グアテマラ山奥の秘境トドスサントスへ
【グアテマラ旅行記 vol.6】
旅をしていると時々、あれは夢だったんじゃないか?と思う場所に出会う。
トドスサントスもそんな場所のひとつ。これまで旅した中で一番、ここ東京から遠い所に存在するような気がしています。
女二人で旅に出る
もともとこのTodos Santos Cuchumatán(トドス・サントス・クチュマタン、以下トドスサントス)は地球の歩き方で知ってからずっと「行きたいなぁ」と思っていた村ですが、なにせけっこう遠いので、まぁ行けないよなと半分諦めていました。
が、スペイン語学校で一緒のナオミさんに話してみたら、二人で行ってみようということに!
遠いだけでなくかつて日本人が殺された事件があった村だったりと、不安要素は多かったので、同行者がいるのは心強い限り。
(ちなみにナオミさんは私が体調を崩した時にわざわざホームステイ先にお見舞いに来てくれて、そこからこの話が生まれたのでした。優しい!)
ウエウエテナンゴの危険な夜
金曜日、午前中の授業が終わってからシェラを発ちました。
この日はHuehuetenango(ウエウエテナンゴ)という比較的大きな街で一泊。ダブル(日本でいうツイン)で一人55ケツァル(≒715円)の部屋にチェックイン。Hotel Sinai(オテル・シナイ)という変わった名前の、でもとても清潔でいい感じの宿でした。
ホテルから出るとすぐバスターミナルで、雑然としている。
晩ご飯を食べに街まで繰り出した帰り道、ホテルへ戻るバスを探すも、気配ナシ。時刻は21時ごろ。
近くにいた人に聞くと、
「もうバスはないよ。歩く?遠いし危険。タクシーを拾ったほうがいい」
と言われ、その人は「歩いたら15分」と言っていたと思う(スペイン語なので自信はない)ので歩いたのだけど、なにせ真っ暗で道がよくわからず、開いていた店のおじさんに聞いてみることに。
すると、
「歩くなんてめちゃめちゃ遠いし危険。タクシーも危険!」
と、とにかく「perigroso(危険)」の連発……。
困っていたらおじさん、
「しょうがない、オレの車で送ってあげるよ」
と、なんと!ホテルの目の前まで送ってくれたのです!(お子様も同乗)
車から眺める街は確かに真っ暗で、ペリグロッソな感じ…。
しかも、お金を払おうとしたら「いや、いいよ」と。
紳士!!
彼の名前はAlex。本当に本当に助かりました。Muchas Gracias!
グアテマラにしろメキシコにしろ、タクシーすらも危険な国なので、こういう現地の方の優しさは本当に身に沁みます。
しかし私たちはたまたま運良くお店がやっていて良い人だったからラッキーだったけど、騙される可能性だってある。本当に注意して行動しなきゃ、と思いました。
山道を走る
翌朝。
バスが何時に出るかわからないので8時頃バスターミナルに行ってみると、10時20分にトドス行きのバスがある模様。25ケツァル(≒325円)。歩き方には15ケツァルって書いてあったんだけどな……値上がりか。
バスの時刻がわかったので、メルカドに入って朝食をとりました。ウエウエは、中心部は発展しているけれどターミナルはけっこう雑然として、メルカドも暗め。朝ごはんに食べたスープはとても美味しかった。
そして定刻、バスは出発。珍しく座席も指定されているバスでした。
トドスサントスへの道はかなり山道。
グアテマラでは、窓から眺める景色がいつも新鮮でした。
私にとって「田舎」といえば、東海道新幹線の車窓から眺める景色ぐらい。でもグアテマラの田舎はもっともっと田舎。連なる山々や家畜のいる風景が、現実の、というか現代のものとは思えませんでした。
バスで揺られること二時間半ほど。トドスへ到着!
