「外国人技能実習生」を支える存在
ーグローバルイノベーション事業協同組合 専務理事 徳丸順一様
最近ニュースやドラマで「外国人技能実習生」という言葉を聞く機会が増えたと思いませんか?私自身も大学での講義やメディアでこの言葉を度々聞きます。また、街中でも外国人の方が増えていることから「外国人技能実習制度」が拡大していることを実感しています。しかし、実際に技能実習生がどうやって日本に来て働いているのか、日本ではどのようなサポートがあるのかイマイチ理解していませんでした。そこで今回の取材ではその実体を少しでも知りたいと思い、福岡で技能実習生の受け入れを行っているグローバルイノベーション事業協同組合で働いている徳丸順一さんに取材をさせていただきました!
覚えることはたくさん!文化も生活習慣も給料のことも伝える「入国後講習」
まず、伺ったことは徳丸さんが行っている仕事内容について。事前に簡単な仕事内容について答えて頂いた中から今回は「入国後講習」と「日常生活支援」の仕事について詳しく教えていただきました。
そもそも、グローバルイノベーション事業協同組合のような外国人技能実習生受け入れ機関は、外国人人事部門をもつことがなかなか難しい中小企業が集まり、外国人人事を行うために作った「組合」です。企業が外国人人事を委託しているというわけではありません。そして、徳丸さんたちは日本に来て働くことが決まった技能実習生に1か月、日本で働くための講習を行っています。
この講習で行うことはいろいろあります。徳丸さんたちが作ったオリジナルのテキストをもとに講習を進めて、仕事でのコミュニケーションや日本語以外にも、日本で生活するときに必要なことを伝えていきます。徳丸さんは実際に使用しているテキストを持ってきて、私たちに見せてくださいました。テキストは「辞典なのか?」と疑うほど分厚いもの。
この中にある内容で、徳丸さんは「掃除」がとても大事だとおっしゃっていました。技能実習生として日本へ来る方はASEANの国の方が中心です。それらの国には、日本のように密閉された部屋はありません。ほとんどが開かれた部屋で、ほうきで掃くぐらいが掃除としてできる精一杯のことです。しかも、油モノを食べることが好きだから床がべとべとになってしまうそう。だから、床を拭くという習慣を伝えなければ床がベトベトなままで汚い状態になってしまうのです。他にも、おしゃれではなく社会人としての「身だしなみ」や「買い物」、「給料明細」や「技能検定」について伝える項目もありました。
私たちは、実際に入国後講習っている様子も見せていただきました。内容は、「指示トレーニング」と呼ばれているもの。先生が「○○と△△を持ってきてください」と伝えると、技能実習生が先生からの指示を再度確認します。道具を持ってきて「○○と△△を持ってきました」と作業が完了したと伝え、分からなかったら確認をして作業を行うというサイクルの練習をしていました。
徳丸さんは、このサイクルが、日本で働く上で一番大事なことだと考えられています。一か月の講習を終えるとすぐ働くことになる技能実習生にとって一番困ることは、「基本的なやり取りができないこと・仕事を間違えてしまうこと」です。だから、まずは作業の内容を聞く、分からなかったら考える、それでも分からなかったら質問する、分かったら作業に移る、そして終わったら報告するというサイクルを身に着けることで、分からないまま作業を始めて失敗することを防ぎます。
徳丸さんは「この流れは、1年間アルバイトをしていると自然と身につくようなもの」とおっしゃっていました。しかし、技能実習生は1か月でこれを覚えてしかも日本語で出来るようになったうえで働かなければなりません。だから、この流れを毎日少しずつトレーニングして体に染みつけているそうです。このように、入国後講習では、働くときに必要となるコミュニケーションや日本で生活するうえで重要なことを伝えています。
そして、「1か月の講習が終わり、企業に配属された後からがスタッフの勝負どころで、大変なところでもある」と徳丸さんは言われました。様々なトラブルが起きることは当然です。それをスタッフの方と企業の方が一緒になって解決できるよう取り組んでいらっしゃいます。
グローバルイノベーション事業協同組合のスタッフの方々は、技能実習生の様々なトラブルを知っていることはもちろん、外国で住んでいた経験がある人ばかりです。だからこそ、解決方法を今まで起きたトラブルや海外での自身の経験を用いて提案することができるそうです。それがこの組合の強みの一つだと感じました。
きっかけは日本へ働きに来た知り合いのお手伝い
徳丸さんがこの事業に関わろうと思ったきっかけについても教えていただきました。徳丸さんはこの事業に携わる前、ベトナムで駐在員として働いていました。5年間の駐在員生活を終え日本に帰ってきたとき、ベトナムでスタッフとして働いていた方から、「(技能実習生として)日本に働きに行くことになったものの、ビザの申請が下りないなどのトラブルがあるから助けてほしい」と連絡がきました。結局、手続きが遅れていただけで連絡がきた方は無事日本に来ることができたのですが、この時まで徳丸さんは「外国人技能実習生」という言葉も知らなかったそうです。
この出来事をきっかけに技能実習生制度を認識し、内容についても理解することになったのです。そしてベトナムにいるときに、日本で働きたいという方が多くいると実感したこともあり、徳丸さんはこの事業に興味を持ち始めました。
もう一つこの事業に関わるきっかけとなることがあります。それは、徳丸さんが10年前サラリーマンとして働いていた時に目にした光景です。以前の仕事では、中小企業の方と働くことが多く、中小企業で当たり前に外国人が働いている姿を目にしていました。その様子を見て、「自分ならこの状況をよりよくできる、やってみたい」と思ったそうです。
