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「仮想世界経済」の誕生
-- 30年後の未来を読み解く第三弾 :物語を紡ぐ(準備編) --
時代の転換点において立ちはだかる「巨大な壁」、壁の中で広がる複数のネットワーク、「巨大な壁」を破壊する突破口、その先に広がる未来について考えてみる。
我々が常識と考えている科学も、論理的な思考法も、経済も、ここ数百年のできごとにすぎない。我々は、常識にとらわれやすく、かつその常識をいとも簡単に塗り替えてしまう。
ゲームや一部のマニアのためと考えられていた「仮想世界」が、「リアル世界」の生活や仕事の一部となろうとしている。
2021年10月28日Facebookは社名を「メタ」に変え、ビジネス向けの「仮想世界」構築に本腰をいれることを宣言した。ヒトのコミュニケーション空間は、「リアル世界」「情報世界」に続く「仮想世界(メタバース)」によって多次元空間へと広がっていく。
本節では、「課題設定」「アイデア編集」「コンセプト編集」というアイデアプロセッシングの手順を崩して、直感により設定した課題(仮説)にいたる物語を紡いでみる。
●課題設定
「仮想世界」の経済コミュニケーションを循環させる
●背景
歴史が大きく転換するとき、推進力となってきた文化の前に【巨大な壁】が立ちはだかる。【巨大な壁】の内側では、ネットワークが広がりプラットフォームをつくり、次の時代に向けた準備を進める。本書で扱う文化とは、ヒトが自身の能力をアウトソースするための次世代に向けた記憶であり、本節では主に資本主義経済とそれをささえる仕組みや技術・知識、中央集権で統治する国家のあり方、社会習慣・規範を指す。
◯グローバル資本主義社会にたちはだかる【巨大な壁】
交通・通信インフラの進化がヒト・モノ・情報(知恵)の交換を高速化し、グローバル資本主義の裾野を大幅に広げる。安価な労働力を求めて業務プロセスを分断・断片化し、労働力を世界に分業して再編集するオフショアを進め、新興国と先進各国の賃金がフラット化に向かう。新興国が先進国のパイを奪い大きく躍進し、2021年のGDP順位は米国、中国、日本、ドイツ、英国、インドとなる。グローバル化とフラット化は、今後ますます広がっていく。
資本主義企業は先頭をきって特許を取得して、当該分野での収益の独占を狙うのが定石だ。インターネットが、無料化、オープン化というカルチャーを生み出し、すべての常識を破壊してマネーゲーゲームの余剰資金を吸い上げる※。
※消費経済を大きく上回る資産経済(お金がお金を生む経済)
1割の消費経済の上に9割の資産経済が乗り、それが生む余剰資金がオープン化、無料化ビジネスを支える。
Googleは先進サービスを次々と無料で提供し、Amazonは送料無料で翌日配信という信じられないビジネスを展開する。無料・オープンというビジネスの流れは、技術を囲い込む戦略を破壊する。そしてオフショアもまた、技術の囲い込みを困難にする。
2000年と2021年の世界時価総額ランキングは次の通りだ。
世界時価総額ランキング【2000年】
1位 ゼネラル・エレクトリック:総合電気
2位 エクソンモービル:総合エネルギー
3位 ファイザー:医薬品
4位 シスコシステムズ:コンピュータネットワーク
5位 シティグループ:金融
6位 ウォルマート:スーパーマーケット
世界時価総額ランキング【2021年】
1位 マイクロソフト: ソフトウェア
2位 アップル: デジタル家電
3位 サウジアラムコ: 石油
4位 アルファベット(Google): インターネットサービスなど
5位 アマゾン: 電子商取引、クラウドなど
6位 メタ・プラットフォームズ(Facebook): インターネットサービスなど
インターネット以降に成長したGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)が上位をしめる。
○【巨大な壁】壁の内側で広がるネットワーク
地上に張り巡らされたインフラが、グローバル企業を支える。古いインフラをプラットフォームとして、仮想ネットワークが構築され中央集権から自律分散へと移行する。
通貨のプラットフォームの上に構築されたクレジットカードやプリペイドマネーが、物理的なマネーを仮想化させる。金融商品の仮想ネットワークが広がり新しい信用取引をネットワーク上に重ね、不定期にサブプライムローンなどの恐慌をくりかえしながら金融ネットワークを複雑化し続ける。
インターネット上にWebリンクネットワークが網の目のように広がり、その上にGoogleの検索エンジンがキーワードをベースとしたメタリンクを張り巡らす。Webをベースとして複数のアプリケーションが構築され、舞台創造と閲覧の仕組みの上で書籍、場所、音楽、絵、ファイル、生活などの物理的な文化をデジタル化して多次元につなぐ。
すべてが複雑に張り巡らされたデジタルネットワークの上に乗り、リアルなモノやマネーの価値を見直す必要にせまられる。
○【巨大な壁】に【突破口】をうがつ
資本主義の【巨大な壁】を前にして、【壁】をつきやぶる様々なトライアルが繰り返される。
セカンドライフ(2003年〜)が実現した仮想世界は、土地(=処理能力)に裏打ちされたリンデンドルを発行し、ゲーム内での服、家具、建物、武器や音楽などのアイテムをつくって販売する仮想経済を巡回させる。リアルビジネスの広告としてイベントを開催し、リンデンドルとアメリカドルの取引相場を公開して人工的な経済と現実の経済をつなぐことに成功したが、スマートフォンにおけるnewtonのように早すぎるトライアルとなる。セカンドライフがつくりだした文化は、フォートナイト、集まれ動物の森、VRChatなどのトライアルへと引き継がれていく。
