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行動経済学から読み解くコミュニティ論

人は個人としてのアイデンティティの他に、社会的なアイデンティティを持ち合わせています。

社会的なアイデンティティは無意識のうちに、自然に生まれ、周りの把握の仕方や、他人への判断、自分自身や自分の行動など、多くの面で影響を及ぼしており、これらは脳の精密なシステムによって形成されています。
 
トルコの社会心理学者、ムザファー・シェリフによる社会実験ではアメリカのサマーキャンプに参加した12歳の子どもたち20人を被験者に集団規範に関する実験が行われました。
 
被験者20名は互いのことは知りませんでしたが、年齢はおよそ12歳であり、同じ宗教(全員がプロテスタント)と社会階層(ミドルクラスで成長した)でした。
 
シェリフらは子供たち20名をランダムに2つのチームには分けて、対抗意識に仲間意識に火をつけるべく、スポーツの試合や賞のカップで彼らの対抗心を煽り、1つしかない空き地の利用をめぐって争わせるなどの実験を行いました。
 
チームはたちまちに対立するアイデンティティを身につけ、数日後にはフェアプレーはなくなり、互いのチームの罵り合いや足の引っ張りあいが始まり、それらの行為に対する報復合戦がはじまりました。

そして最後にはそれぞれのグールプから食事を別の部屋にして欲しいとの提案が主催者にありました。
 
どちらのグループも、相手のグループに対するステレオタイプの否定的感情を育てていき、自分たちのグループこそ善良で正しいと主張して、相手を低く見て、自分たちのイメージを高めるという自己満足のトラップにハマっていました。
 
こうした野外実験の結果からシェリフらはある程度の条件が整ったときには、ある人が自分の集団とは別の集団に属しているという理由だけで、その人を憎んだり、対抗意識を燃やしたりすることを明らかにし、その種の憎しみが「避けがたい」ということも明らかにしたのです。
 
他人への敵意や軽蔑は、自分の属する集団のアイデンティティやプライドを高めたいという欲求から生まれ、乏しい資源をめぐる競争の必要性が高いほど、衝突は激しくなり、相手方への反感も強くなるのです。

対立の解消

 ここからシェリフらはさらに実験をすすめ、ライバル意識を鎮める(仲直りさせる)ためにいくつかの課題を行いました。

その中でもっとも成果があったのは「共通の敵と目的」を与えたことでした。
 
実験では「誰かわからない外敵者のせいで、空き地の水道管が故障して水が出なくなった」という情報を流して、各グループの4名が空き地の水道管を調べることになりました。

彼らは互いに協力して、水道管を調べて、小さなビニール袋が水道管に詰まっているのを発見し、4人ぞれぞれが手を貸してそのビニールを取り除きました。

水道が開通すると、互いに喜び、また一方のグループが持っていた水筒を敵対するグループにも回して、水を分け合ったりする光景も見ることができました。
 
その後すぐには対立はなくなりませんでしたが、いくつか共通の問題を解決するために協力を余儀なくされているうちに、対立は少なくなり、グループではなく個人個人が偏見に左右されずに自分なりに考えて行動すふようになったために、グループを超えて仲良くなる人たちも出てきました。
 
このシェリフの実験から集団はまたたく間に無意識のうちに形成され、ある集団に属しているということが、他人への理解に影響を及ぼし、自分の行動にも影響を及ぼすことがわかりました。
そして、共通の目標を持つことによって、対立も反感も解くことができることも同時に示したのです。

集団規範の利用

ある特定の集団の中でその構成員が主に共有する行動や判断の規則や基準、準拠枠のことを「集団規範」といいます。

集団を目的達成に向かわせる枠組みとして、集団の持つ同調性、凝集性の高さが強固な「集団規範」をつくります。そしてこの「集団規範」による「集団思考」は個人の知覚や判断、評価、感情にも大きな影響を及ぼし、宗教戦争やスポーツにおけるファンの対立などこれらが基になっている対立は枚挙に暇がありません。
 
以前ご紹介した「イゾラド」など文明に触れない未開の先住民族などは共通の言語によって仲間か仲間ではないかを判断し、仲間と認知されなければ「信頼できない悪者であり、敵」とみなされ攻撃の対象になります。
 
これは「生物」として未知の者が危険かどうかを即座に判断するための能力であり、この能力が自分の生死を分けることもあるため、現代までに遺伝・継承されたミーム(文化的遺伝子)であるといえます。

自分たちのコミュニティを守るために

 さて、私たちはこれらの実験から何を学ぶことができるでしょうか?

インターネットが拡がったことにより、さまざまな情報が簡単に手にいれることができるようになり、多様性の理解が進むと思われましたが、 実際にはその逆で、自分の思想や理想に合う情報ばかりを集めて、同じ考え方の人々がより結びつきやすくなり、コミュニティを形成するようになりました。

そして、異なった思想を持つコミュニティ同士の対立はますます顕著に現れるようになったと思います。

自分達のコミュニティを守るためには、異なった意見を持つコミュニティを排除する、果たしてそれが正解なのでしょうか?

対立は生物学的に考えれば、限られた資源や領土を奪い合って生き残るといった生物の原則に則っているだけであり、仕方ないことでもあります。

しかしながら、多様性は時代の変化に合わせ生き残るためには必要であり、異なるコミュニティはもちろん、自分の所属するコミュニティの中にもいろいろな価値観や思想があった方が、コミュニティを強くすることになると私は思います。

もっと大きな枠組みの中で様々な価値観や思想を育てていくことが、時代の変化に合わせて、波に乗り続けていくためには必要であり、これがダーウィンが示した生き残る術だと思います。

最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。
唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。
チャールズ・ダーウィン(生物学者)

自分が大切にしているコミュニティだからこそ、多様な考え方や思想を受け入れ、時代に合わせてアップデートを繰り返していくことが、コミュニティが長く、愛され、生き残る秘訣だと思います。

先の実験では「手を繋ぐ」方法も示されていました。
 
もっと大きな枠組でみたときに、共通の敵は何でしょうか?

共通の目標とは何でしょうか?

自分が所属しているコミュニティについて少し考えてみると良いと思います。

自分が所属している集団やグループが自分の思考や行動にどのような影響を与えていて、自分の思考がどのようなトラップにかかっているのかをメタ認知してみると、様々な「気づき」のきっかけになるかもしれません。
 

たまには自分にとって心地のよい文面や言葉から抜け出して、苦手だなと思うような人の記事やツイッターをのぞきにいくのも良いでしょう。

意見の衝突や相違は決して気持ちのよいものではありませんが、自分に新たな視点を与えてくれ、そしてコミュニティを強くするための貴重な意見だということを忘れないようにいたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。


本日の参考図書
マッテオ・モッテルリーニ「世界は感情で動く 行動経済学からみる脳のトラップ」

#行動経済学  #コミュニティ #適者生存 #ダーウィニズム #推薦図書 #人文社会科学


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ふつうのひと@理学療法士_JSPO‐AT
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