だいたいニャー【毎週ショートショートnote】
町はずれの古びた一軒家。その家の住人がいなくなったのは冬の初めだった。この村では、彼が拾った猫の話がいまだに語られている。
三毛猫だったその猫は、普通の猫に見えた。ただ、鳴き声が変わっていた。「だいたいニャー」と、人間っぽい声を出すのだ。
男は最初この猫を楽しんでいた。「だいたいニャー」と鳴くたびに笑い、近所にも話していた。猫は「ニャー」と名付けられ、男の生活に馴染んだ。でも、餌を少ししか食べず、おもちゃにもすぐ飽きる癖があった。そして夜、窓辺で「だいたいニャー」と鳴き続けた。
その頃から、家の中で妙なことが起き始めた。時計がずれ、スマートフォンのアラームも狂い、配達は一日遅れる。友人が「時間がおかしい」と言ったが、男は「気のせいだ」と笑った。
だが男は気づいていた。猫が夜、窓辺で何かを待つようにじっとしていることに、不安を感じていたのだ。
ある夜、風が強く、家が軋む音が響く中、男は布団の中で眠れずにいた。暗闇の中、視線を感じ、目を開けると、猫が足元でじっと見つめていた。
「どうした、ニャー?」男が声をかけると、猫は低い声で「だぁい……たぁい……ニャアァアー……」と鳴いた。
その瞬間、部屋が激しく揺れ、時計が逆回転し、影が男を包んだ。影は冷たく湿り、生きているように動いていた。
「お前……何なんだ……」
男が震える声で問うと、猫が答えた。「だいたい、わかったろ?」
翌朝、家には誰もいなかった。残されていたのは猫の皿と壊れた時計だけだった。
その後、猫が戻ったという話はない。ただ、夜にその家の近くを通ると、「だいたいニャー」という声が聞こえるという。