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戦国日本を見た中国人の話を読む

 本の積読が多くて勿体無いので本買うのを控えていたのですが、待ち時間を潰すため久々に本屋へ行く。当てもなくぶらぶらと背表紙を眺めていると目に入ったのがこの本。上田信氏の『戦国日本を見た中国人 海の物語『日本一鑑』を読む』です。
 戦国日本の状況といえば西欧の宣教師の報告が中心ですが、中国人の目から見た日本の報告もあるよ、という内容に惹かれ、何か面白いこと書いてないかと購入してみました。


日本一鑑とは?

 1550年代、中国沿岸を荒らしまわった倭寇。明では日本人のステレオタイプとして倭寇のイメージが定着してしまう中、日本に渡って日本の地理、文化、言語を調べ、日本人と交流し、日本と日本人を理解しようとした鄭舜功によって書かれた書物が『日本一鑑』だそうです。
 鄭は、「日本人は中国人の感覚からすれば凶暴ではあるものの、そこには秩序があり、折り合いをつけることができる」(4ページ)と確信し、日本と中国の国交を回復させようとします。が、帰国後政争に巻き込まれて投獄されてしまい、『日本一鑑』も歴史に埋もれてしまったそうです。
 上田氏は、「同時代の日本人が当たり前として記録しなかった日本人の姿や、日本人と接触した歴史の浅い西洋人が見落としている日本人の感性を読み取ることができる。」とし、「本書を機にこの日本ルポの存在を知っていただければ、不遇な運命に翻弄された鄭舜功も喜ぶだろう。」(6ページ)と記しています。

色々な驚き

 本書では色々と驚いたことが書いてありました。
 まず刀。元寇の際に遊牧民が着込む皮革製の防護服を切り裂けるように改良された(15ページ)という話。なので、モンゴルと戦う明にも大量に輸出されてたんですね。
 寧波事件も詳しく書かれており、なぜ大内と細川が異国の地で争ってたのかもわかります。細川方の賄賂攻勢によって、正当なはずなのに取引できなくなった大内方が怒り、明と宴会中の細川方を襲撃。細川方の正使を殺すは、通訳で諸々手配した日本に帰化した者を100㎞あまり追いかけ、沿道の行手を遮る民間人を殺戮し、現地の役人を人質にして、船を奪って逃げていった、ということだそうです。そりゃ、中華の威に服して朝貢してきた筈の国が大暴れして暴虐の限りを尽くせば、恐怖以外何物でもない。倭寇のイメージと合わさって日本人=凶暴の印象が定着したようです。
 また、密貿易から海賊化していく話も興味深い。難破によって積荷がダメになり、補填を求められたものの返せないので海賊化したとか、明の海禁策(鎖国)によって密貿易で捕まるので日本に逃げて日本人を誘って密貿易商人から海賊化していく点も、教科書だけでは読み解けない部分で非常に面白い。
 もっとも、これだと日本人が救いようのない感じになりますが、本書では鄭が倭寇になる階層が日本人の全てではなく、むしろもっと理屈が通じる人も多く、話し合いで倭寇を止められるのではないかと希望を抱いている点も書かれています。
 その他あれこれあるのですが、この辺りはぜひ本を読まれることをお勧めします。

海から見る戦国日本

 ポルトガルから伝わった火縄銃も、密貿易の船だったようです。当時、九州の港には中国の外洋船ジャンク船が何百艘もいたらしいとのこと。数千という記載が残されて数十の間違いじゃないかと疑った筆者も色々調べていくうちに数十レベルじゃないと思ったそうです。そして、その流通経路が硝石や鉛を運び、火縄銃による戦いを支えていた。それこそ長篠の戦いにも影響を与えていた、という点は、長篠の地に住む自分としても、驚嘆せざるをえません。
 利を求める商人、あるいは鄭舜功のように高い志持つ人、あるいは好奇心から人が海難の危険を犯してまで世界中を動き回っている状況が目に浮かびました。
 そして、日本に対する偏見のない考察をした鄭ですが、明に帰国した後、気の毒なことになってしまいます。アジアの日本に対する潜在的恐怖を払拭できたかもしれない鄭の日本一鑑が知られていくのは重要なことかもしれません。そのきっかけとしてお勧めの本です。👇


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