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かっこいい大人になりたかった

かっこいい大人になりたかった。
過去形なのは、私が今かっこいい大人ではないから。
人は何かになりたい、こうしたいと何かを目指す時、その何者かに自分はなれていない。なれてないから、なりたいんだよね。ゴールは現在地と違う。距離が離れているからゴールなのであって、今の自分の現在地がゴールと思えている人はきっと稀なんだと思う。それは、目指すべきゴールにたどり着けた人だけが得るもの。そして、またきっとその人は、前へと動いて、歩き出している。


人生は終わらない旅だと思う。
人は死ぬまで旅を続けるんだ。その人が歩みを止めない限り、旅は続いていく。現状に満足しない。常に今より一歩先、高みを目指している人はかっこいいよ。でも、今に満足しない生き方じゃないと、高みを目指せないのか?
その意識は立派だ。今より成長したい。今をより良いものにしたいという思いは、とても素敵だよ。でも今を認めたっていいと思う。満足したっていいと思うんだ。
あなたは頑張っているよ、私も頑張っているよ。

もっと認めたっていいと思うんだよ。
今に満足したら、現実は止まるの?。
今に満足したら成長が止まるなんて、誰が言った?
外の世界の声なんて知らない。誰かの他人の言葉なんて信じるな。
あなたはあなたの言葉を信じろ。私は私の言葉を信じると決めたよ。
あなたの声はあなたにしか聞こえない。私の内なる声は私しか聞こえない。
なら、信じるのは自分だろ。外の世界の情報に惑わされるなよ。
いつだって大事なのは、自分自身だから。


私は、かっこいい大人になりたかった。私は今、かっこいい大人とは到底言えないからだ。でも今私の目の前に、かっこいい大人とはいえない現実があって、私はそれを、否定したかった。なりたいという強い思いが膨らむほど、私の目の前の、かっこわるい自分が私を突き刺す。

「なれるなんてわけない」
耳貸すな。
「あんたが、なれるわけない」
耳を貸すな!


黙れ!とは言えなかったのは、自分の中にその意識があったから。
「かっこいい自分に私がなれるわけない」と少しでも思ってしまったから。
不安はいつも私の心の奥底にあって、私の弱さにつけ込んで手招きする。

「お前なんて無理だよ」
「諦めちまえよ」
「そうしたらきっと楽になる。もう苦しまなくていいんだ。叶わない理想なんて、身を滅ぼすだけだよ」
「分かるだろ、お前は今までずっと苦しんできた。なぜだかわかるか?叶わない夢を見ているからだ。本当はお前も気づいてるんじゃないのか?自分にはできっこないって」

分かってる。分かってるよ。そんなの自分がよく知ってる。
夢を持つ苦しみも、理想を追い続ける孤独も知ってるよ。
でも、それでも、

私は私でいたかった。その夢は私自身だったから。役者になることも、かっこいい大人になることも、私のなりたい、理想の姿だったから。
その夢を諦める事は、私は私自身を諦めることと同じで。

そしたらきっと、私はこの暗い世界で一生、惨めな自分と付き合って生きていくことになる。理想や夢ばかり追い求め、その現実との違いに落胆し、涙する惨めな自分。
それで一生終えるのは嫌だった。かなわない夢を見ながら、日々の自分に一喜一憂する。それを繰り返すだけの日々はもうゴメンだ。
くすぶり続けた熱は、私をいつか飲み込み、私を蝕んでいくだろう。

腐って死んでいく。誰にも気付かれずに。
そんな人生は嫌なんだ。
私は私という人間の生きた証を残したい。
私がちゃんとこの世界のこの時代に、ちゃんと存在していたという証明を残したいんだ。
一人で死んでいく時、私のことを覚えていて欲しい。忘れないで欲しいんだ。
たった一人でも私のことを覚えていてくれたなら、私は救われる。そんな気がするんだ。


私は諦めない。例え諦めたくなるようなことがあっても、きっと私は諦めないだろう。
夢は掴むまで消えなくて、背中を押してくれるのも夢だから。

だから歩いて行くと決めたよ。かっこいい自分になれないのなら、そんなかっこわるい自分も連れて行くしかない。否定して見たくなかった、そんなかっこわるい自分も私だったから。

私はずっとあなたを見ていなかった。否定してずっと見て見ぬフリをしてた。


「ごめんね。」
私がそう呟き、手を取り抱きしめると
もう一人の私は笑った気がした。



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古澤有沙
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