アートの学び(良書の紹介)
前提として
まず、この記事はスレッズで繋がった独学の(特に平面作品を扱う)アーティストさんへ向けて書いています。
他の人は読んでもいいけど、僕は君たちの顔も性格も人生も何もわかりませんので好き勝手に書きます。異論も議論も結構ですが盛大にスルーさせていただきますんで、よろしく。
え? 芸術の専門家? お手柔らかにお願いしますね(震)
アートが生まれる場所
アール・ブリュット(Art Brut)=生(き)の芸術(※英語だとOutsider Art)とは、体系化された芸術学問を通過せずに作られた、内からの情動に基づいて作られた芸術を言います。
昨今、日本では障害者アートとして紹介されていますが、独学のアートは全てアウトサイダーアートに当てはまる、と思っています。違ったらすみません。
僕は少なくとも美術学校を通過してきた絵描きであり、西洋美術史、日本美術史を(たとえ軽くでも)習い、諸先生方から芸術技法の基礎を叩き込まれました。
しかし美術学校へ通ったから偉いとか思ったことはありません。むしろ美大受験で落ちてますし、学歴コンプレックスめちゃくちゃあります。美大受かった奴うらやましーなーチクショイ。
この先で詳しく触れますが、芸術とは無から生まれるものではありません。本人の体験(知覚)があってこそ生まれます。無は何も生みません。芸術は当たり前に過ぎる目の前の事象から、何かに着目して抽出する作業です。そしてその作業は人間社会の発展とともに体系化され、技法が生まれました。
学ぶほど広がる世界
悪いが教えはタダじゃない
雑談はこのくらいにして本題へ。
独学アーティストさんがある日突然つまずく原因の一つに、知識不足があります。描いてれば好き勝手にアイディアが湧いてくると思ってるアウトサイダーアーティストは多いですが、前述の通りアートとは本人の体験や知識から生み出されるものです。
そういった人が伸び悩みの時期に困るのは、自己分析の手段がないこと。
美術の教科書には伸び悩んだ時にこそどうしたらいいかという、先人たちの教えが詰まってる。知識とは道に迷った時につかう案内掲示板みたいなもの。それ単体では意味をなさず、手段の一つでしかない訳です。
ただし、このヒント集とも言える教本は残念ながら無料では作られていない。古今東西の美術の知恵と知識を手間暇かけてまとめているのだから、そこには時代関係なくあらゆるアーティストの成功と失敗が載っている訳です。人生何億回分の蓄積(知識)が書いてあると思いますか? 現生人類が生まれたのが約40万年前。石器時代の発展(文明誕生)は約3万年前。3万年分の知識の集合体ですよ! むしろ一冊2,000円前後で済むなら安いです。すごいね!
だからこのあと紹介する本に一円もかけたくないのであれば、学びのための投資が出来ないのであれば、君はまだ芸術学問を学ぶ段階にいません。このページを閉じてキャンバスに向かい、好きなだけ真っ白の布地か画面に色を撒き散らしておいで。
でも本気で道に迷ってどうしようもなくなったらここへ戻って来て。名著は逃げませんから。
オススメの美術系学本
専門学校卒の偉そうな前置きが終わったところで書籍の紹介をします。
なお、僕はビジュアルデザイン科出身であり、ポスターデザインなどの勉強をしてきました。だからこのあと記載するのは油絵科や日本画科、平面デザイン科、立体デザイン科に分かれる前の基礎にあたる書籍です。
基礎入門編
基礎デッサン本
・ナツメ社『デッサンの基本』
https://www.natsume.co.jp/np/isbn/9784816347009/
なーんにもわからないなら文句言わずに最初に買うべし。ナツメ社は昔から学生を助けてきた大手出版社です。安心してお買いなさい。
・視覚デザイン研究所『鉛筆画初級レッスン』
といいつつ僕が学生時代に教科書として使ってたのはデザイン研究所のほうなんだけども。
こちらもよいです。でもこっちは美術学校の受験生向きかな? ちょっと教え方がお堅い感じ。もちろん良書。
・ナツメ社『人物デッサンの基本』
https://www.natsume.co.jp/np/isbn/9784816350894/
ナツメ社の人物デッサン本。いちばん最初の本が前提となるのでこちらは一段上の応用本かな。
・マール社『やさしい人物画』
https://www.maar.com/shop/technique/drawing/isbn9784837301035
マール社は昔からあって大体良書(ろくに読んでないけど)。ナツメ社と同じく買っておいて損はないので、一冊持っておくといいでしょう。
出版社で悩んだら立ち読みして肌に合いそうな本から買うといいです。合わない本読んだってしょうがないもの。
・視覚デザイン研究所『石膏デッサン』
美術学生なら嫌というほど描いた石膏デッサンの教本。
美大生、専門学校生ならほぼ人物画の前に石膏デッサンを通りますが、独学アーティストは石膏デッサンの機会はあまりないですよね。
