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散文詩 『青空』

雨は降らない予報のはずだったが、あちこちで水たまりができて青空が光っている。暑さに耐えられずソーダ味のガリガリ君をコンビニで買ってきて、木陰でひと休みする。「もし」という言葉が日なたに飛びだすと熱で霧散するこの季節が嫌いだ。食べている途中にうっかり地面に落としてしまい、小さな水たまりになる。土の上の青い細かな泡には、にぎやかさと孤立が同時に浮かんでいるように思えた。わたしはあるネコをずっと探していて、路地にカメラを仕掛ける作業を再開する。陽ざしはさらに強まり、全身が大量の汗で濡れる。突如、強烈な熱風が未来から吹いた。アイスが溶けるようにすべての物が液状化しはじめる。手に持っていたカメラも溶けていく。ガリガリ君の青い液と混ざり路地を流れ、静脈のようにして街に広がり、各所の大きな水たまりに合流し、激しく燃えあがる。「後悔」という固いものを、溶けゆく世界のなか、異物として思いだす。網を身体に巻きつけて逃げた、あのネコのこと。カラス避けの網に誤ってもぐりこみ、パニックになって暴れ、さらに深く網に身を喰いこませてしまったネコは、助けようとしたわたしの手を強く噛んだ。あふれる鮮血にさらに興奮して手をふり払い、路地へ脱兎のごとく逃げてしまった。網を身体に巻き付けたまま。わたしは自らの血痕をたよりにネコを追いかける。青く染まった道を通り抜け、海ほど大きな水たまりにたどり着く。水面に血が一点、赤い花火のように広がっている。そこを最後に、痕跡は消えていた。水たまりに映る青空は何ごともなかったように地に浮かんでいて、まるでもう空には青空がないかのようだった。


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