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「イラストでつかむ江戸の物語」第2回『南総里見八犬伝(後編)』(イラスト・文 笹井さゆり)


第2回は、前回に続き江戸時代の大ベストセラー『南総里見八犬伝』の後編をお送りします!

第1回はこちらから。




ざっくりあらすじ『南総里見八犬伝』

八犬士とは?

さて、後編となる今回は、『八犬伝』に登場する八犬士たちのエピソードのご紹介です。

八犬士とは、伏姫(ふせひめ)の手から飛び散った8つの玉のうちの1つを持ち、後に里見家に集結することになる8人の剣士たちです。出身も性格もばらばらでキャラが立っているため、8人のうちの誰が好き?という話でファンは盛り上がりました。8人それぞれ、浮世絵や団扇(うちわ)、すごろくなどのグッズ展開もされています。個性豊かな八犬士を演じる歌舞伎の役者もまた、話題となりました。


八犬士たち(画像タップで拡大できます)

仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌

八犬士が持つ玉にはそれぞれ、儒教における八徳「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の文字が浮かんでいます。そして玉を手に入れた剣士たちに共通するのは、「」の名字を持ち、体のどこかに牡丹(ぼたん)の花の形のアザがあることです。
すべてのはじまりである里見家の犬の八房(やつふさ)には、牡丹形のブチ模様がありました。八犬士たちは、八房の特徴を受け継いでいるのですね。


八犬士の出会い

「八犬伝」のドラマで重要なのは、なんといっても八犬士たちの初登場シーンです。敵同士だった者が仲間になる、幼馴染と再会して仲間に引き入れる、仲間とはぐれた先で新たな仲間と出会う……など、「八犬伝」には現代のバトル漫画にも通ずる仲間同士の出会いが描かれています。
八犬士全員の初登場時のエピソードを取り上げたいところですが、今回は2つのエピソードにしぼってご紹介します。



八犬士の出会い①信乃と現八
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敵同士として出会った信乃(しの)と現八(げんぱち)。2人の戦いは「芳流閣(ほうりゅうかく)の戦い」と呼ばれるシーンで、「八犬伝」序盤のハイライト。歌舞伎などでも大きな見せ場となるシーンです。


次は「悌」の玉を持つ小文吾(こぶんご)と「智」の玉を持つ毛野(けの)、2人の出会いのエピソードのご紹介です。


八犬士の出会い②小文吾と毛野
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女田楽師に化けて潜入していた毛野(けの)の仇討ちは「対牛楼(たいぎゅうろう)の決闘」と呼ばれ、こちらも「八犬伝」の歌舞伎のハイライトのひとつ。
勧善懲悪・因果応報の価値観が根底にあるこの物語において、仇討ちは八犬士たちが八犬士たるもっとも重要な動機のひとつとして描かれます。



八犬士の名乗り

さて、「犬」の字を名に持つ八犬士たちですが、最初からその名ではないケースもあります。今でこそ生まれたときの名(ファーストネーム)と生涯付き合うことが前提となっていますが、江戸時代もその前後の時代も、幼少期と成人期とで名が変わることは珍しいことではなく、改名は社会ステータスの変化と共にたびたび起こるものでした。
そのため「八犬伝」でも、古い名を捨て、八犬士としての名を手に入れる瞬間が訪れます。八犬士への改名はそのままキャラクターの成長と結びついていますから、そのシーンは非常にドラマチックに描かれました。


八犬士の名乗り(画像タップで拡大できます)


幼少期から苦労の絶えなかった額蔵(がくぞう)が、信乃(しの)と再会し、父の形見を手にしてようやく八犬士としての名を名乗る瞬間です。本編では「犬川荘助義任」という名に込めた思いも、本人がちゃんと語っています。


「八犬伝」の終焉

前編のざっくりあらすじで書いたように、八犬士たちはそれぞれの本懐を遂げた後で最終的には里見家のもとへ集結し、決戦にめでたく勝利して物語は終わりへ向かいます。
しかし、大団円を迎えるはずの「八犬伝」の物語の幕引きは、意外と切ないものです。
丶大法師や八犬士はどうなったの?里見家はどうなったの……?という部分を最後に、かるーくご紹介します。


八犬伝の終焉
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因果応報・勧善懲悪を描いた「八犬伝」。その善行すらも末代までは続かない、この寂しさを残すラストが私はとても好きです。
全編を読んだうえでたどりつくラストシーンにはもっと深い余韻と感動があることと思います。
ぜひ、興味のある方は現代語訳に挑戦してみてくださいね。


『南総里見八犬伝』書いたのはどんな人?

滝沢馬琴

最後に、『南総里見八犬伝』作者である滝沢馬琴について軽くご紹介です。



28年間におよぶ「八犬伝」の連載の裏にあった馬琴や周囲の人の人生もまた、なかなかドラマチックなものであったようです。

(イラスト・文 笹井さゆり)

【参考文献】
曲亭馬琴・作/石川博・編『南総里見八犬伝 ビギナーズクラシックス 日本の古典』角川学芸出版
小西聖一『活劇巨編「里見八犬伝」大評判 ベストセラー作家滝沢馬琴の栄光と苦悩』理論社
曲亭馬琴・作/白井 喬二・訳『現代語訳 南総里見八犬伝 上・下』河出文庫
野口武彦『江戸と悪 「八犬伝」と馬琴の世界』角川書店
細川博昭『大江戸飼い鳥草紙 江戸のペットブーム』吉川弘文文庫

【著者プロフィール】
笹井さゆり
江戸の庶民たちの文化や生き方を、可愛らしく活き活きとしたイラストで紹介する「江戸時代のちいさな話」シリーズが人気を呼び、SNSの総フォロワーは10万人。
『コミック乱ツインズ』(リイド社)にてイラストエッセイ「江戸時代のちいさな話」、『小説宝石』(光文社)にて漫画「わたしの江戸日和」連載中。
X、Instagramともにchiyochiyo_syr
江戸時代まとめ読み▶︎ https://min.togetter.com/HP9Sba7




第3回は『東海道中膝栗毛』をお送りします📚


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