美大や専門学校の夏のオープンキャンパス、あと毎週か隔週で土曜日に外部募集をかけて公開授業や公開(デッサン)講評会を開いてくれているところもあるので、通える範囲に学校があるかネットで調べてみてください。
芸術学校は学びの場を開いてくれてるのですが、その情報に辿り着けない人がほとんどだと思いますので、ここにも記載しておきます。(スレッズにも書いたんだけどね)
・株式会社グラフィック社『モルフォ人体デッサン』、ほか『モルフォ人体デッサンシリーズ』
https://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=34678
骨格と筋肉の構造まで頭に入れたいならこちら。ただし、ある程度人物デッサンの基礎を身につけてからの発展系とも言えるため、上から順に買うのが無難。ちょっと小難しい本です。
デッサン本ならマール社かナツメ社。デザイン系に進むなら視覚デザイン研究所。覚えてね。
・ナツメ社『動物デッサンの基本』
https://amzn.asia/d/9H6qtWD
中古しかないのが残念。今もう発行してない? みたいです。良書なのにな。同級生が動物モチーフ中心だったので持っていて、読ませてもらったことがあります。自分でも買えばよかったのになと今更後悔。
・ナツメ社『風景デッサンの基本』
これもどうしてかナツメ社公式HPにありませんでした。本屋には売ってたんですけどね? これは良著。マジで。
湯浅誠氏すーげー絵がうめえ。簡単そうに描いてるけど上手すぎるんですよどうなってんだこの筆致。
湯浅誠氏の絵を見るだけでも儲けものです。ほんとに。騙されたと思って一冊手元に置いてください、
色彩構成
・グラフィック社『デジタル色彩デザイン』
https://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=34542
色彩とは何か、という仕組みから説明してくれる良書です。
デジタルにおける彩色に重きを置いていますが、色をつけるという技術は油絵科も日本画科も無関係ではありません。仕組みが頭に入っていると応用がききますので、ぜひ一冊。
・ナツメ社『カラーコーディネータースタンダードクラス テキスト&問題集』
https://www.natsume.co.jp/np/isbn/9784816369094/
色彩においてはナツメ社かグラフィック社の本買ってください。まず間違いないから。
一番よいのはこれらの本を使ってカラーコーディネーターの資格を取ることですが、資格がなかろうが芸術活動はできる。ただ勉学に費やした経験は後に君を助けるでしょう。お金に余裕があったら、財布からひねり出せるなら3級でもよいので取っておくといいです。
ちなみに僕が持ってるのは色彩検定2級。1級はいいやと思ってそのままです(当時、親の金も無限じゃないから受験料気にしてた)
※色彩検定は3級が一番下、2級、1級と上がっていきます。
パースペクティブ(遠近法)からの画面構成
パースと画面構成はメディア(表現媒体)に関係なくやっておくべきなので、一冊でもいいから買ってください。
・視覚デザイン研究所『構図エッセンス』
パースペクティブ(遠近法)を基礎から学べる良書です。僕が持っていたパースの教科書とは別のものですが、授業で使っていたのも視覚デザイン研究所のものでした。今はもう出版していないのでしょうか……?
・視覚デザイン研究所『巨匠に学ぶ 構図の基本』
こちらは持ってもいないし読んだこともありませんが、構図(画面配置)の基本形から説明があるようなので大丈夫だと思います。上述の構図エッセンスと合わせて購入するとよいと思います。
記事を大半書いてからネットでかなり探したのですが「これ!」という画面構成の書籍がなかなか出てきません……。探し方が悪かったのかな? 美術における画面構成はデザイン科、映像科で習うレイアウトの授業とはニュアンスが異なります。
(※デザイン科ではタイポグラフィの授業と関連しますし、映像科ではカメラの使い方の延長にあります)
美術(絵画)における画面構成は、言葉にするなら「魚を描かずに魚が泳いでいるように丸めた紙を用いて画面の中で構成する」ような授業となります。具象化せずそれっぽいものを描くという教えです。
すみませんもし本職の方で関連書籍お持ちの方は、コメント欄に記載していただけると大変ありがたいです。あとから編集して書き加えようと思います。
・株式会社 ボーンデジタル『Vision ストーリーを伝える:色、光、構図』
大変おすすめ!! めちゃくちゃお世話になっている。
著者は二名でハンス・P・バッハーとサナタン・スルヤヴァンシ。バッハー氏はプロダクションデザイナーで数々のアニメーション映画(某ブランド会社)に関わっているお人。スルヤヴァンシ氏はトロント在住のアートディレクター。
明暗と図の大きさの配置でどこを目立たせたいのかハッキリさせるという、画面構成で大事な要素が大きなビジュアルで学べる良書です!
