「とあるRTAイベントの終幕」ができるまで(RTAinbiim2023WinterTRPG振り返り)

はじめに

皆様、あけましておめでとうございます。
2024年もよろしくお願いいたします。

さて、今回はRTA in biim 2023 Winterにて行われたTRPG企画「とあるRTAイベントからの脱出」を振り返ります。この後シナリオを書くことになった人が出たので、参考になるようにシナリオができるまでを振り返ります。
なお、「とあるRTAイベントの終幕」のネタバレを含むので、プレイ予定の方は読まないことを推奨します。

シナリオデータはこちら(二次利用歓迎)
とあるRTAイベントの終幕.pdf - Google ドライブ
(4/19追記)
バージョンアップ版を追加しました。こちらは配信回で困っていたところを踏まえて描写やアイテムを追加しています。
とあるRTAイベントからの脱出(Ver1.1).pdf - Google ドライブ


企画開始~シナリオ案の確定

企画のはじまり

Ribの運営から「RTAをテーマにCoCのシナリオ作って」という話がありました。
RTAに関するシナリオを作ったことはなかったので、やってみたいところもあり二つ返事で了承しました。
この後本当に苦労することは予想してませんでした…

案を考える

シナリオを書き始める前に、最初に決まっていることを整理します。

・「RTA」をテーマとすること
・ルールブックはクトゥルフ神話TRPG(≒クトゥルフ神話の怪物が出てくること)
・2時間~3時間程度で終わるシナリオであること(企画時間の制約)
・配信でやる

時間の制約があるので、複雑なシナリオを作るのは難しいです。また、企画参加者が一応不明なので、ある程度経験が浅くても問題ないように作るべきでしょう。想定としてはコンベンションで行うものを考えると良さそうです。
こうした短時間で初心者が含まれることを想定するシナリオだと、クローズドで調査箇所を絞れるところ、出てくる神話生物はある程度パンチ力が高いものを用意したい感じです。
また、自分で書くならRTAでよく行われる謎の動きだとか、早くクリアするためのバグ技といった部分だけに注目したものにしたくないという個人的な思いがあったので、もっとイベントやRTA動画にフォーカスした部分を組むように考えました。ゲームやってるだけだとシナリオにしにくいし

ここでシナリオ案として2パターン考えました。
一つは、やる機会がRibなのでRTA動画に仕掛けられたミームを追っていく「ダ・ヴィンチ・コード」みたいなシナリオ
もうひとつは、「RTAイベント」に重点を置き、イベント内で行われる陰謀をめぐり会場を探索するクローズドシナリオ
話を振ってきた運営にも相談して、最終的には後者のRTAイベントの案で進めることにしました。ここからまだまだ苦戦します。

シナリオを組み立てる

どこから考えるか

さて、RTAイベントを舞台に宇宙的陰謀が繰り広げられることは決まりました。ここからTRPGをする上で必要な情報を組み立てないといけません。

まず「RTAイベント」について考えます。なお、ここで指すRTAイベントは特に指定がなければオフラインのイベントです。
また、「RTA」のイベントなので、「RTA」についても考えます。

ここからメモ帳に書き込んでいきます。
シナリオのとっかかりになる部分を探すべく、「RTAイベント」や「RTA」を構成する要素をなるべくバラバラにします。そこから、導入や起きるイベント、出てくる神話生物、エンディングを考えます。

RTAイベントで考えられる導入は走者、解説者、ボランティア、観客等の形でイベントに参加する人です。これは当然ですね。
導入作成においても、イベントを見に来た、参加したで話が済むので割りと簡単そうです。
敵となるNPCは運営の誰かが良いと考えました。経験上、情報を完全な形でもつことができ、怪しいムーブが許容されそうなのは運営しかいません。メインの謀略は運営スタッフ、それに振られる走者かボランティアのNPCがいると十分なNPCがいそうです。
進行用に探索者の味方になるNPCが一人いるといいので、ボランティアのNPCをその役に据えます。
これで敵、ダミー、味方とそれぞれNPCに役回りができました。それに合わせて、NPCの設定を組みます。
味方になるNPCは優しそうに、敵となるNPCはちょっと神経質な感じにします。なにか企んでるやつが張り詰めてないわけないと思う(偏見)
出す神話生物は派手で知名度がある方がいいので、ニャルラトホテプとかクトゥルフが良さそうです。