トドスサントス、ここにしかない民族衣装
トドスサントスは、小さな村。
何を見にわざわざ来たかって、男性の民族衣装がおしゃれ、かつ全員一緒なのです。
女性の民族衣装はグアテマラでは見慣れてしまったけれど、男性で着てる人はこれまでほとんど見なかった。なぜこの村だけここまで民族衣装が盛ん(という表現、合ってる?)なのか、理由はわかりませんが……。
しかも「制服なのか!?」と思ってしまうぐらい、みんな一緒。
白地にストライプのシャツ、
襟は青を基調とした鮮やかな色で織られていて、
ズボンは赤地に白のストライプ、
おそろいの青いバッグ、そして
超おしゃれな帽子。
でもひとりずつ少しずつ、違うんですよね。シャツの襟の模様とか、赤の色味とか、バッグの柄とか。
サイジングもいろいろ。若者はけっこうダボっと履いていたり(この写真の人も腰パンだし)、逆に細身で履いている人もいたりして。
この感じってまさに日本の学生服。(私は公立だったので、私立はどうかわかりませんが)学校の指定するデザインはあるけれど作るお店によって微妙にサイズ感や質感が違って「あそこの店は上手い」って噂になったり、自分なりにアレンジして着こなしたり……。
アド街の最後に女の子撮るやつ(名前が出てこない)みたいに、撮りまくりたくなっちゃいます。
そして、女性の衣装もシンプルながらとても素敵。
スカートは無地の紺色、トップスは青をベースに細かい模様が織られている。一見してちぐはぐなようでかなり絶妙な男女の色の組み合わせに心底惚れてしまいました。日本でこの制服があったらオシャレすぎる……!
何を見ているの?
トドスに着いて、「わ〜!ほんとにみんな一緒!」と感激するナオミさんと私。
……て、ていうか?
上から同じ格好した男の人たちが、めっちゃ見てくるんですけど……。
この光景は夕方になっても次の日の朝も続きました。不思議すぎる。何もせずにぼんやーりと下を眺めている「だけ」なんです。
お茶を飲むとか、ゲームに興じるとか、煙草をふかすとか、そういった他愛もないことすらしない。
本当に何もしない。
面白いけれど、とても異様な光景でした。
民族衣装を見て、買い物をして、山に登ったり、人と話したり。ナオミさんと一緒だったおかげで退屈せずに旅を楽しめましたが…
私がこの旅で何が一番忘れられないって、見るともなく見つづける男の人達。
そう、男。なぜか女は一人もいない。
行ってみればわかると思いますが(といって行く人はあまりいないと思いますが……)トドスサントスには、何もありません。市場も小さいし、教会とその周辺にお店があるだけで、エンターテイメント的なものは何もない。
人々は、声を張り上げて話すことすらしません。
シェラにいれば「パルケパルケ〜」「ミネルバミネルバ〜」とバスの乗り子がうるさく叫んでいたり。ほかの村に行っても、市場がガヤガヤ盛り上がっていたり、まぁ何かしらある。
けれど、トドスは静かで、何もない。
何もない結果、上から下を眺めているのです。
そしたらナオミさんが
「こうやって眺めてみるとテレビ見てるみたいで、意外と楽しいね〜」
と言って実践し始めたんですが、
本当に彼らにとってこれが娯楽なのかな?と思うと、なんだかすごく、言葉にできないもどかしい気持ちになりました。
彼らの扱う情報量
先住民の人々の生活にはテレビもケータイもないから、その分日常のこまごまとした物事から丁寧に情報を拾っているんだろう。
と、以前も他の村で感じたことがあります。いいなぁそういう暮らし、って。
でもトドスのそれは「こまごまとした物事」というレベルじゃない。
もし、彼らの目に移るテレビジョンから得る情報が、私たちの目の前を通りすぎていく膨大な量の情報と同じビット数なんだとしたら、彼らはいったい何を見て、どうキャッチし、そしてどのように考えているんだろう?
不思議でたまらない……。
・・・
きっと、自分にとって究極に苦手な行為だから、こんなにもどかしいんだろうなって思いました。
もし私がトドスサントスの男に生まれていたら、ああやって上から下を眺めて、なんの疑問も持たずに一日を過ごしていたかもしれない。
でも今存在する私はこうしてパソコンに向かって、毎日大量(に見える)情報と対峙している。
その乖離を感じると、「宇宙が無限にある」ことを考えるときと同じように、悲しいほどに思考の限界に達してしまうのでした。
彼らの「情報」と私の「情報」の総量が同じだとしたら、
果たして彼らには、どんなに細やかで豊かな世界が見えているのだろう?
(つづく)
・カメラ:Nikon F3 HP
・レンズ:Nikon Nikkor 35mm 1:2.8 / 50mm 1:1.4
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