私はりんごの皮が剥けない
母はなんであんなにスルスルと剥けるんだろう。私はりんごを前にするといつも思う。
剥く時、親指で皮を押さえるじゃない?その時にざっくりいっちゃいそうで、怖くてできない。
大学生で1人暮らしを始めて、ほぼ1から料理を覚えた。今は、レシピさえあれば大抵のものは作れるし、それなりに手際良くできる。でも、どうしても皮剥きだけはできるようにならなかった。
もちろん、大根もじゃがいもにんじんも剥けないけど、それらはピーラーでひゅんひゅん剥く。でも、なんとなく果物はピーラーで剥いちゃいけない気がする。だから、ずっと食べたかったけど、買わなかった。
でも、つい魔がさした。スーパーに並んでるりんごを見ていて、品種と産地と値札なんかを読んでいたら、なんだか久しぶりにどうしても食べたくなった。
色んなりんごが並んでいて、どれが今まで食べてきたやつか、または食べたことのないやつかわからなくて、1個だけ色の違った王林を買った。
帰って彼に渡す。
「りんご買ったの!剥いて!」
「あら〜青りんごにしたの。いいよ〜」
あっさり快諾してくれた。
夜、食器を洗いながら彼が剥いてくれるのをそっと覗き見る。
えっ!
包丁を5本の指できゅっと握ってる。それなのに、なんとも器用にスルスル剥いている。
お節介にも、
「本当の剥き方、知らないの?」
って聞いてみたら、
「親指切っちゃいそうで怖いでしょ」
って。
あぁ、おんなじ人がここにもいた。私だけじゃないんだって、何をかは分かんないけど、とくかくなんか安心した。
そうやって、ヘンテコな剥き方で剥かれたりんごは、私の提案で輪切りにされた。最近Twitterで見て、やってみたかったから。
芯のところが星マーク⭐︎になっていて可愛かった。
ヘンテコな剥き方で剥かれて、変わった形に切られたりんご。久しぶり食べるりんごは、とっても美味しかった。
よくよく考えてみると、別にりんごって、切り方なんてなんでもいいんだな。安全に、美味しく食べれたらそれで良い。世の中の基本通りじゃなくたって、自分流だったって。
何もするのにも、お手本通りに、見本通りに、基本に忠実に、なんて気持ちでいたら、気疲れしてしまうものね。
諦めてたあれこれが、ちょっと近くに感じた夜だった。
またりんごを買ってくるから、今度もあの剥き方でスルスル剥いて見せてね。
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