ハリアップ!ボリウッド!
映画館。
急遽、映画を観ることになった2人。
「もしかして初めて?」
「そう!初インド映画」
「面白いよ~。
俺は3本目…かな?
画面が華やかだし、
スケールがデカくて、
とにかくパワーが凄い!
歌と踊りとアクションが一流で、
エンターテイメントミュージカルって感じ」
「私の印象もそんな感じ。
予告からも伝わってきた」
「この映画の注目すべきはダンス。
人の動きじゃないらしいよ」
「そうな……
ちょっと待って」
「どうしたの?」
「上映スクリーン3つもあるよ」
「え?あっ、ほんとだ。
人気だからかな?」
「どこでも同じ?
ここに並んでて大丈夫?」
「ちょっと待って」
「なに?」
「このシネマAは通常上映だ」
「通常上映?
じゃあいいんじゃない?」
「いや、隣のBは1.5倍速。
その隣のCは2倍速上映だ」
「そうなの?
でも私はこのまま通常でいいよ」
「え?待って。
俺は2倍速がいいんだけど」
「はあ?なんで映画館まで来て、
2倍速なの?そんなの家でしなよ」
「いや、だってインド映画って長いんだぜ。
大抵のインド映画って、
上映時間3時間が、
当たり前なの知ってた?」
「そうなの?知らない。
この映画も3時間なの?」
「そうだよ。
上映時間長すぎて、
映像の途中に、
トイレ休憩の字幕でるんだから」
「知らなかった。
でも2倍速なんて…」
「1時間半で映画が観れるんだよ。
その後、買い物にでも行こう」
「それもいいけど…
やっぱり、私はちゃんと観たい」
「え~。どうしても?」
「どうしても」
「じゃあさ。
間を取って1.5倍速はどう?」
「1.5倍?」
「それなら作品の雰囲気も壊さないでしょ。
家では1.5倍で観たことあるでしょ?」
「それはあるけど…
わかった。じゃあ1.5倍」
「よし!じゃあ隣に行こう」
「うん」
【館内放送】
お客様にご連絡します。
只今、この時間の1.5倍速上映は、
満席となりました。
他の上映、
もしくは1.5倍をお望みのお客様は、
次の時間の上映まで、
お待ち下さるようお願いします。
「……」
「……」
「……C」
「……A」
「C!」
「A!!」
【館内放送】
上映中は携帯電話の電源をお切りになり…
(負けた…)
(勝った!)
「……」
「ちょっと」
「なに?」
「これ、なあに?
椅子についてるボタン」
「これ?…今から説明あるから」
【館内放送】
尚この映画は通常上映ではございますが、
お手元のボタンを、
8割以上のお客様が押されますと、
3倍速再生になります。
「ね?」
「嘘でしょ?通常上映選んだのに、
3倍速って?私、絶対押さないから」
「あのスクリーンの、
下にあるメーターが、
倍速スイッチ押した人の数」
「もう押してる人いるじゃない。
やだ!絶対やだ!」
「俺。もう押したけどね」
「ああ、どんどん増えてる」
「あと少し」
「やめて!あと2人。
もうダメ」
「よっしゃ!3倍速!」
【館内放送】
皆様、本日はありがとうございました。
足元にお気をつけてお帰り下さい。
「はあぁ」
「はあぁ」
「失敗だったね」
「そうね」
「3倍速はやり過ぎ」
「想像以上」
「まさかダンスが、
目で追えないなんて」
「手足が消えて、
ダルマが浮いてるみたいだった」
「みんな大爆笑だったね」
「あれ見て、笑わない人いないよ」
「……ごめん」
「……また来よ」
「次は倍速のない映画館に」
「うん」