
《使徒継承&按手》に関する神学的考察
1. 使徒継承の定義と神学的基盤
使徒継承(Apostolic Succession)とは、キリスト教神学において、初代教会の使徒たちから連綿と継承された教導権(magisterium)(*1)
および聖職権(hierarchical priesthood)(*2)を指す概念です。この概念は主にカトリック教会、正教会(オーソドックス)、聖公会(アングリカン・チャーチ)において中核的な教義として位置付けられ、正統性の保証として機能してきました。
*1-教導権(magisterium)は、カトリック教会における教えを決定する権威。
✦教導権の定義: 司教団が持つ、信仰と道徳に関する教えを決定する権威。
✦教導権の主体: 司教団(主にローマ教皇)と教皇庁。
✦教導権の役割: 信仰の保護、聖書の解釈、道徳的指針の提示、教義の発展。
✦教導権のレベル:
└通常教導権: 司教団が日々の生活の中で教える教え。
└至高教導権:
└教皇の単独教え (エクス・カテドラex cathedra/ローマ教皇が持つ最高権威): 例外的に、教皇が単独で教義を決定する場合。
└公会議の決定: 司教たちが集まり、教義を決定する。
✦信徒の義務: 教導権の教えを信仰と服従の精神で受け入れる。
✦教導権の意義: 信仰の統一性の維持、真理の保護、道徳的指針の提供。
✦教導権の課題: 現代社会との対話、解釈の明確化、権威への挑戦。
*2-階層的聖職者制度
聖職者の組織構造を指し、上から下へ権威と責任が階層的に分かれている。
✦明確な階層: 最上位には教皇や大司教、長老などがおり、その下に司祭、助祭、信徒などが位置する。
✦権限の差: 各階層の聖職者には、それぞれ異なる権限と役割が与えられ、上位の階層ほど大きな権限を持つ。
✦継承: 聖職者の地位は、任命や昇進によって継承される。
✦儀式と秘跡: 特定の階層の聖職者だけが、重要な宗教儀式や秘跡(洗礼、聖餐など)を執行できる。
教会内では、司教が按手によって次世代の司教を叙任することにより、使徒の教導権と聖職権が保持されるとされています。これにより、正統な教義の維持と聖礼典の執行が保証され、信仰の一貫性が確保されます。
使徒継承の根拠は以下の要素に基づきます。
キリストの授権: イエス・キリストは使徒たちを選び、彼らに権能を授け、世界宣教の使命を託しました(マタイ28:18-20)。
叙階と権威の移譲: 使徒たちは、次世代の指導者(司教)を叙階し、按手(imposition of hands)によって教会指導の権威を伝授しました(使徒行伝6:6, 1テモテ4:14)。
聖霊の導き: 使徒的伝統の継承は単なる制度的な継承ではなく、聖霊の働きによって保証されるものです(ヨハネ16:13)。
18 イエスは彼らに近づいてきて言われた、「わたしは、天においても地においても、いっさいの権威を授けられた。
19 それゆえに、あなたがたは行って、すべての国民を弟子として、父と子と聖霊との名によって、彼らにバプテスマを施し、
20 あなたがたに命じておいたいっさいのことを守るように教えよ。見よ、わたしは世の終りまで、いつもあなたがたと共にいるのである」。
6 使徒たちの前に立たせた。すると、使徒たちは祈って手を彼らの上においた。
14 長老の按手を受けた時、預言によってあなたに与えられて内に持っている恵みの賜物を、軽視してはならない。
13 けれども真理の御霊が来る時には、あなたがたをあらゆる真理に導いてくれるであろう。それは自分から語るのではなく、その聞くところを語り、きたるべき事をあなたがたに知らせるであろう。
2. 使徒継承の歴史的展開
使徒継承の概念は、初期教会において形成され、2世紀以降に確立しました。その証拠として、イグナティオスやクレメンスなどの教父文献が、使徒たちの権威が司教へと受け継がれていることを記述しています。特にエイレナイオスの『異端反駁』では、ローマ司教がペトロとパウロの継承者であることが強調されており、使徒継承が正統信仰の基準として機能していたことがわかります。
聖書的基盤: 使徒行伝1章では、イスカリオテのユダの後任としてマッティアが選ばれたことが記されており、使徒職の継承性が暗示されています。
