方言クイズの暴力性

教員は特技で勝負と言われる。私の場合、特技といえば言語分野である。

大学では外国人に日本語を教える「日本語教育」という分野をやってきた。体育だったらよかったのに、といつも思っていた。小学校での言語分野の扱いと言えば、「言葉の扉」みたいな見開き1ページの扱いがいいところで、おまけのような扱いを受けている。

当然授業でも蔑ろにされることが多く、取っても1時間、しっかり飛ばしてしまうこともあった。

そんな中、小学5年生の授業で「方言」を扱うものがあった。

方言とは、「方言女子」なんて言葉もあるように、その人のチャームポイントだとか、ご当地というような文脈で消費される。一方で、言語を強制的に統一し、「標準語」というものを作り上げてきたという、暴力的なナショナリズムの文脈も外してはならない分野である。

教科書で扱われていたのは、なんとかの有名な「バカ・アホ分布図」。バカを使う地方、アホを使う地方、その他を使う地方に色を塗っていくと、同心円状に広がっていくという有名な研究である。教科書、マジじゃん。

ここで私はマジにならざるを得なかった。私は漫才を使おうと考えていた。通常は何も言わずとも標準語が幅を利かせる日本において、漫才の世界では、打って変わって関西弁が幅を利かせ始める。「多くの人に伝えるには、標準語を使うのが良い」という教科書のまとめに大きく矛盾する。多くの人を笑わせるのには、標準語を使うのが良いのではないか。

それでも、関西弁の漫才を見て、みんな当たり前のように笑っている。それはなぜなのか。

想定される落ちどころは色々とあるが、たとえ綺麗に落ちなくても(漫才だけに)、東京という非「方言」であると思い込んでいる子どもたちに揺さぶりをかけるには十分だと感じた。

学年の先生方に相談したところ、あっけなく却下されてしまった。「それってどうやって落とすの?」と。いや、簡単には落ちないのは分かっているが……。でも、それ以上言えなかった。私のクラスは荒れていて、周りの先生方に反対できるような状況じゃなかった。

また「著作権とかの問題もあるし」と言われてしまったが、それは公式で出してくれている漫才の動画をめちゃくちゃ集めていたから反抗してもよかったかも。(その先生がWBCの無断転載を平気で子供に見せていたのはまだ許していない)

先生方からは「方言クイズをやったら?」と提案された。

方言を紹介して、どんな意味でしょう? というクイズ。いや、良いのだけど、良くないというか。自分たちが標準語を話していると思い込んでいる子供たちが、方言でクイズを作るという暴力性に気づけるだろうか。これは方言の搾取にしかならない。「方言女子」とか言っている人と全く同じだ。言語マイノリティの消費でしかない。

それでも代案は出てこない。漫才の授業の説明を上手くできる自信もない。結局方言クイズをやってしまった。あの時の踏み絵を踏んでしまったような気持ちは、今も忘れられない。

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