【あれこれ】聖夜の盗み聞き集
月間連載、僕の担当日は毎月25日です。
来たる12月25日。この日に寄稿するために枠を作ってもらったといっても過言じゃありません。今までの文章は伏線でした。街は色めき、人々は身を寄せ、近所のセブンイレブンはオレンジと緑のネオンが光っています。ショーウィンドウに並ぶ、高島屋みたく潰れていないケーキを横目に、ほら…いま空から鈴の音が……
ということでぜんぜん関係ない話しますね。若いうちはスカしてなんぼです。大人になって後悔するまでがワンセット。現代の様式美。
言っても最近バイトしかしてません。カフェでのアルバイトか、部屋で育つ豆苗を眺めているくらい。豆苗って、あれすごいですね。初めて買ってみて初めて育ててるんですけど、1週間たったあたりからにょきにょき伸びる。でも昨日、場所移したら図らずも暖房直当たりでシナってました。これはこれでオブジェ。
なので今回はバイトの話。僕は某カフェチェーン店でアルバイトをしています。全国展開しているようなところ、たぶん。具体的な仕事内容は、いらっしゃいませをいっぱい言うかコーヒーを一杯淹れるか。たのしいお仕事です。特に僕は、『不登校引きこもり経験者人当たりの良さ選手権 ~回復から5年以内クラス~』の北関東代表なので、接客がすこぶる得意です。
いらっしゃいませ、こんにちは。何名様ですか?ではあちらのお席におかけください。3名様ご来店です、いらっしゃいませ。
偉そうに接客のコツを教えます。やっつけやマニュアルじゃなく、毎回新鮮に「こんちはー」「あ、3名なんだ~」「分かる。そのパンうまい」と本心でのリアクションとその翻訳ができれば自然と対応が丁寧になっていきます。コツ、といっておきながらノウハウじゃなくめちゃめちゃマインド論ですが、悪しからず。
話を進めます。で、今日するのは個人的に気になった人々のお話。ほんとは愉快なスタッフたち側でしたいのですが、面識ある個人の話を詳細にひけらかしても責任が取れないので、客席にいる見ず知らずの紳士淑女の、『たまたま』耳に入ってしまったお話をします。どっちがタチ悪いんだろう。
ある日、僕はコーヒーを淹れながら気づきました。野球やサッカーにベストナイン、ベストイレブンがあるように、うちでも「ベスト○○」つくれるくない?と。スポーツでは、ポジションごとに今季最もよかった選手を記者が投票し与えられるこの栄誉。僕が働く店には二人掛けから大きな席、カウンター等合わせて座席が28あります。つまりポジションが28ある。それぞれの席ごとに印象に残った人や話を独断と偏見で厳選して「ベストトゥエンティエイト」をつくろう!と、ひとりで盛り上がりながらコーヒーに保温用のフタをはめました。語呂悪いのはご愛敬。
さすがにまだ28ポジションは埋まっていません。ですが既にいくつかの卓でノミネート候補、もう受賞決めてもいいくらいの大物がリストアップされています。卒業までに全ポジ埋まるといいなあくらいの気持ちでやってる。
長い前振りはここまで。本題ここから。てなわけで私観で選んだ優秀選手をいくつか紹介していきます。
まずは8卓。60~70歳くらいのおじいちゃん2人組。仕事も退職して年金生活、することないなーって話。何か趣味はないの?という片方の問いかけに、問われた方はうーんとうなった後、「この年になっても胸張って趣味とか特技とかいえるものってないもんだね」と困ったように笑う。僕はそれを聞いて、そうなんだ!と思いました。だって大学生の発言みたいで。歳食えば自然と何か見つかるものだと高を括っていたので、そんな状態で50年生きることってできちゃうんだなあということになかなかショックを受けました。自分は何が好きか?から目を逸らしても人の役に立てたり家庭をもてたりする。いいことかもしれないけど、でもそれちょっと寂しくない?とか。趣味や特技は、胸を張る必要が、人から評価されるものにする必要があるのか、とか。若造が勝手に知ったようなこと言ってすみません。盾あげるんで許して。
次。13卓。ここは他より少し広い席。50代らしきシュッとした夫婦が二人で入店すると、「待ち合わせがあるので4名です」とのこと。先に来た二人は対面ではなく横並びに座ると、連れを待たずアイスコーヒーとサンドイッチを注文し、しばし歓談。30分ほどすると知った顔がが来店したのか入口に向かって手を振る奥さん。見ると20代後半の男女。娘による両親&彼氏の初顔合わせでした。わーと思って。わァ…。ちいかわみたいになる口元をマスクで隠しながらお冷とおしぼりを運ぶと、テーブルでは彼氏がガチガチになってお義父さんと会話してんの。茶化す彼女(娘)、乗っかるお義母さん。フゥン。これってつまり、僕も彼らの転機に同席してるってコト…!?映画なんかよりよっぽど臨場感あるライフストーリーを見させていただきました。ありがとう。盾をどうぞッ!
最後は3卓。客席までお冷を入れにまわった子が「シリアスな話してるとこに空気読まずお水ほしいか聞いちゃいましたよ…」と言っていたのでそちらを見ると、帽子をかぶった若い男とおばさんが。へえと思いながら近くを片づけるためにそのテーブルを横切ると、僕は全てを理解しました。完全に高校時代の自分だこれ。20前後に見える男の子は帽子を深くかぶってうつむき、静かに、でも明らかに泣いていました。向かいに座る女性(お母さん?)は、そんな男の子を説き敷くように、とても”正しそうなこと”を言っていました。「そんなんでやっていけるわけないでしょう」「思い付きで言ってるんじゃないの」「世の中甘くないよ」「もっと他にやり方なんかあるんだから」「面接だって今のままじゃだめ」。それを聞いて男の子はときおり力なく反論するものの、年長者の圧倒的な正論にあとが続かず下を向いて口を閉ざす。それを、15時から始めて、20時すぎまで。え、うそ、ここ6年前の自宅のダイニング?バックヤードの扉開けて出勤したつもりだったのに、どこでもドアとタイムマシン合成させたやつだった?おばさんと彼。父と僕。思い当たる節ありすぎる、全部。特に、目。いや帽子で隠れているから見えてないんだけど、見える。いっしょ。仲間。homie。ほんと、こっちも泣いちゃうかと思ったよ。というかちょっと泣いた。自分の過去を思い出して、じゃない。彼が自分と同じところに立っている気がして感動したから。肩くみたくなったよ。左手に盾持ってさ。
はい。ということで今日は以上!特に13卓と3卓は今後この机であれ以上のドラマ起きないだろうなーと思います。よきコレクションとして胸にしまいながらブランデーでもあおろう。またおもしろい話あったら更新するね。
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