教父文献の証言: 2世紀のイレナイオス(『異端反駁』)は、ローマ司教が使徒ペトロとパウロの正統な後継者であると述べ、使徒継承の概念を神学的に発展させました。
制度化の進展: 3世紀には司教職(episcopate)が明確に確立し、使徒継承の思想は教会組織の基盤として不可欠な要素となりました。
3. 使徒継承の神学的意義
使徒継承は単なる歴史的伝統ではなく、教会論的に重要な意義を持ちます。
教会の一致の基盤: 使徒継承は、教会が一つの信仰を保持し、分裂を防ぐための枠組みとなります。
正統性の保証: 使徒継承を持たない教会共同体は、正統な教導権を欠くと見なされます。
聖礼典の有効性: 使徒継承に基づく叙階を受けた聖職者のみが、正統な秘跡(特に聖体の秘跡)を執行する権能を持つとされます。ただし、プロテスタントの多くの教派では、使徒継承を必須の条件とは見なしておらず、信仰共同体の正統性は聖書の教えと信仰の告白によって保証されると考えられています。また、一部の聖公会やルター派教会では、使徒継承の要素を保持しつつも、厳格な制度的継承よりも信仰の継承を重視する立場を取っています。
4. 使徒継承に対する批判と課題
(1) 歴史的・実証的問題
使徒から現代に至る継承の途切れなさを証明する文献的証拠が乏しい点が指摘されています。
初期キリスト教には多様な組織形態が存在し、単線的な継承モデルの適用が困難であるとされています。
按手の継承そのものが霊的権威を保証するかについて疑問が呈されています。
1……わたしたちは、キリストの教の初歩をあとにして、完成を目ざして進もうではないか。今さら、死んだ行いの悔改めと神への信仰、2 洗いごとについての教と《按手》、死人の復活と永遠のさばき、などの基本の教をくりかえし学ぶことをやめようではないか。[ヘブル6:2]https://t.co/mLmr1B4HbF https://t.co/rCNPxPArC4
— セイスケくん (@futen_seisuke) February 21, 2025
(2) 神学的異論
プロテスタント神学では、使徒継承は聖書的根拠に乏しいと批判されています。
使徒職はカリスマ的で限定的なものであり、制度として継承されるべきではないとの見解もあります。
教会の正統性は、聖霊の導きと福音の純粋な宣教に基づくべきであり、制度的継承に依拠するものではないとする意見もあります。
(3) 教会制度における問題
使徒継承が聖職者中心主義を助長し、信徒の主体性を制限する要因となる可能性があります。
教会内の権威の固定化が、改革の妨げとなることが指摘されています。
使徒継承を重視する教派とそうでない教派とのエキュメニカルな対話において障壁となることがあります。
5. 結論
使徒継承は、歴史的・神学的に重要な概念であり、教会の統一性・正統性の維持に不可欠な要素として機能してきました。
例えば、カトリック教会では、ローマ教皇を含む司教団が使徒継承の証として機能し、信徒への教導権を持っています。正教会においても、各地方教会の主教が使徒的伝統を維持する役割を担っています。
一方で、プロテスタントの一部では使徒継承を制度的要素よりも信仰の継承として捉え、聖書の解釈と信仰共同体の形成を重視しています。しかし、その歴史的証明の困難さ、神学的解釈の相違、教会制度における課題など、多様な視点からの検討が求められます。
現代においては、使徒継承を単なる制度的継承とするのではなく、使徒たちの教えと信仰の伝承という広義の視点から捉え直す必要があります。加えて、エキュメニカルな視点から、使徒継承を有する教派と有しない教派との対話を深化させ、キリスト教共同体全体の一致に資する形でその意義を再評価することが求められます。
……司祭に質問しても答えられず本を読むよう渡されたが、読んでますます疑問が増え、再び尋ねたところ「私は君を納得させられないし、君も私を納得させられない……帰ってくれ」と言われた。それ以来司祭とは対話すら出来なかった。https://t.co/RLa6VFqmQ5 https://t.co/EuDh66Rw6S
— セイスケくん (@futen_seisuke) February 21, 2025