シナリオ制作上の困難

ここからが内容を考えますが、死ぬほど難航します。
まずRTAイベントでは、部屋構造を複雑にできません
今まで行ったRTAイベントを考えると、WEB-RTA-CLIMAX!!は1部屋で、観客として観に行ったRTA in Japanはメインの会場、横の交流所、走者の練習場所、スタッフ用の部屋があるという程度です。
本当はもっとあるかもしれませんが、思い浮かばないので仕方がない。
それだと4部屋しかありませんが、かなり難しいです。
基本的に部屋の数は出せる情報やギミックの数に直結するので、この段階でもうしんどいです。
今考えるとホールを区切るとか方法はあると思いますが、それはそれで「そんなに広い?」ってツッコミが来そうですね。

次に、探索者に積極的に怪しいものを調べに行くモチベーションがもたせにくいのも問題です。
走り終わって途中で帰られるとキーパーが困ります。

3つ目に、大規模なギミックを仕込みにくいということです。
オープンな空間かつ、準備にボランティアスタッフやその他の運営が絡むことを考えると、大規模な儀式を最初から設置できません。大勢が絡むことを考えると怪しい生物を忍ばせておくのも難しそうです。不定形系くらいしか仕込めません。

で、ここでメモ帳に部屋を適当に繋いでいたところで天啓が降りてきます。

シナリオ検討のメモ(その1:シナリオ検討の初期段階)

部屋で五芒星を描けばいいのでは?
これが良いかはともかく、これなら頂点に一部屋ずつ割り振っても4~5部屋で済み、それぞれに同じものを置けば成立しそうです。
ネットで調べると、逆五芒星が悪魔の象徴として知られているそうなので、逆五芒星を描くのがいい感じ。

さて、RTAイベントですので、残りのギミックはもうゲームに仕込みましょう。ここは怪しいゲームの設定を作れば解決します。
とりあえず「邪聖剣ネクロマンサー」をベースに考えます。ちょうどクトゥルフネタのあるレトロゲームです。

探索者をそのゲームの走者にしたいですが、KPの手に委ねられないキャラクターにギミックの命運を握らせるのは相当無理があるので、知り合いの走者にして、そいつを救う感じで行きます。怪しいNPCが2人になるので、ある程度考える余地も出てきます。

シナリオ検討のメモ(その2:概要の作成とタイトル決定の検討資料)

ゲームに仕込めば、召喚の呪文か何かを仕込めば神話生物も出せます。
…が、ここで問題が浮上します。

RTAイベントでしか発生しないイベントって何?

はい、RTAで起きてるなら通常プレイでも起きてそうです。
ゲームは結局いろんな人がプレイするので、RTAイベントでしか見つからないものなんてないはずです。
DOOMなどにはOoBしたときに見つかるメッセージがあることもありますが、そうしたものにあるならば普通にRTAやってるときに見つかってRTA走者を殺すゲームになります。走者が生きてイベントに出られません。これだと呪いのゲームになってイベントになりませんね…
ですので、RTAイベントで条件を満たすようなものを考える必要があります。

シナリオ制作上の困難:解決編

さて、ある意味もう解決したものもありますが、もう一度シナリオ作成上の困難を挙げておきます。

  1. RTAイベントがオープンな場であり、部屋数が少なくギミックを仕込みにくい

  2. 探索者がRTAイベントそのものに目が向きやすく、怪しいものを調べるモチベーションをもたせにくい

  3. 大規模なギミックや怪しい生物を仕込みにくい

  4. RTAイベントでしか発生しないものって何?

ここから壮絶に悩んで書いたり捨てたりしながら考えます。残ってるメモを上げておきますが、この間にメモのページが20枚くらい破り捨てられています。

シナリオ検討のメモ(その3:概要構成。上が初期案、下が後期の案)

