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連想探索を支援する:コネクティブ・ブレイン

  -- 30年後の未来を読み解く第一弾:コンセプト編集 --

 ヒトは通信網や交通網などのコミュニケーション手段を使ってコミュニケーション能力を高めることにより、集団の中からより良い文化を発見し、学び、創造し、時空を越えて普及して社会進化のサイクルを回す。

 情報世界においてヒトは、膨大なコンテンツ群の中から情報流通サービスというコミュニケーション手段を用いて「価値あるコンテンツ」を探し閲覧する。

 ヒトと文化の共進化のサイクルを次のステップに進めるあらたなコミュニケーション手段について考えてみよう。


●背景: ヒトの記憶と検索エンジン

 ヒトの記憶を単純化すると次のように表現できる。

 符号化⇒記憶⇒「検索ワード(イメージ)」により想起

 ヒトが何かを学び長期記憶にため込むことができる情報量には限界があり、辞書や百科事典はヒトの記憶力をアウトソースする。ヒトエンジンを使ってまだ学習していない膨大な情報を調査選別して集め、「検索ワード」で探し出せるようインデックスして書きためる。この単純な記憶のアウトソースは、ヒトの知識量とそのあり方激変させた。

 「情報世界」における検索エンジンの仕組みは、ヒトの記憶力をアウトソースする。ネットワークを駆け巡るソフトウェアボットとヒトエンジンを使って、膨大な玉石混合のコンテンツを評価選別して集め、「検索ワード」で探し出せるようリストアップする。この単純な記憶のアウトソースは、ヒトの知識量とそのあり方を激変させた。

 ヒトは、無数にあるコンテンツの中から必要なものを探索して、自身の記憶のように想起するという脳力を手に入れたのだ。

 「検索ワード」から得られるコンテンツは、そのワードを大量に含み、人気があるベストコンテンツにバイアスされ絡めとられていく。ヒトが持つ関連や連想の記憶をもとに、ロングテールと呼ばれる広範囲な、またはニッチな興味に対応するコンテンツを取得することが難しく、多くの価値あるコンテンツが生存競争に敗れ消えていく。

●お題

 ヒトの連想記憶をメタファーとして、「情報世界」におけるヒトのコミュニケーション能力(=情報探索能力)をたかめる道具(情報流通サービス)を提案する。


●材料・素材

○前提

・インターネットの通信速度とコンピュータの処理能力が大幅に高速化するが、それ以上にコンテンツ量が爆発的に増大する
・「リアル世界」でのグローバル経済の拡大、各国所得の平準化、世帯収入の低下、基本的な生活のためのコストの低下、余暇の増加により「情報世界」への依存度がいっそう高まる
・「情報世界」を中心とする知の貧富の格差が拡大する

○想定するプラットフォーム

 とりあえずインターネット&Webを想定

○ヒトエンジン

 コンテンツを生産し、類似するコンテンツ間にリンクをはり、コンテンツの評価を行い、アクセス履歴を生産するなどのヒトによる駆動力(コミュニケーションによって借りることができる他者の力)をヒトエンジン呼ぶこととする。定型演算処理が得意な演算エンジン、パターン認識が得意なAIエンジンとともに「情報流通サービス」を支える駆動力となる。本節では特にヒトの連想力を活用する。

○距離をつくる

 コミュニケーションは、距離のある世界において成立する。歩いて相手に近づく、太鼓で遠くの仲間に危険を知らせる、相手を指定して電話で遠隔に通話する。

 「情報世界」のコンテンツは無限にフラットにそこにあり、距離のない世界に距離をつくるところからコミュニケーションが始まる。検索エンジンは、「検索ワード」を軸にコンテンツに距離をつくり、他からリンクされているもの、「検索ワード」を多く含むもの、アクセス数の多いものを近づける。


●アイデア編集

○アイデアを言葉で表現する

・ネーム(呼称): コネクティブ・ブレイン
・クレーム(短文): 
 「情報世界」におけるヒトたちの営みにより変化するコンテンツ間のつながり=連想記憶と、それが描く巨大な脳をヒトの情報探索に活用する。


●コンセプト編集

○着想:

