様々な雑種形成:実験および自然そして期待。
①昭和初期に知られていた、棘皮動物を中心とした雑種形成実験について
発生生物学の古書でのみその名が知られているかもしれない、故岡田要博士の「実験発生学」は、私自身、どこかで一部分を複写したもののみを所有しているが、書物自体を所有できていない。何故複写(ただし一部である)があるのかもわからないが、有名な古書店でも取り扱いがない。
岩波講座 生物学(動物学)のシリーズとして、昭和6年3月20日に刊行されたこの書物において、私が持つ複写は、ゴカイの無性生殖や無眼の魚胚など、ドラマティックな生命現象の模式図が多く掲載され、読者を生物の不思議へと誘ってくれる。この複写を入手したとき、私はまだドナルド・ウィリアムソン博士の幼生転移仮説や彼が行った雑種形成実験を知らなかった。だが、「第7章 受精の特殊性」の、雑種形成の実験について知った上で、博士に出会えたことが、人生の大半をかけるまでの興奮の発火が怒ったのかもしれない、とも思っている。ゆえに、紹介したいと思う。
この実験の目的はその題名の通りだが、棘皮動物を用いた受精の研究をしている。現代の言葉遣いで記載すると、以下のようになる。
アメフラシの精子でバフンウニの卵を受精させ、嚢胚まで発生を辿った。精子は卵内に侵入しても雄核を形成せず、雌核のみの分裂が行われた。
サンショウウニの卵とコシダカウニの精子からは、完全な骨格のプルテウス幼生が観察された。その他、サンショウウニ・ムラサキウニ・コシダカウニ・ラッパウニの雌雄の様々な組み合わせで受精を試みたが、骨格の奇形の目立つプルテウス幼生が観察された。
ムラサキウニの精子とタコノマクラの卵に振りかけたが、受精能は悪かった。受精できても、原腸胚からプルテウス幼生への発生段階がなかなか進行しなくなる。
系統が離れていくと受精の成功率は著しく下がるが、成功した場合はいずれかの親の個体の発生経路になることも記載されていた。そうした場合は、精子の側はおそらく受精への刺激のみに貢献し、遺伝情報の貢献はないと考える。各プルテウス幼生についても骨格を中心に細やかな模式図が掲載されている。骨片がほぼ形成されないUFOのようなプルテウス幼生(サンショウウニの卵とムラサキウニの精子の組み合わせ)も掲載があり、これが明らかな奇形というのも一目で納得できる。
昭和初期において、軟体動物と棘皮動物の雑種形成実験は試みられており、ウニの異種間・異目間については、実験手法の詳細は複写に記載が見当たらなかったが、数多くの組み合わせが試みられていたのである。ウィリアムソン博士の雑種形成実験は、系統の離れた動物間で、卵の処理など工夫を凝らして、試みられたのだった。
岡田要博士が登場するコラムを見つけたので、参考までに掲載したい。
②自然界の交雑で生まれた様々な雑種達
雑種交配とそれによって生まれた交雑種の知見は、私が以前書いたリブログ元のみならず、いろいろと例があることを知った。
以下の記事から、いくつか紹介したい。
以下は、いずれも人工的な交雑によるものだという。
・「ピズリー」「グローラーベア」:ホッキョクグマとヒグマの交雑種。
・「ライガー」:オスのアフリカライオンとメスのトラを掛け合わせた交雑種。
・「キャマ」:リャマとヒトコブラクダの交雑種。
・「ゾース」:シマウマとウマの交雑種。
・「ナルーガ」:イッカクとベルーガ(シロイルカ)の親から生まれた交雑種。
自然にできた交雑の証拠として印象的だったのは、米国ペンシルバニア州で科学者達が遭遇したという、ムネアカイカル(カバー写真)とアカフウキンチョウの交雑種である。ムネアカイカルの体の色は黒と白で、胸に赤いパッチがある。アカフウキンチョウは、鮮やかなオレンジと黒をしている。2種の鳥は近縁種ですらなく、祖先は1000万年以上前に分岐しているという。2種は北米大陸の生息地のほぼ全域で共存しているが、これまで一度も交雑の証拠が発見されていない。
他の交雑種の例としては、ヨコシマガラガラヘビとニシダイヤガラガラヘビ、キューバワニとアメリカワニ、ロシアチョウザメとヘラチョウザメ、カットスロートトラウトとニジマス、さらにアリ、ミツバチ、カリバチ、シロアリなどの昆虫で記録があるという。植物はさらに交雑しやすく、動物よりも7倍の割合で起こるようである。
しかし、交雑種の大多数は人工的な交雑によるもので、自然界では生きるのが難しい脆弱な体質のようである。米国南東部のアメリカアカオオカミは、コヨーテとの交雑により絶滅の危機にさらされているとのことである。
交雑種は人間で言えば染色体異常あるいは遺伝子疾患に相当する重篤さ蛾一般的にはあるので、雑種が種の多様化に貢献するのは容易ではないと思う。しかし、自然界には、ごく僅かではあるが、確かにそれが駆動力となったケースもあると思う。非公式の卒業論文の作成で出会った文献より、単純計算しても、僅かだがいるという認識を、私は持つことができた。
日本のことではないが、犬と狐の雑種が初めて確認されたのだという。ナショナルジオグラフィックの以下の記事に詳細が記載されている。犬とも狐ともとれる行動から、世話をしていたスタッフたちは交雑種)ではないかと疑い、研究を進めた結果、本当に雑種だったというのだ。ちなみに、両親とされるイヌとパンパスギツネは670万年もの隔たりがあるらしいのである。ヒトとチンパンジーとの間に生存能力のある交雑種が誕生したようなものと述べられている。通常はあり得ないこととされ、野生動物の保全に影響を及ぼすことになる発見ということだ。雑種は一般的に障害を持つ可能性が高いとされるからだ。雑種が生まれるに至った経緯は今もよくわかっていないようだが、自然環境と人間社会の変化によって、こうしたことは希であっても、生じるのだろう。リブログ元には知られている異種間の交雑で生まれた雑種について情報をまとめているが、あり得ないことはあり得ないとは決していいきれない。雑種は、実験以外でもあり得ることである。
犬とキツネの子を初確認、「人とチンパンジーの子」のようなもの「なんと奇妙なハイブリッド!」と研究者も驚く。発見当初はイヌと南米固有のパンパスギツネ両方の特徴を持つ謎の動物だった。
④大雨直後のオーストラリアで発見された、謎の生物らしき物体に関して。
地球上には、謎に満ちた物事が数多くある。いくら人間が自然を制圧し技術を開発しても、決して謎はゼロにはならないだろう。以下の記事とSNSで、結論の出ない、なぞの生物らしき物体について、知った。偶然見つけた一般の方による、一体のみの偶然の発見で、論文など学術的な研究報告はない。以下の情報だけである。ただ、系統の離れた動物間の偶然の交雑でうまれた何らかの雑種であり、重篤な変異を生まれながらに持っていて、既に死ぬ運命にあったが、大雨によって一目につく地域まで流れ着いたということも、あるかもしれない、と、勝手にそう思ってみることは、この上なく楽しいと思った。
サポートは皆様の自由なご意志に委ねています。