あとがき_『フューチャーリテラシー』
書籍『フューチャーリテラシー Futures Literacy 過去から未来へ,「可能性の未来」を読み解くために』からの抜粋です
あとがき
●本書がお伝えしたいこと
1)歴史を相互作用の流れとしてとらえる
私たちがふだん目にする書籍や記事では,インパクトのある表面的な部分だけが強調されていて,歴史のつながりや環境,他の因子と絡み合う相互作用としてとらえることが困難です。例えば,つぎのような。
前編では,9章に示すモデルを逆方向にはたらかせることにより,相互作用とネットワークとして物語ることに注力しました。過去の出来事を一点に集中してみるのではなく,物事がなりたつまでの必然,偶然,周囲の環境など,さまざまな因子が絡みあい,相互作用を繰り返して今があること,そして未来へつながっていくことを広い視野でとらえる。そして,歴史のつながりや,歴史の歩みを「脳」にきざみ,湧きおこる興味にしたがって「知」を探索することが,フューチャーリテラシーの基礎を構築する土台になると考えます。
歴史を総合的な視点でみる際に役立つ3冊をご紹介します。
2)「最低限の論理」をはたらかせて「未来を読み解く」
商用インターネットサービスが米国ではじまった直後の1990年代,筆者の所属していたNTT研究所では,高速通信が普及する「未来」に役立つネットワークサービスがもとめられていました。そして当時30代であった筆者は,未来ネットワークサービスのためのビジョンを何度も描き悩むとともに,「未来」を読み解く方法を学ぶための参考書を探しもとめていました。
本書は,筆者が学びたかった「未来を読み解く」ための基礎とプロセスを整理し,サンプルを例示しています。
あわせて「未来を読み解くための要素:①~③」を融合する思考プロセスのテンプレートとモデルを提案し,皆さんの「未来を読み解く」きっかけとして,そして参考書として活用いただけることをめざしています。少し面倒かもしれませんが,あらゆる学問と同様に,「未来を読み解く」ためにはある程度の修練が必用です。提案するプロセスを縦の流れとしてとらえるのではなく,各Stepを「たゆたう」ように前後左右にゆらしながら繰り返し思考・創発することによって,本質となる道筋・航路を見いだすことができると考えております。
●本書執筆にいたる経緯
1)Macintosh,HyperCard,アラン・ケイのオブジェクト指向
最初の契機は,1986年に7.3節~7.5節に登場する先見者たちの結晶であるMacintosh PlusとHyperCard,オブジェクト指向に出会ったことです。Macintoshとの出会いは衝撃的で,「モノ」と「ネットワーク」の相互作用で物事を考える下地をつくり,「未来」をより身近なものと感じられるようになった瞬間でした。
そして,Macintoshでは初の日本語音声合成アシスタントMackunとRPA(ロボット・プロセス・オートメーション)を搭載したハイパーカード型通信環境「Card Term with Mackun」(MACLIFE誌コンテスト優勝作品)をシェアウェアとして販売しました。朝,スケジュール管理と連動して音声で起こし,自動ダウンロードしたメールを読み上げ,電話帳から自動で接続するなどのマクロを搭載しており,「ハイパーアシスタント」とともにある未来シナリオを先取りしたものでした。
2)自己組織化と複雑系
つぎの契機は1995年ごろ,アーサー・ケストラーの『ホロン革命』との出会いでした。『ホロン革命』をきっかけとして,生命論・進化論パラダイム,自己組織化,そして複雑系へと生命,社会組織論,やや哲学などを読みあさり,総合学としての「相互作用」と「ネットワーク」思考の下地をつくりました。そして構築した未来シナリオをもとに,企業の自己組織化モデル,当時一般的ではなかったネットワーク利用履歴をベースとするパーソナル・アドバイザー(3D画像で会話)などを形にし,レコメンデーションエンジンAwarenessNetを商品化することとなります。
3)総合学としての生命進化論
本書の執筆のきっかけとなったのは,2017年の放送大学のテレビ講座,特に丸山茂徳氏が総合編集する「地球史を読み解く」を視聴したことでした。宇宙,地球史,地質,生命,人類を総合する学問としてまとめ,相互作用して共進化するさまをシステムとして学ぶことができる内容です(放送大学の講座は他にも総合学的なものが多い)。講座を視聴しながら,ふと,「あー,そろそろ未来を総合学として語っても良い時期がきたのではないか」と思いいたりました。前編を描ききれるかが未知数であり,前述したように「歴史を相互作用の流れ」として記述する参考書籍が少ないことに四苦八苦しましたが,なんとかまとめきれたのではないかと思っています。
4)Futurist(フューチャリスト)コミュニティ
2021年12月末,ブログでの草稿が終了し,そろそろ最新の技術・サービス動向をもりこまなければいけないという段階になったところで,ちょうどタイミングよくFuturistコミュニティのSho T氏よりお声がけをいただきました。
Futuristコミュニティは,宇宙開発,AIからWeb3,ときに宇宙生物学などの幅広い専門メンバー(高校生~30代がメイン)がつどう若い集団で,SlackやTwitter,YouTubeで海外の最新動向や持論が飛び交う場であり,本書を仕上げるには願ってもない環境でした。
Sho T氏は「フューチャーリテラシー」をキーに検索して,筆者のブログの記事をみつけて下さったとのことで,よくぞ思いついたものだと驚いたり,感謝したり。本書のうち,特に「100年ロードマップ」については,Sho T氏と毎週3時間声を荒らげながら骨子をつくり,最低限の論理をはたらかせて未来を読み解く「Futures Thinking(未来思考)」シリーズとしてWebページに連載したものです。
最後になりますが,伊藤穰一氏,落合陽一氏,佐藤航陽氏の著書やブログに知見や刺激をいただきました。記して感謝いたします。
また,松岡正剛氏の「編集工学」は,筆者の「未来を読み解く総合学」へのアプローチに多大な影響を与え,特に専門外の参考書を探索する際の助けになりました。氏の『知の編集工学』『知の編集術』『情報の歴史』「松岡正剛の千夜千冊」(https://1000ya.isis.ne.jp/)なくしては,本書をまとめきることはできませんでした。深く感謝いたします。