見出し画像

知的生産のための道具:MacとHyperCardの描いた小世界

 それは、未来につながる「新しい言葉」の始まり、言語を描くためのキャンパスだった。

●MachintoshとHyperCardの描いた小世界

 2人のアーティスト、スティーブン・ジョブズビル・アトキンソンらの手によりAltoを道標としたMachintoshが(1865年)、ハードディスクを搭載したパーソナル・コンピュータMachintosh Plusが発売され(1986年)、さらにマルチメディア・オーサリング環境HyperCardが搭載される(1987年)。

【Machintoshの小世界】

 ヒトは、複雑な世界で生きるために新しい事象に出会うと、「アナロジー」で理解・学習し、世界もそれに応える。Machintoshの「デスクトップ・メタファー」もまた、何をすればいいかを我々に語りかける。常識が通用する一貫した「メタファー」で表現されるオブジェクトを縦横にリンクする仮想世界、それがMachintoshだ。ワープロ、ペイント、ドローを標準搭載し、それ以降開発されるアプリケーションもすべて一貫した思想・操作で提供された。

 <常識が通用する、全部がつながる>
・ドキュメントはフォルダに束ねられるし、文字も絵も図形も全部ドキュメント。ドキュメントを開けば、アプリケーションなんて指定しなくても読み書きできる。机の上に複数のドキュメントを開きっぱなしに置いておける。
 ・ドキュメントもフォルダもゴミ箱に捨てられる、ゴミ箱中はゴミの日に空にするまで残っている。
 ・プリンタは、アイコンをSystemフォルダに入れるだけで使えるようになる、ファイルをプリンタの上に重ねれば印刷できる。
 ・ワープロで書いたテキストも、他のアプリケーションで書いた絵も、図形もハサミで切って貼り付ければいい。音声だって動画だって同じだ。
 ・ちょっと現実にはない魔法もある。「Undo(やり直し)」だ。間違えたら1回だけ時をもどせる。

 オブジェクト仮想世界のメタファーは、マンマシン・インタフェースだけではない。アプリケーションもオペレーティング・システムもオブジェクトと、オブジェクトの間の相互作用で表現される。

画像1

ウィキペディア(Wikipedia) "Macintosh plus"(2020,12/12)より


【HyperCardの小世界】

 HyperCardは、アラン・ケイの考えたコンピュータ・リテラシ-(読み書き能力)のメタファー[1]とパパートの小世界(マイクロ・ワールド[2])、テッド・ネルソンハイパーテキスト[3]を誰でも使えるシンプルな形で具現化したマルチメディア・オーサリング環境だ。カードの上にフィールドやボタンを配置し、カード間をリンクでつなぎ、カード・フィールド・ボタンに直接HyperTalk言語で動作を記述する。

 音や音楽、絵を描き、テキストを記述する。クリックすれば動き出す絵本、百科事典、アドベンチャー・ゲーム、教科書を触ったその日から創作できる。初心者が自由に扱える簡易性だけでなく、オブジェクト指向、他言語で関数を拡張、HyperTalk自身をHyperTalkで書き換えて実行するなどプログラミング・プロフェッショナルも唸らせる魅力があった。

 主婦、学生、教師、デザイナー、ミュージシャン、漫画家、サラリーマンそして子供たち、プログラムを経験したことがない人たちが、自分たちの生活を楽しむために作品を手作りする。MacLife誌がHyperCard発売の数ヶ月後に開催したコンテストでは、音声ロボット&通信環境、幼児向けゲーム&動く絵本、家計簿、易、妊娠知恵袋、絵描き歌絵本、迷宮探検ゲーム、科学実験教材、シンセサイザーコントローラ、算数教材、医療外来会計、本と料理のデータ帳など多彩な作品の応募があった。

Hypercardコンテスト

"スタックウェア・コンテスト応募作品より", MAC LIFE No.11, p71

 Machintoshは、複雑系の世界をメタファーで表現できる、「表描文字※1」とそれを描く(かく)ための最初の環境だった。そして、デスクトップ・メタファーが残り、オブジェクト指向は複雑なJavaの世界に、HyperCardはプログラムが困難なWeb世界に呑み込まれていった。

※1.「表描文字」:「表意文字」からの造語。詳細は未来編で。

参考書籍:
[1] アラン・ケイ(1992), "アラン・ケイ", 浜野保樹監修, 鶴岡雄二訳, アスキー出版局
[2] シーモア・パパート(1982), "マインドストーム :子供, コンピュータ, そして強力なアイデア", 奥村貴世子, 未来社
- Seymour Papert(1980), "Mindstorms :Children, Computers, and Powerfull Ideas", Basic Books, Inc
[3] テッド・ネルソン(1994), "リテラリーマシン :ハイパーテキスト原論",竹内郁夫, 斉藤康己監訳, ハイテクノロジ―・コミュニケーションズ訳 , アスキー出版局
- Theodor Holm Nelson(1987), "Literary Machines", Published by author


いいなと思ったら応援しよう!