賃金の低下をきっかけとする、フリマなどの物々交換ネットワーク、所有物を共有したり貸し借りをするシェアリングエコノミー、一定期間利用料を支払うサブスクリプションがモノの消費によらない文化をつくり、Uber Eatsがヒトを商品として流通させる。
分散した演算ネットワークによって監視される仮想通貨が、演算サーバの拡張と継続的な投資の仕組みによって中央集権によらない通貨の発行と利用を実現する。仮想通貨の仕組みは、希少価値や芸術価値をもつデジタルアイテムの信用取引をも可能とする。
ディセントラランド(Decentraland)は、仮想通貨イーサリアムをベースとするトークン(Mana)を利用するメタバースであり、仮想空間内のアイテムをNFT(Non Fungible Token)でつくられ、デジタル絵画や所有権を取引するNFTマーケットで売買できる。仮想通貨による複数のゲームとの提携も進んでいる。
そして、コロナ禍がリアル空間のコミュニケーションに小さな穴を開ける。物理的なつながりが困難になった世界で、世界中の子供から大人までが、オンラインの授業や会議、会食を体験する。コンピュータに慣れないものたちが、オンライン会議に参加する壁がいっきに緩和される。子供にころの体験が、未来社会の構築に大きな影響をを与える。コロナ禍が過ぎたあとにリアルのコミュニケーションにもどる一方で、在宅勤務が見直され、ワークライフバランスの名のもとにオンラインコミュニケーションを積極的にとりいれる企業が増えていく。
Facebook社が「メタ」に社名を変更し、Microsoft、ディズニーや多数のスタートアップが企業用・娯楽用のメタバース・ビジネスに参入する。
リモート会議、テレワーク、スマートシティ、VRゲーム、スマートグラス。【巨大な壁】前で複数の変化が蓄積して小さな穴を拡大し、いっきに壁をつきやぶる。
●メタネイティブの時代
○メタネイティブへの変化
「リアル世界」を軸足とするVR/ARのトライアルがメタネイティブ世代をつくり、「仮想世界」への足がかりとなる。
VRゴーグル価格の低下、VR/AR開発プラットフォームの普及をバックボーンとして幻想世界を実体験できるキラーアプリが登場し、多人数型VRゲーム世界に長時間滞在するものたちが増加する。暗号通貨型ゲーム内トークンとスマートグラスの普及がマルチバースゲーム参加の敷居を下げて、仮想世界でのレクレーションをディズニーランドを越えるものとして一般化させる。
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映画「レディプレイヤー1」, タイ・シェリダンより
リアル店舗に足を運ぶ必要のないVRショップもまた、メタバースの普及を後押しする。身長や体型を登録しておけば試着も可能だ。物理的な移動を必要としないため、1日で多数の店舗でショッピングできる。
物理実験や、薬品候補の絞り込み、建築試験など費用と時間のかかる物理的な試験・実験を「仮想空間」にうつすことにより、「リアル空間」での費用と作業を大幅に短縮する。なにより、試験・実験の環境とデータをオープン化して共有することにより、技術の進歩が加速度的にアップする。
メタバースの名のもとに始まったオフィスワークの仮想化が、ワーキングスタイルの一つとして定着していく。物理的なオフィスを持たず、「仮想世界」だけで雇用する企業も年々増え続ける。現実世界での対話が重要だと考える旧世代を尻目に、メタネィティブたちは「仮想空間」でのコミュニケーションに抵抗はなくむしろその効率性を最大限に活用する。
○メタネイティブたちの時代
学生時代にインターネットを利用したデジタルネイティブが40代をむかえ、小中学校からスマートフォンとSNSを使い、時間の多くを「情報世界」と「仮想世界」に生きるメタネイティブたちの時代。
世界規模でフラット化に向かう資本主義社会が、先進各国の低賃金化を加速する。
ロボットなどによる業務の自動化が、衣食住を限界まで低コスト化する。ベーシックインカムなどの収入により、ベッドと机、AR・VR操作や運動をするスペースがあれば快適にすごす衣類と栄養のある食事を獲得できる。情報も知識も「情報世界」から低価格で取得可能だ。
低賃金化と低コスト化は、「リアル世界」を消費低迷へと導く。
業務の自動化は、24時間時分割マルチタスクで業務をこなすスーパーエリートと、最低限の衣食住を獲得するために働くベースワーカーとに2極化させる。
そして、
メタネイティブたちのライフスタイル:
『生きがいや、レクレーションや、贅沢は「仮想世界」で!』
というライフスタイルが誕生する。
「リアル世界」は、「情報世界」と「仮想世界」へのインタフェースの提供を余儀なくされ、リアルの店舗や銀行がなくなり、生活と仕事の主体が「情報世界」と「仮想世界」が提供するプラットフォームへと移行して、表裏を混在、逆転させていく。
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参考書籍:
[1] 落合陽一(2018), "デジタルネイチャー : 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂
", PLANETS/第二次惑星開発委員会
[2] 佐藤航陽(2017), "お金2.0 :新しい経済のルールと生き方", 幻冬舎
[3] モリス・バーマン(2019), "デカルトからベイトソンへ :世界の再魔術化", 柴田元幸訳, 文藝春秋
Morris Berman(1981), "The Reenchantment of the World", Comell University Press.