【閑話】:ヒトと道具の共生って?メディア論おさらい
「ヒトと道具の共進化」がヒトを進化の枝から分岐させ、「脳と道具(メディア)の共進化」「言葉と脳の共進化」がヒトの「思考」を変化させる。「ヒトと道具(言葉)の共進化」は「文化」をつくる。世代を超えて「文化」を伝える遺伝子として「ミーム」を提唱したドーキンスの着眼点に今更ながらに唸る。[3]
整理してみよう
【ヒトと道具の共進化】
・ヒトは環境変化に「道具」を発明・改良して適応する。
・「道具」は「文化」を形成し、世代を越えて伝えられる。
・「道具」は、利用の学習により「脳」の思考方法に変化を与える。思考方法の変化も世代を超えて伝えられる。
・「道具」によって変化した「思考」によって、新たな「道具」を生み出し、「道具」と「脳」はフィードバック・ループを形成して「共進化」する。
【脳と言葉の共進化】
・「言葉」は「脳」内で意識や論理的な思考を行うときに使う。だから、「言葉」の語彙と文法は、直接「思考」に影響を与える。
・「言葉」による「思考」は、非意識や暗黙知にも影響を与えて、記憶・想起される。
・ヒトは環境変化に合わせて「言葉」を改良し、ヒトと「言葉」はフィードバック・ループを形成して「共進化」する。
【声の言葉と書く言葉】[4][5]
・「声の言葉」は、聴衆を対象とし、周囲の環境に影響を受け、発するとすぐに消えてしまい、保存することができない。このため、記憶に残り、語りついでいくための工夫がこらされた。アーティスティックで演劇的な手法だ。
・「書く言葉」は、アルファベットの誕生と、活版印刷の発明により急速に広まり「読む言葉」の文化を退け、「思考」方法を急速に変化させる。
・黙読は、論理的、要素還元的、記述的な思考方法を植えつけ、近代の科学や数学などを発展させた。
・一方で、暗唱的な「記憶」能力、美意識による「直感」、論理的に記述しがたいアーティストとしてのバランス感覚を弱体化させる。
「ヒトとコンピュータの共生」を推進した、リックライダー、エンゲルバートやアラン・ケイが「ヒトとコンピュータの共進化」や「道具と思考の相互作用」を十分に認識していて[6]、さらにアラン・ケイはコンピュータ時代の「書く言葉」が「プログラムのようなもの」になるとさえ考えていた[7]。
生まれた時からテレビを見て育ち、インターネットやゲームに時間を費やして、本を読まない(読めない)ヒトが急激に増加している[8]。つづく未来がどのようなものになるのかについては、未来編でいっしょに考えてみたい。
参考書籍:
[1] M.マクルーハン(1986), "グーテンベルクの銀河系 :哲学人間の形成", 森常治訳, みすず書房
- Marshall McLuhan(1962), "The Gutenberg Galaxy: The Making of Typographic Man", University of Toronto Press
[2] アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社
- Antonio Damasio(2018), "The Strange Order of Things: Life, Feeling, and the Making of Cultures", Pantheon
[3] リチャード・ドーキンス(2006), "利己的な遺伝子", 日高敏隆, 岸由二, 羽田節子, 垂水雄二訳, 紀伊国屋書店
- Richard Dawkins(1976/1989), "THE SELFISH GENE(30th anniversaty edition", Oxford University Press
[4] ウォルター・J・オング(1991), "声の文化と文字の文化", 桜井直文, 林仁正寛, 糟谷啓介訳, 藤原書店
[5] エリック・A・ハヴロク(1997), "プラトン序説", 村岡晋一訳, 新書館
[6] 西垣通(1997), "思想としてのパソコン", NTT出版
[7] アラン・ケイ(1992), "アラン・ケイ", 浜野保樹監修, 鶴岡雄二訳, アスキー出版局
[8] ニコラス・G・カー(2010), "ネット・バカ :インターネットがわたしたちの脳にしていること", 篠儀直子, 青土社
- Nicholus Carr(2010), "The Shallows :What the Internet Is Doing Our Brains", W W Norton & Co Inc