今、日本へ働きに来てくれる外国人の方々はどんどん増えています。徳丸さんのように海外で生活していた経験もあり、技能実習生のことも理解したうえで支援しようとする方がいることで、これから技能実習生として日本に来たいと思ってくれる方がもっと増えるだろうと感じました。
イメージと現実のギャップ―目にすることで変わる観方―
「外国人技能実習生を間近で見ている徳丸さんは、技能実習生の現状について何を思っているのだろうか。」そう思った私は、技能実習生制度についてどう感じているのかお聞きしました。近年、技能実習制度について、メディアではプラス面よりもマイナス面を多く報じています。徳丸さん自身もメディアで負の面が多く書かれていること、それと同時に管理団体にもいい目が向けられていないことを実感しているそうです。
しかし、私がオフィスに入った時に一番に感じたことは、技能実習生の方々が楽しそうに講習を受け、コミュニケーションをとっている和気あいあいとした雰囲気です。取材をするうちに、スタッフの方と実習生の方の距離が近く、日ごろからコミュニケーションをとっているのだということもすぐにわかり、今まで感じていた技能実習生へのイメージと現実にはギャップがあることに気づきました。
「メディアの印象だけになってしまって、私たちのような外国人の方と関わることが好きで、どうしたらもっとよくなるのか考えて働いているような人たちには日の光が当たりにくい。」と徳丸さんはおっしゃいます。普通に検索すると上位に出てくる情報だけでなく、実際に目で見て知ってほしい、私も自分の目で見た受け入れ団体と技能実習生の現状を発信したいと心から思いました。
また、日本人も外国人に対して勝手にフィルターをかけてみている場合が多く、例えばネパール人の人が5人くらい自転車で通り過ぎただけで怖いという人だっているとお聞きしました。しかし、「実際はそんなことは全然ない、日本に夢と希望をもって一生懸命来ている人たちなのだ」と徳丸さんは言われました。なんとなく、ベトナム人・ミャンマー人というだけで違う目で見てしまう。一人一人と向き合うと全く違う印象を持つだろうから、一人一人と向き合ってほしいという思いが徳丸さんにはありました。
そこで、今、技能実習生の方を受け入れている企業や地域の人に技能実習生と向き合ってもらうために行っていることはあるのか、お聞きしました。すると、出てきたことはイベントの開催です。
最近では、地域の小学生との交流イベントを行ったそうです。小学生とご両親が一緒に来て、実習生とスタッフの方がベトナム語の「こんにちは(シンチャオ)」や数字を教えるという内容でした。この時、親御さんが実習生の日本語を褒めていたということを聞いて、少し話すだけでも印象が変わるのだと感じたそうです。
他にも経済団体の集まりに技能実習生も連れていき、交流の場を作ったり、仲良くなるための飲み会を行ったりもしているようです。技能実習生を交えたものだけでなく、受け入れる企業の方々の交流の場も作り、横のつながりも強めていきます。技能実習生だけでなく、受け入れる企業も悩みや不安を抱えています。そうしたことも共有し、同じ境遇だからこそ共感しあって、つながりを深めていく機会だそうです。
徳丸さんは、もちろん技能実習生同士の交流の場も作られています。入国後講習を終えた方も講習を受講中の方も集めてご飯を食べながら楽しく過ごすことで、悩みを共有することも、みんなで遊んで「がんばろう」と思うこともできます。コロナが終わりつつあり、できることが増えてきたからこそ他にも活動を増やしていきたいとおっしゃっていました。
私にとって印象的だったことはそのこと教えてくださる徳丸さんの様子です。徳丸さんが笑顔で技能実習生との交流のことやイベントのことを伝えてくださる姿から、本当に楽しく環境づくりを行っている様子が浮かびました。
学生に伝えたいこと
最後に学生に伝えたいことをお聞きしました。徳丸さんは「実際に目で見て動いて情報を取りに行くということを学生のうちにしてほしい」と伝えてくださいました。この言葉には、「技能実習生の話が出てくると、悪が絡んでいるようなイメージを持ってしまいがちだけど、実態に触れるとそうではないのだと分かってほしい」という思いもつながっています。大学生は海外に行くことや旅行をすることなどいろいろなことができる時期。「自分から動いて一次情報にできるだけ触れてほしい」と言われていました。
私自身、この取材に行くまでは技能実習生について、マイナスな部分を多く聞いていました。実際はどうなのだろうと少しどきどきしながら取材へ行ったのです。しかし、いざオフィスに入ると全く違う姿が目に移り、素敵な面がたくさんあるのだと学びました。自らが動き、実際に目で見ること、経験することが大切なのだと感じた取材になりました。
【略歴】
中小企業の外国人採用に関して、8年間、各在留資格に応じた支援活動を行っている。2018年にはグローバルイノベーション事業協同組合を設立し、技能実習・特定技能を中心に外国人雇用のあるべき姿を目指して事業活動中。
2002年Panasonic入社、元海外駐在員(管理部門責任者、ベトナム、メキシコ)現地での採用、教育、労務管理の経験をもとに、外国人採用の注意点について、企業向けのセミナーを実施している。大阪外国語大学出身、MBA
【取材日】
2023年12月19日(火)
【取材メンバー】
福岡女子大学国際文理学部国際教養学科3年 塚本風花
福岡女子大学国際文理学部国際教養学科3年 神垣光葉
福岡女子大学国際文理学部国際教養学科3年 川口陽笑
【会社情報】
住所:〒810-0001 福岡県福岡市中央区天神1丁目4-2 エルガーラオフィスビル6F
[春吉オフィス]
〒810-0002 福岡県福岡市中央区西中洲11-6
Written by TSUKAMOTO Fuka