■コンテンツの社会(見立て)
 コンテンツは、自身の生存のために関連する他のコンテンツとつながりたがる。ヒトのコンテンツを介したコミュニケーションにより、コンテンツ間につながりを形成して、強化・弱化しつつコンテンツグループを、やがてコンテンツの社会を構成していく。

 現状のコンテンツは非常にプリミティブな原始社会の段階にあり、コンテンツ間にはられたリンク、youtubeなどの舞台創造と閲覧の仕組み上のレコメンド、検索語にバイアスされたつながりに限定されている。

■連想記憶のモデル(知識のライン)[1]
 ミンスキーは、ヒトの心を役割をもつエージェントの集まりと見立て、記憶方法を知識ラインというモデルで表現した。

・学んだことの一つひとつを、初めて学んだエージェントたちに結びつけて覚えていると仮定する。
・何か良い考えが浮かんだり、問題を解決したり、あるいは忘れがたい経験をしたりすると、必ず、それを<表現する>ためのエージェント間のつながりの構造=知識ラインが活性化される
・後になって、その知識ラインを活性化させると、その知識ラインに接続していたエージェントたちが活性化され、心の<状態>が、前に問題を解決したときや良い考えが浮かんだときと同じような<状態>になる。これによって、新しいが似たような問題は比較的楽に解けるようになる。
・複数の知識ラインを組み合わせることにより、新しい知識ラインを組み立てることもできる。

Kライン

           知識ラインのイメージ

 六角形はエージェントを表し、それぞれのつながりが知識ラインである。例えば「凧あげをする男の子」という入力(凧=kP, 男の子=kQ)に対して、「凧」「糸」「空」「赤い」、「子供」「男の子」「帽子」などのエージェントに知識ラインをつなげる。


○コンテンツの知識ラインとは?(6W1H)

・いつ(When): ヒトがコンテンツを連続して閲覧したときに
・どこで(Where): 情報空間で
・誰が(Who): コンテンツが
・誰と(Whom): (同じ興味で)連続して閲覧されたコンテンツたちと
・何をする(What): つながる
・なぜ(Why): 再び似た興味で閲覧されたときに思い出すために
・どのように(How): ヒトがコンテンツを閲覧するたびに、コンテンツ間のつながりを知識ラインとして記憶する


○「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルでコンセプトを表現する

コンテンツの知識ライン:

■構成要素
・ミクロ: コンテンツ(ヒトを含む)
・コミュニケーション: ヒトが(同じ興味で)連続して閲覧したコンテンツ間のつながり
・マクロ: 複数の「コンテンツ間のつながり」が描くコンテンツグループ
・メタ・ネットワーク: ヒトが(同じ興味で)連続してコンテンツグループを横断して閲覧した際にコンテンツグループ間のつながりを生成、「コンテンツグループ間のつながり」が描く巨大な脳構造
・環境: リアル世界

■ネットワークの特性
・多次元性・多重所属: コンテンツは複数のコンテンツグループに同時に所属し、複数のヒトの興味に呼応して様々なコンテンツグループが多次元に形成される
・適応・動的特性: リアル世界のヒトの興味の変化に適応して、コンテンツグループが動的に変化する
・フィードバック・ループ: ヒトがコンテンツを閲覧するたびにコンテンツ間のつながりが変化しコンテンツグループを形成、コンテンツグループをヒトにフィードバックすることにより、ヒトの閲覧とコンテンツグループが互いに影響し合うフィードバック・ループを形成する
・可塑性と学習: コンテンツ間のつながりの記憶によりヒトの興味の変化を記憶し、コンテンツの一部の入力から関連するコンテンツグループの記憶を想起する
・恒常性・保守性: 似た興味のヒトの多数の閲覧にバイアスされ、コンテンツグループの構造を維持する力が働く 


●コンセプトの具体化(言葉で表現する)

 複数のヒトの連続するコンテンツ閲覧を「コンテンツ間のつながり=知識ライン」として記憶し、知識ラインをたどる間接的なコミュニケーション=連想による情報探索を可能とする情報流通サービス。


