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明日また電話するよ
久々に渋谷を歩くと心の中に備え付いたTinderの右スワイプが止まらなかった。渋谷に綺麗な女性が多いのか、それとも単なるマスクのバフ効果に過ぎないのか。緊急事態宣言の解除を受けて街は以前のテンションを取り戻していた。
地震、停電、疫病、お構いなし。
東京はまるでそうすることしか知らないみたいに日々を丸呑みしながら巨体を引きずり、目的なく邁進する大蛇と化していた。僕は蛇腹の中で頭を打ち、足を挫き、それでも溶けないよう必死にもがいてなんとか生存している。
改札では学生らしきカップルが手を振り合って別れを惜しんでいた。
改札機を流れる人混みが2人の距離を分断する。それでも男は最後まで女性を見届け、井の頭線に向かう彼女も何度もそれを振り返っていた。
大学の頃、サブカルメンヘラクソビッチを自称する歳下の子と付き合っていたことがある。
ふと、その子と別れた最後の場面がフラッシュバックした。
当時住んでいたアパートから最寄り駅まで、2人で会話もなく歩き、改札で彼女を見送った。
手こそ振らなかったけど、その姿が見えなくなるまで改札越しに見届けた。最後に彼女はちらっと振り返って微笑を浮かべた。そのあと来たメールで微笑の意味がわかった。
「はじめてだね。最後まで見送ってくれたの」
いつも遊んだ帰り、駅の改札でお別れしても、僕は最後まで見届けることをしなかった。改札を抜けて少し進んだところを見届けて、そのタイミングで向こうが振り返れば軽く手を挙げるなどしたものの、すぐに踵を返して帰っていた。
今よりも輪をかけて自意識過剰だった当時の僕はドラマのワンシーンみたいに最後まで見送るとか、遠くから笑顔で手を振るとか、そんなことが照れ臭くてとても出来なかった。
彼女はそんなことをちゃんと認識していたのだ。
アパートまで戻る道すがら、いつも僕がとっととその場を離れた後ろ姿を、振り返って見つめる彼女の姿をすこしだけ想像してみた。
たやすく得られた軽くて薄い感傷を、そのまま確かめ直すこともせずに夜の多摩川に向かって遠投した。
「当時の思い出や心情は、当時を過ごした道やファミレスに焼きついている」(若林正恭)
星野源とオードリー若林は過去をそんなふうに語っていた。
確かに思い出はどこに焼き付いていて、またなんの拍子に現像されるか分からない。街を歩けば刻まれる思い出、再生される思い出。
その両方ともあるのかもしれない。
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10月から年末にかけては、夏場の3倍速で時間が流れるイメージだ。せわしない毎日の隙間で、ふと物思いに耽ることがある。
最近は考え事をする際、よく上を見ている自分に気が付いた。
ヒトは情報の8割を視覚から得ている。
考え事に集中するには情報のシャットダウンが必要なため、自然と情報量の多い目の前から視界を外し、情報量の少ない上(たとえば空や天井)に目を向けるらしい。
意識していなかったけど、たしかに腑に落ちる。
誰の介入も必要としない、ひとりで物思いに耽る時間、僕には大切なんだよな。
誰かに話すよりまず先に自分と対話。
すると人に話すときに言葉が整理されてスムーズになる。不用意な言葉を不用意に引き出さなくなる。
こんな散文も、その一環かもしれない。
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