この間も色々オンラインのRTAイベントに出ていましたが、そこで思いつくことがありました。
Donation Incentive、日本ではRTA in Japanで行われている寄附額投票です。
これなら、Bidの一つとして入れることで自然にRTAイベント中にゲーム内で無駄足を踏ませられます。
さらに、そこで起きるゲーム内で発生するイベントを儀式の一部にすることでイベントでしか起きない事象を起こせそうです。また、強制力があるので走者を探索者としても行動にブレが少なく、儀式を完遂できる可能性が高まります。あとは犠牲者の必要数を増やせばたまたまやるやつがいても見つからないでしょう。走者のNPCが勢いで消えましたが、NPCは減ったほうが管理が楽なのでラッキーです。いい解決策が見つかりました。

これですべての問題が解決できそうです。
まとめると、

  1. RTAイベントがオープンな場であり、部屋数が少なくギミックを仕込みにくい→五芒星の頂点に見立てて仕込もう

  2. 探索者がRTAイベントそのものに目が向きやすく、怪しいものを調べるモチベーションをもたせにくい→探索者に儀式のトリガーを踏ませよう

  3. 大規模なギミックや怪しい生物を仕込みにくい→特定条件を満たしたときに発動するギミックにする

  4. RTAイベントでしか発生しないものって何?→人数と大きな儀式が必要

これによって、シナリオの骨格が決まりました。

イベントの開始(導入)→何かしら運営が怪しいことを示す出来事→走者のラン(Bidに召喚の儀式を仕込む)→エンディング(解決or全滅)

後はこれに肉付けしていきます。

シナリオの肉付け

何か運営が怪しいことを示す出来事を挟まないといけません。
ついでに妨害できるチャンスも与えてあげたい。

ここからモニターに蝋燭を映してそれで五芒星を描く、最後のモニターは探索者に配置させるアイデアが生まれました。

蝋燭なのは…なんかその方が「儀式らしく」ないでしょうか?
雰囲気の問題です。

モニターの配置については、走者のモニター、スクリーンがあるのであと3つ置けば五芒星が作れます。走者の控室とスタッフの部屋に一つずつ置くとすると、残り1個。
このモニターを置きに行かせる指示を出し、しかも妙に細かい指定がついてて近くに見る場所があるようにしておけば、かなり怪しそうです。常識的に考えて、そんな指示しないでしょうし。

敵の動機・神話生物の決定

残りは運営の動機を考えます。
自分で作ったイベントを壊す行為を自らするとは考えにくいので、洗脳されているか乗っ取られたか、もしくは気づかずにやっているかの3択案にかけます。
この内、気づかずにやっているはシナリオが難しくなり過ぎるので却下。洗脳されているか乗っ取られたかの路線で進めます。

さて、ここまで来てまだ出す神話生物を決まってないのでいい加減に決めます。
ニャルかクトゥルフにしよう、までは決まっているのでここから「マレウス・モンストロルム」(CoCの神格やクリーチャーデータが記載されている追加データ集)を引きます。
ここで目に止まったのは「悪心影」織田信長の姿をしたニャルラトホテプの化身で、混沌と戦乱を呼ぶものとして知られるものです(旧版にしかないデータ)
また、もう一つニャルラトホテプの化身として、「トゥルースチャ方程式」があります。これは解いたらニャルラトホテプに乗っ取られるというすごいやつです。

これを2つ組み合わせることにしました。
「トゥルースチャ方程式」を解いて乗っ取られ、「悪心影」になるデザインです。
「トゥルースチャ方程式」はTruth(真実)から来ているので、「邪聖剣ネクロマンサー」の強武器「トルース」と名前が合ってていい感じです。

ただ、本当に完全に解かれるとイベントに入る前に終わっちゃうので、ゲーム作者がニャルラトホテプの唆しでトゥルースチャ方程式とその部分解を入れたという設定にします。これで復活が不完全な理由を作れます。そして作者は未完成にし、たどり着けないようにしたとすれば、敵がRTAイベント中に介入する余地ができます。解析でたどり着くようにすれば見つけた人が少ない理由もそれほど不自然ではないように思います。

これで2箇所くらい怪しいポイントを作れたので、もう一箇所は導入で入れて乗っ取られる前の様子を入れたら完成です。
あとは流れに沿ってNPCのセリフを入れて、細かい部分を作ります。
NPCのセリフは実際に話してみて、自然かどうか、設定に反していないかを考えます。