●製品具体化のヒント:連想レコメンデーション

○次世代技術の大前提

 30年後に活躍する技術のもととなる技術は、「今」必ず存在する。

○技具体化のヒント

 既存のデータベースエンジンを利用せず、あらたな整合性などにこだわらず、専用の分散処理、並び替えの仕組みを構築する。

■H1. 連想レコメンデーション
・要件: 1つのコンテンツを指定して、指定コンテンツ閲覧しているヒトたちが連続して閲覧したコンテンツグループを提案する。
・課題: amazonなどが実施しているレコメンデーションを情報世界全体に適用することとなり、利用者の名寄せと膨大な演算が課題となる。
・着想: 地域・サービス単位などごとに区画分散して演算し短期記憶として速報、情報世界全体とのマージは多層のバックグラウンド処理により徐々に実施。区画毎にサービスが異なることを許容する緩さが肝要。名寄せはGoogleのように1強状態となれば問題にならないが、サービス単位毎に異なる識別子を付与してもサービスへの影響は少ない。
・残課題: リアル世界の変化に動的に適応させるためには、時間による忘却、思い出しの仕組みを工夫できると良い。

■H2. 複数コンテンツによる連想レコメンデーション
・要件: 2つないし複数のコンテンツを指定して、想起されたコンテンツグループの重みにより並び替えて提案する。1つを軸にする場合とは別次元の要望表現能力を得る。
・課題: H1に加えて、複数の組み合わせに対するコンテンツグループをマージする必要があり、要求を受けたときに演算する部分が残る。また、使いやすい条件指定方法が必要。
・着想: 想起されたコンテンツグループから優先順位をつけて紹介するためには、正の整数のみを使った高速並び替えアルゴリズムの活用がヒントとなる。

■H3. パーソナルボットに連想探索依頼
・要件: パーソナルボットに条件を指定して情報世界に放ち、コンテンツラインをたどってコンテンツグループを散策して集め、評価した結果を持って帰る。
・課題: H1、H2に加えて、閲覧側とサービス流通側の処理分担、連携インターフェースが必要。
・着想: 2000年前後に行われた「エージェント指向」の研究開発を掘り起こしてみるといい。


●サービス応用: 連想で考えるということ

 コネクティブ・ブレインは、検索エンジンのようにWeb上で利用するだけではない。リアル世界、仮想世界と連携して、本や商品、建物や景色を指さして連想的に情報を散策する手段として生活に組み込まれるときに真価を発揮する

 マイノリティ・リポートのようなアイデアプロセッシング環境で、コンテンツをぐりぐりいじりながら、これとこれと指定してグワーっと広げると知識ラインでつながれたコンテンツが湧き出すように表示される。広げたり閉じたり、また次のコンテンツを選んで知識ラインの連鎖をながめてみる。コネクティブ・ブレインは、ヒトの知識ラインと連携してコンテンツの連鎖を飛び歩く、次世代の知的生産のエンジンとなる

マイノリティリポート

   映画:マイノリティリポート(2002)より

 「情報世界」におけるヒトとコンテンツの動的な相互作用は、連想記憶をアウトソースしてヒトとコンテンツの社会を構築する。そこにいたるコミュニケーションの進化の過程は、最新の脳モデル、経済社会モデルにヒントを求めると良い。

 ヒトの感情を励起して即応するしくみ、連想、類推、類型、イメージ生成、錯覚、ラベルと階層整理、言語文法の発生、自由競争、国家・政府、ヒトが進化の過程をへて構築してきた様々な編集の仕組みが糸口となる


 やがて「情報世界」はヒトとヒト、ヒトとコンテンツをつなぐ意味ネットワークを形成してコネクティブブレインとなり、ヒトとコンテンツの相互作用により単語のレベルではあらわれてこない様々な「見えない情報連鎖」をおこし、ヒトの思考をも情報世界にアウトソースして連携して思考方法をも変えてゆく。



参考書籍:

[1] マーヴィン・ミンスキー(1990), "心の社会", 安西裕一郎訳, 産業図書
Marvin Minsky(1985), "The Society of Mind", Simon & Schuster. Inc.
[2] 松岡正剛(2001), "知の編集工学", 朝日文庫


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