外伝:有望な怪物達 その9:反対意見を持つ科学者へのインタビュー録画の再生
ロバートが、ハンディなビデオをセットする。TVに眼鏡の男の映像が映る。中高年男性へのインタビューの録画の再生だ。ロバートがメモを取り始める。
ロバート(ビデオ)「リチャードさん、ウィリアムソン氏の考えを評価するように依頼された、と聞いています。貴方は、彼の考えをどう思っていますか?」
ストラスマン「少し難しいですね。まず思ったのが、ごまかし、または、トンネル効果か?ですね。もし私がウィリアムソン氏の地位なら、まず、実験できる仮説を立てて、実験に取り組みます。米国の創造論者は、実験したがりませんよね。だから、本当の科学だといえないのですよ。ウィリアムソン氏も実験を従っていないように思えますね。本当に検証したいなら、私ならまず、検証できないという結果を見せますよ。幼生と成体の不一致については説明できない、それは収斂進化なのだ、ということを、です。しかし、彼は実行できていません」
ロバートは黙って見続けている。
ロバート(ビデオ)「面白い質問ですが、貴方の信念へのこだわりと、失望させる結果を受け入れることの、両者が釣り合っていないということですか?」
ストラスマン「ええ、新しい仮説には少しの自由裁量の余地はあっても良いと思うのですが、ウィリアムソン氏のような飛躍はしません。彼の考えはおかしいし、遺伝子水平移動の考えが重要であることに『はい、そうですねー!』と頷くべきではないと思うのです。彼は、できると言っていますが、今ではもっと検証用の手法がありますよね。ただ、彼の仮説の検証に用には、簡単ではありません。多くの遺伝子を見て、働きを知らなければいけません。できるとは思いますが、彼はやりません。でも、よい試みとは思いますが」
ストラスマンは、はにかみ笑いを見せて、言い続けた。
ストラスマン「彼はね、木馬を走らせるとか、何かをしたいとしても、良い防具を幾つか揃えていますよ。貴方は、また研究室で見たことがないでしょう。私の実験では完全に否定されていますが、5億年に数十日起こるということですからね。そんな希有な出来事をどうやって否定するのか?そこが、安全な良い隠れ蓑になっているよね。でも、他にも問題がある。私は、彼の意見に、単純に起こり得ない、と反論しようとしていないのです。起こったという証拠を探そうとはしていますが」
ストラスマン「ウィリアムソン氏の場合、私はやらないようにしていますが、彼の本には、『私は信じています』が所々にありますよね。ニカイアや十二使徒の信条ではなく、科学なんですね。深い信仰ではなく、実験可能な課題であり、信じることは暫定的なものにすぎません。一定の疑いや自己疑念ではあっても、精神発作ではなく、『本当に正しいか?他に可能な説明はあるか?』といつもさ迷うということなんです。そのことが、科学を生産的にし、可能にし、探求できるものとし..だから、私は彼の進む方向には行くことができないのです」
ストラスマンの録画の再生が終わり、博士の録画の再生が始まった。
博士「遠い昔、二匹の動物がいて、二匹とも系統関係のない動物だったが、どちらにも幼生はなかった。しかし、二匹は交雑した。一匹の精子がもう一匹の卵に受精し、普通にふ化しないものもあったが、一つの出来事が起こる。その卵は両方の動物のゲノムを全て持っていた。起こったのは、Aは幼生の形を発現し、Bはその後の発生で成体の形として発現した、ということだ。何百万年も前のことなので、証明することは難しいが、系統関係の離れた動物間で幼生が似ているが成体は似ていない、ということが多くの場合である。この理論のための実験を、今たくさんしているんだ」
メモをとりながら視聴していたロバートが、TVとビデオの電源を切る。