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手加減無用鍋:美味と呪いの狭間にある禁忌の器具【#毎週ショートショートnote】

「手加減無用鍋」という奇妙な名前を耳にしたことがあるだろうか?
それは単なる激辛料理や大盛りチャレンジの話ではない。
実は、某地方の山間部に古くから伝わる“呪われた鍋”の物語なのだ。
その鍋を使った者は、美味を得る代わりに、必ず逃れられない不幸に見舞われるという。

この鍋の外見は一目で普通ではないと分かる。
鉄製の重厚な造りに、側面には奇怪な模様が刻まれている。
模様は古い文字のようにも見えるが、実際には「使った者の魂の痕跡」を刻むためのものだと噂されている。
少なくとも江戸時代中期から存在が確認されており、記録にはこの鍋にまつわる奇妙な事件が数多く残されている。

鍋の最大の特徴は、その料理の仕上がりだ。
驚くほど美味しくなると言われ、かつては旅館や村祭りの宴会で重宝されていた。
しかし、鍋を囲んだ人々に次々と不幸が訪れることが問題だった。
事故、病気、失踪——その内容は様々だが、共通しているのは「鍋を食べた全員が呪いから逃れられない」ということだ。

この呪いの根源は、「手加減無用」という名前そのものに隠されているという説がある。
江戸時代の文献によれば、この鍋は戦国時代に作られたもので、ある武将が兵士たちの士気を高めるために用いたという。
敵味方問わず、公平に食事を分け与えるために作られた鍋だが、その公平さが不気味な形で現れていた。
鍋は食べた者の「生命力」を吸収し、そのエネルギーを負の形で還元する仕組みを持っていたのだ。
こうして敵味方ともに呪いの餌食となり、戦場では不可解な死者が続出したという。

戦国の世が終わり、鍋は山間部の村人たちの手に渡った。
村祭りで鍋を使用すると、驚くほどの美味が振る舞われた。
しかし、奇妙なことに毎年必ず一人が祭りの後に命を落とすか、行方不明になる事件が続いた。
「神罰」だと恐れた村人たちは鍋を封印する決断をした。
鍋は山奥の祠に安置され、長い間その存在は忘れ去られていた。

しかし昭和に入ると、ある古物商がその鍋を発見してしまった。
彼は「珍品」として鍋を持ち帰り、都内の骨董品店で販売した。
ところが、鍋を購入したレストランでは、厨房で不可解な事故が相次ぎ、最終的に廃業に追い込まれた。
さらにオーナー自身も原因不明の病に倒れた。鍋は次々と買い手を変え、そのたびに同様の不幸を引き起こし、やがて行方知れずとなった。

そして現代——SNSの時代に再びその姿が現れた。
「この鍋で作った料理」として投稿する若者たちの姿が確認されている。
鍋の模様や特徴から、それが「手加減無用鍋」であることはほぼ間違いない。
投稿者たちは「とんでもなく美味しい」と評しているが、その後の投稿が途絶えるケースが多発している。
コメント欄には「連絡が取れない」「アカウントが消えている」など、背筋の凍る書き込みが並んでいる。

もし街の古道具屋やフリーマーケットで奇妙な鍋を見かけたら——
「絶対に手に取るな」と忠告しておきたい。
その鍋は、人の命と引き換えに“至高の美味”を与える、禁忌の品なのだから。
あなたの一瞬の好奇心が、取り返しのつかない運命を招くかもしれない。


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