細かい部分を作る

名前をつける

いろんなものに名前をつける必要があるので、名前をつけていきます。
なるべく実在してない方が望ましいので、一応検索かけながら調べます。

イベント名は、RTAイベントを始めた人にも、慣れた人にも誰にでも開かれ、挑戦の一歩としてほしいという意味を込めて、「RTA Gate」としました。



嘘です。シナリオ上、神話生物を召喚する門になるので「Gate」にしました。

NPCの名前はささっと手軽なところから、イベント企画者2名から取りました。

紡月はうづき兄貴が名前の由来になっています。
(うづき→卯月(4月の異名)→乏月(ぼうげつ、4月の異名)→紡月)

識音は私の持ちキャラの名前をそのまま持ってきています。
時間かけられなかったともいう

今回登場したゲーム、「魔空銃トルース」は先程述べた通り「邪聖剣ネクロマンサー」が元ネタです。
トルースは「邪聖剣ネクロマンサー」に登場するアイテムから取っています。また、銃なのは剣に対する形で組んでいます。なんか作ってる最中に魔導書になったが

小道具

イベントにありそうかつ、RTAイベントの途中で拾えそうなものを片っ端から入れていきます。
また、ギミック解決の方法を思いついたらその度に足していきます。

・名札
これはもらえるだろうで突っ込んだアイテムです。
ちょうど紡月の怪しさを出すためにも使えそうだったので描写を追加しています。想定してなかったですが、最後ちょっとエモい描写を入れられたので良かった。

・送った荷物、ハード
ゲームに細工をすることが決まった段階で入れたアイテムです。
荷物が完全に走者の手から離れる瞬間を作る必要があったため、普通のイベントではありえない、事前に荷物を送る作業をシナリオ上の嘘として入れ込みました。

・チャート、解説資料
乗っ取られてから会話するまでのタイミングがイベント入ってから、ということになり、出せるタイミングが走者がハードを再度手に入れる時になりました。このせいでシナリオがまた3分の1書き直されました
後半登場する紙片の内容は最後まで決まらなかったのですが、こいつのせいです。

・パネルヒーター
解決策を検討している時、前日の1時に「ブレーカーを落とす」が思いついたため追加されました。
実際にブレーカーが落ちてプレ大会が止まったイベントもありましたしちょうどいいアイテムです。
このアイテムの追加により、識音に「寒がり」の設定をつけることにしました。

マップ

マップを作ります。
CADとかいう手段もありますが、さくっとやるのでエクセル方眼紙でやってしまいます。

マップ

モニターの位置で逆五芒星が書けそうな感じだけを考えて作りました。
その結果、メインホール後ろに設置する予定だったモニターが外に行ってしまいました。
シナリオを部分修正して対応します。ついでに左側が寂しい感じだったのでトイレと喫煙所をフレーバーとして追加しました。
フレーバーのつもりで置きましたが、ライターがあるとちょうど良かったので結果として喫煙所を置いたのは良かったです。

描写文

神話生物の登場シーンをかっこよく書きたい!
これは毎回KPやってて思うことなんですが、難しいです。しんどい。

こればっかりは慣れないと書けないんですが、私はうまくないので商業のリプレイを参考に書きました。
とりあえず手元のるるいえシリーズの神話生物登場シーンを片っ端から拾ってチェックし、出す神格に合わせて描写文を練ります。
最終どういう形になったのかはシナリオを御覧ください。

描写を淡々と進め、その中で邪悪さや異形の様子にフォーカスする、最後にその生物の様相を挙げるが良さそうだったのでそのメソッドで組んでいます。
「黒い液体が滲み出てくる」の一文を書くのにめちゃくちゃ手こずりました。雰囲気が出てたら幸いです。

また、出てくるときに何もないのが寂しかったので何か音の演出を入れようとしました。結局鐘になったのは、ちょうど蝋燭と書があって、地獄の門が開かれるのでウルティマⅣを思い出したからです。またシナリオの修正が入りました。

ゲームデータの整合を取る

ここまでできたらもうほとんど終わり。
手元でやるだけ、公開しないなら詰めずにその場のノリでやってしまいますが、公開を予定するものなのである程度細かく記載しています。実はちゃんと整合取れてない可能性があります。

完成したのは、前日の朝2時。かなり直前までシナリオを詰める作業に費やしました。そしてウルティマの練習時間が犠牲になった

ちょっと長くなったので、実際のプレイの振り返りは次回。



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