「居残り佐平次」
昨日の夜、NHK Eテレの番組で、立川談志さんの落語が放送されました。
以前、Eテレで録画していた番組を観ようとした時、その番組が始まる前の一瞬に、これから放送する番組を紹介する画面が流れ、そこにほんの一瞬立川談志さんの顔が映りました。
談志さん好きの篠原がそれを見逃すことはありませんでした。
慌ててリモコンの一時停止ボタンを押しました。
これは一大事だぞと胸が高まり、観ようとしていた番組のことをすっかり忘れて、何度も何度も録画の最初の一瞬を見返しました。
どうやら立川談志さんが出演する番組が放送されるらしい。
一瞬表示された画面から番組を突き止め、放送日を楽しみに待っていました。
そして昨日、番組が放送されました。
番組録画のセッティングはしていましたが、リアルタイムでも観たく、放送時間に合わせてテレビの前でスタンバイをして、緊張しながら番組を視聴。
今もまだ観た時の興奮が続いています。
昨日観たのは「おとなのEテレタイムマシン」という番組。
1979年に放送された「納涼落語特選」で立川談志さんが「居残り佐平次」を披露された回。
立川談志さんによるこのお話は音源で聴いたことはありましたが、映像で観るのは初めて。
舞台に登場し高座に座ると、まくらはなくすぐにお話が始まりました。
お話の舞台は江戸。
主人公の佐平次は、品川宿で仲間と大いに遊ぶも、少しのお金も持っていません。翌朝、お金の支払いを心配をする仲間をさっと帰し、自分は宿に「居残り」することに。行燈部屋に入れられた佐平次は、ふいに宿の仕事を手伝うようになり、やがて得意の話術で女郎たちやお客さんの人気者に。困った宿屋の店主が、佐平次にどうか帰ってくれと頼むも、すんなりとは帰ってくれず…。
「居残り」とは、行燈部屋に閉じ込められたり、宿でこき使われたりして、本来はみっともなくて恥ずべきことと捉えられるそうですが、佐平次は自ら「居残り」になりに行き、そのことを全力で楽しんでいました。
談志さんの演じる佐平次は、とにかく溌剌としていて、すっきり気持ちがいい。人が欲しがるものを本能的に分かっていて、気がつけば人の懐にするっと入ってしまいます。図々しくも可愛げがあり、周りの人が佐平次に魅了されるのは、とても自然なことだなぁと思えました。
勢いのある話し方でお話がどんどん進んで行くと同時に、談志さんの顔からは汗がどんどん滴って行くのが見えます。
滴る汗を見て、談志さんは羽織を着たままだと気付き、これではさぞかし暑いだろうなぁと思いました。
さらにお話が進み、ご贔屓の旦那が女郎を待っている部屋に佐平次が入り込み、太鼓持ちのような役割を果たす場面になった時のこと。
お客さまを喜ばせる話をした後に「ひとつお盃を頂戴したい」と言う佐平次に、「へんな奴がやってきたなぁ」という旦那。
「まぁ一人で呑んだって面白くない。じゃあっ」と言い、徳利に手をつける仕草をする前のほんの一瞬の間に、旦那としてシャっと羽織を脱いだのです。
羽織が床に落ちた時には佐平次のターンになっており、お猪口にお酒を注いでもらった佐平次がクイっクイっとお酒を飲みます。
そして「うまい!どうも結構でございます。喉をズーっと通ると汗がスッと引きます。」という佐平次。
…この一連の流れを見て鳥肌が立ちました。
羽織を脱ぐ仕草からは旦那さんが心を開いた様子や心意気が伝わりました。
そして汗をかいた佐平次が冷酒をとても美味しそうに飲む仕草には、本当に涼しくなった様子が伝わりました。
これは談志さんご自身も羽織を脱いで涼しくなったであろう様子も重なり、気がつけば佐平次と談志さんとともに私も涼しくなっていました。
この涼しさを伝えるためにここまで羽織を脱がなかったのか!?と(もしかしたら考えすぎかもしれないですが…)ものすごく感激しました。
(いつもこの場面で羽織を脱ぐのか気になって今日調べてみたところ、他の映像では、まくらの後に羽織を脱いでいました。ここで羽織を脱いだのはこの回だけ!?この回は特別だったのかも知れません!豪華!)
羽織を脱いだ後ギアが何段か上がり、ピシっと引き締まったお話は、疾走感を持ったままラストまで突っ走って行きました。
サゲは談志さんオリジナル。
この宿の店主だからこそ言えるサゲだと分かった時にその見事さにしびれ、後を引かない鮮やかさにもしびれました。
話芸の格好良さに触れるたびに、話芸への想いは更新されていきます。
フルタ丸では、話芸の一つである「講談」に関わることができて、とても嬉しいです。
取り組む中で緊張する気持ちがなくなることはありませんが、佐平次が居残りが好きだから潔く楽しめたように、私も好きを持って潔く鮮やかに楽しんで取り組みたいと思います。
篠原 友紀
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フルタ丸講談 vol.3 プレイベント「始まってもいないのに」
日時:2024年5月19日(日)13:00 開演(12:45開場)
会場:RBL CAFE(世田谷区代沢5-32-12)
出演:フルタジュン/真帆/篠原友紀
ゲスト:松尾英太郎
こんなことやります!
■フルタ丸講談のこれまで、そして次回作を語る!
■短編フルタ丸講談・新作『走馬灯助演女優賞』を限定上演!
(作・演出:フルタジュン 出演:真帆/篠原友紀)
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チケット:3,000円
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