悪い点を挙げるとすれば本そのものが大きいこと。本棚に余裕があれば、買うといいです。
本によっては映画とかグラフィックデザイン寄りの構成になってるので、参考になるところとならないところがあるとは思いますが、一通り読んでおくと後が楽かな。
美術史が気になったら
・美術出版社『西洋美術史』
・美術出版社『日本美術史』
これはもう完全に教科書です。人によっては中学校の美術の授業などで配られて持ってるかもしれない。読み返すのも手でしょう。
ただ、前提で偉そ〜に書いておいてなんですが、美術史そのものは芸術活動に必須ではありません。時々思い出して読み返すくらいでよいかと。もしくは好きな画材や描画法、主義があるなら、そのジャンルに絞って詳しく勉強するといいかな。
美術史が必須な職業は学芸員(キュレーター)とかです。もうあっちはね、美術という歴史(人類史)のエキスパートですから。知識量が違うよ。尊敬してます。
基礎に慣れてから応用へ
上述の本以外は全てが応用と考えてよいくらい、本屋には美術の教本があふれています。色んな人が書籍を出版できるいい時代です。Kindleなど電子書籍のみの教本もあるでしょうが、僕の意見としては基礎の本は全て物体の本で持っておいて欲しいです。アプリ立ち上げて……とか悠長なこと言ってる場合じゃなく「いま! 読みたい!」ってタイミングあるでしょうから。
電子書籍はそういう時弱いのよ。経験で言うけど。
僕らは切磋琢磨する仲間。みんなで高め合おう
アーティストが増えることは喜ばしい
三人寄れば文殊の知恵と言いますが、アーティスト人口が増えればアートについて考える人が増える。人が増えればアイディアもたくさん出ます。よいことです。
一部には美術は高尚なこととして秘匿されるべきだと考える人(選民思想、権威主義など)がいますが、あちらはあちらで考えがあるので放っておきましょう。
新規参入者がいなくなったジャンルは衰退するしかありません。僕たち(特に遅咲きのアーティスト/レイトスターター)は常に、自分たちより若くて物作りが上手い人が、あっという間にすんごい経歴つけて追い越してしまってどんだけ悔しくても、それでも新たなアーティストの誕生は喜ばしいと自己暗示、じゃない心がけなければなりません。
大事なのでもう一回書きますよ。新規参入者がいなくなったジャンルは衰退するしかないんです。
終わりに
まとめるの結構大変だったぞ! と言うことでこの記事が参考になったとか良かったとか思ったら、ここまで僕を育て上げた諸先生方への感謝を込めて投げ銭をしてください。利益とか考えてないからお手頃価格で置いときます。感謝を現金で送ってくれ。大丈夫レターパックじゃあないから。
著者:ふろたん/月海 香(つきうみ かおる)
最終学歴:美術系専門学校 卒
HP:https://furotan-3colorhood.jimdofree.com/
活動歴:
2014年〜 COMITIA
2017年 横浜『退廃黒ギャラリー 廃道楽』さま主催 クトゥルー市場(※閉店)
2020年〜 サンシャインクリエイション
同年 つくし賞(オンライン出展)
2022年〜 カクヨム掲載開始
2023年 群馬家前橋市『ギャラリーアートスープ』さま主催 ミニ個展『星と海』
2024年 銀座 『GALLERY AND LINKS 81』さま主催 グループ展『Flow of the time−流れゆく時のなかで-』
同ギャラリーさま主催 100人展『年またぎKIZUNA2024→2025 Selection』出展予定
2025年 株式会社アルファネオ様主催『第14回 新春・現代作家小作品展 2025 AN MUSEUM』出展予定
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ご覧いただきありがとうございました。いい記事だなと思ったらチップをお願いします。著者の画材費(電気代)、ご飯とおやつ代になります。