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『もう一度旅に出る前に』09 出発日 文・写真 仁科勝介(かつお)

ずいぶん先のような旅の出発日を決めた。来年3月の後半に仕事をいただいたから、その辺りを基準に考えるのが、キリがいいねって。それからは一気に体も頭も旅モードに180度変えてしまって、いよいよ旅を始めよう。
あと、占いはあまり信じない人間だけど、六曜だけは気にしてしまうタチだから、大安を選びたい。だから、そうすると必然的に、今回の出発日は来年の3月31日になりそうだ。それが難しかったら、4月に入ってからの大安の日かなあ。

出発日なんて大したことのないようで、ぼくはそれで前回失敗している。
前回の旅を3月26日に始めたことはよく覚えていて、まあ同じ日に原付で全治3ヶ月の怪我をしたことも当然覚えている。何が失敗かというと、出発日をちょっとだけ早く強行させた感じがあった。出発日が変わるような、本来行きたい予定があって、それでも「自分は旅を始めるんだ」という盲目的な感情で、旅を優先させる方がかっこいいみたいなフシがあった。だから、今そのことを振り返ると、「焦んなくてもいいじゃん」と言いたくなる。

そういう意味でも、3月の終わりから旅をしようと決めたけれど、急ぎすぎた判断はしないようにしたい。ロケットの打ち上げを見守る人がいても、管制室は冷静で、延期も決断できるみたいに。

そして、出発日がおおむね決まったら、あとは逆算していく形になる。来年まで時間はまだまだあるようで、ほんとうは全然ない。自分を焦らせるわけではなくて、時間は有限だということをずっと思っていたい。蛇足かもしれないけれど、最近は「いつか死ぬんだもんなあ」ということを考えてしまう。自死のことではなく、政治的なことでもなく、いつかは自分も死んでしまうというあたりまえのことが、頭に浮かんでは消えてゆく。死んじゃうんだよな、人は、ほんとうに! って。だから、変かもしれないけれど、心のバランスが良くない日は、「まあ、結局はいつか死んじゃうんだからさあ」と、そっと自分に声をかける。そうすると、考え方がシンプルになる。「だったら今をがんばるかあ」って、謎回路かもしれないけれど。真面目でありたいというよりは、死んじゃったら、死後の世界は分からないなりに、それでも確実に一旦終わっちゃうわけだから、そうすると、今日をがんばっておきたいよなあ、と心が一周するのだ。

もうひとつ、死んじゃうということを考えていると、「若いって気をつけたいなあ」という感覚が湧き上がってくる。若い、ってほんとうに素晴らしいことだ。挑戦を怖がる必要はないし、失敗をしても構わない。いろんな経験が自分の血肉となって、人生は進んでゆく。だから、ぼくは年上の方々が話す「キミはまだ若いから」という言葉が沁みる。その通りだなあと思う。ただ、その言葉を使っていいのは年上の方々で、ぼくがその言葉を同じ意味で使ってしまうことは、ちょっと危険に感じてしまうのだ。若さという言葉に身を任せて、目を覚ましたら、年月が過ぎてしまっているのが怖い。もちろん、それが悪いわけではない。いつだって「足ることを知る」ことは大切だ。今日をハッピーに過ごすことがいちばんだ。何者になるかではなく、自分らしい自分に還っていくことが何よりだ。だから、今日に満足しつつ、それでも、若さ、すなわち今を大切にした選択をしつづけたい。多分、それは旅の動機でもある。若さは足りなくなる。若いことと、急ぐこと。「若いから大丈夫」という言葉に、自分が頼っていないかを気をつけて生きたいのだ。

いずれにせよ、出発日はやってくる。その日までの日々を、コツコツがんばりたいという話であります。一言で表すなら、「心を燃やせ」かなあ。



仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。

HP|https://katsusukenishina.com
Twitter/Instagram @katsuo247


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