフィスに押しよせる。かつての月毎のバッチ処理から、日毎へ、そしてリアルタイムに業務を分断する。より優秀なエリートは断片化した複数の業務を瞬時に判断し、多くの割り込み処理を高速に処理して、24時間に断片化した世界中のヒトとプロセスを統合・編集するプロジェクトを運用する

 グローバル化した優秀な人材を時分割で雇用して統合・編集した企業が勝ち残る。ある業務に特化したモノや、短時間集中で生産性の高いモノ、能力は低くても物量で集約するモノなど質と量の異なる多種多様なキャラクターを集約・編集する。AIのサポートを受けて業務を分節・断片化し、複数の労働者の時分割労働単位を編集して割り当てながら進行するための自由度とスピードを求めて、マルチバース(リアル世界、情報世界、仮想世界)にまたがって業務プラットフォームを構築して、パラレルワーカを雇用しタスクを動かす企業が台頭する

 ヒトの時間をマルチバース世界(=「リアル世界」「情報世界」「仮想世界」)に時分割で割り振って生活するワークグスタイルが生まれる。

 パラレルワーカたちは、マルチバースを横断する複数の企業・チームに所属してその時々で仕事を選び時分割で業務を進めて収入を得る。

 あるものは「リアル世界」で複数の企業に在籍して24時間を時分割で仕事に割り振り、あるものはベーシックインカムで衣食住をまかないながら複数の「仮想世界」でクリエイトして、娯楽に興じる。

 ある期間は集中的に12時間のマルチタスクをこなし、ある期間は数時間程度の仕事でプライベートを充実させる。ストレスの強い仕事と弱い仕事をバランスするなど、個人で自由に仕事と生活を編集するライフタイルが日常化する。

〇モノがマルチバース世界を横断する

 モノがリアルと情報と仮想を行き来する

 今あるように、「仮想世界」で「リアル世界」のモノを買ったり、「リアル世界」から「仮想世界」のものを買うなどのクロスで購入する行為は普通のこととなる。

 さらに、モノの所有がクロスオーバーする。

・「仮想世界」で所有する衣服を「情報世界」の型紙や画像に変換し、「リアル世界」で3Dプリントして着用する。
・「情報世界」で購入した絵画を「リアル世界」と「仮想世界」の自宅に飾る。
・「仮想世界」での演目を「情報世界」の動画として公開し、「リアル世界」でリメイクして公演する。

 機器や家具、アバターも同様だ。

 マルチバース世界ではモノの所有の境界が希薄になっていく。

〇欲求充足経済ネットワーク

 マネーは、ヒトの集団がつくりだした幻想であり、異なる価値を翻訳する共通言語だ。

 衣食住の充足した「マルチバース世界」では、ヒトの有限時間に価値がある。

   ヒトはそれぞれの欲求充足度により「マルチバース世界」を選択して、時分割マルチタスクで有限時間を割り振る。

 欲求充足度を翻訳する共通トークンの仕組みが、「マルチバース世界」の経済循環を支える経済プラットフォームとなる。

    「マルチバース世界」では、 「リアル世界」の国家貨幣も、「情報世界」のアクセス数や評価も、「仮想世界」が発行したトークンも欲求充足度=共通トークンに翻訳して流通し、マルチバース世界や個人の仕組みや行動を調整する「欲求充足経済」を展開する。

欲求充足経済:
 「マルチバース世界」にまたがり、欲求充足度を共通トークンに翻訳して流通し、ヒトの欲求の全体最適を求める経済。広義での遊び、楽しいが正義となる。
 多元世界の経済が絡み合い、主従を変え、経済ネットワークを多重にはりめぐらし、その形を変え続ける。


●新たな同族集団の誕生

 自らの意思で選んで参加する世界が、参加している者たちの全体的意識と固有の文化を構築する。

「集団が保有する文化は集団毎に異なり、それを維持することが集団にとって有利となることから同族・民族意識がうまれる。」

 「リアル世界」の国家や地域、「情報世界」の舞台創造と閲覧の仕組み、個々の仮想世界が「仮想国家」となり異なる文化と経済圏を形成していく。

 物理と仮想、論理と暗黙知、線形と非線形を自身の都合に合わせて自由に切り替え、それぞれが形づくる自然、地域、有機的共同、美意識、思想、新たな同族文化を構築して「マルチバース世界」に記憶する

集団、文化、ヒトの共進化:
 文化とヒト、集団規模とコミュニケーションの相互作用が編む共進化のサイクルが集団に優位な文化をうみ、集団の規模を拡大し、新しい文化の創造がコミュニケーション能力を高め、文化とヒトの共進化を加速する。

18世紀、
物理的な土地という【巨大な壁】
を突破した「産業革命」をきっかけとして、資本主義=「マネーの奪い合い」という新たな競争空間へ移行した。

2021年、
ヒトは交通と通信のインフラの発展により物理空間の距離を超えてコミュニケーションすることにより、グローバルな文化を形成する。

 2050年、
リアル空間におけるグローバル資本主義という【巨大な壁】
を突破する「マルチバース革命」をきっかけとして、「マルチバース」における「ヒトの有限時間=欲求充足トークンの奪い合い」という新たな競争空間へと移行してゆく。


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参考書籍:
[1] 落合陽一(2018), "デジタルネイチャー : 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂
", PLANETS/第二次惑星開発委員会
[2] 佐藤航陽(2017), "お金2.0 :新しい経済のルールと生き方", 幻冬舎[3] 佐藤航陽(2017), "お金2.0 :新しい経済のルールと生き方", 幻冬舎
[3] モリス・バーマン(2019), "デカルトからベイトソンへ :世界の再魔術化", 柴田元幸訳, 文藝春秋
Morris Berman(1981), "The Reenchantment of the World", Comell University Press.


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