人間の脳の進化と幼生転移・ウイルスの関与、転移因子の神業、テッポウエビの社会性
①人間の脳の進化と幼生転移・ウイルスの関与について
非公式の卒業論文で取り上げた、幼生転移仮説の提唱者ドナルド・ウィリアムソン博士は、人間の脳に関して、面白い思いつきを述べている。
博士「私達は、イタリアのコモ湖があるベラジオに行き、『自然史の視点から見た人間の脳、感覚器官の進化の三千万年』の会議に出るのさ。演題は、私の『幼生転移』と呼ばれる考え、『雑種形成説』とも呼ぶだろうが、幼生のみならず、少なくとも幾つかの動物の幾つかの器官に、進化の仕組みとして起こったという考えだ。おそらく、人間の脳の進化にも直接関わっているだろうね。でも、これは単なる思いつきだがね」
残念ながら、雑種形成によって脳が系統の離れた動物など生物を起源としているような知見を、私は得ることができなかった。ただし、ことウイルスに関しては、脳の形成に関わる遺伝子で数多くのウイルス由来のものがわかっているようだ。以下に参考となる書籍をあげたい。真核細胞の成立すらウイルスを起源とするという、ユニークな仮説の提唱者によるものである。
異なる研究者による総説だが、こちらは上記の書籍(分厚いです)よりも遥かに分量が短いため、時間的に厳しい場合はこちらが良いかもしれない。
②人間を人間にせしめた、転移因子の神業について
ヒトゲノムのうち情報を持つ部分はわずか2%にすぎず、残る98%はジャンク=がらくたなのだという話を、昔聞いたことがある。しかし、このジャンクのなかには、ウイルス由来であって今は塩基配列でしかないが、私達人間の胎盤や免疫や脳に不可欠な存在であることが、数々の研究でわかっている。非常に多くの研究者が実は関わっており、私などが手に届くものではないが、日本語で情報があるので、リンクを紹介したい。人間は人間やその祖先だけでは成り立っていないということは感じられるはずである。かつてはジャンクと呼ばれた転移因子の神業に、感謝せずにはいられなくなる。
・胎盤に関して
・免疫に関して
研究者向け記事 T細胞とB細胞の進化的起源に関する考察 | 河本宏研究室 京都大学再生医科学研究所研究者向1 河本研 京大再生研
kawamoto.frontier.kyoto-u.ac.jp
・脳に関して
③テッポウエビの社会性と転移因子の繰り返し配列について
集団で生活を営む真社会性のテッポウエビは、単独生活するテッポウエビの種よりも、ゲノムサイズが大きくなるとのことである。
アリやハチのように社会的に行動するテッポウエビの一種が、巨大なゲノムを持つことが判明。社会的特性がゲノム構造に影響か?
実際の論文でも、エビ自身の遺伝子以外の転移因子やマイクロサテライトの量が半分以上を占めており、複数の種で似た傾向が見られたようだ。膨大な転移因子の繰り返し配列が見られ、種によってその種類も異なるという。テッポウエビの集団のサイズは小さく、ゲノムサイズが大きくなることは、中立進化の理論に準拠している(集団サイズが小さいと不利な変異が蓄積しやすい)このような事実は、社会性の構築など複雑な活動と関係しているのではないか、と研究者達は考えているようだ。テッポウエビの祖先は中型のゲノムサイズだったが、単独生活する種はゲノム縮小へ、社会生活する種はゲノム肥大へ、変わっていったことも、今回の研究でわかったという。祖先のゲノムサイズも社会性に即したゲノムサイズの選択肢を持たせていたようだ。
上記は無料登録で日本語で概要を読める。以下のURLは実際の文献になる。ただし、この論文では、増幅された転移因子を除去して生育させた場合どうなるか?といった確認は見当たらなかった。
参考だが、テッポウエビの真社会性に関するサイトである。種としての貴重さが伝わる。
テッポウエビは「女王」のいる社会、秘密を解明女王が複雑なコロニーを支配する社会を持つテッポウエビ。その興味深い進化が最新の研究で明らかに。
テッポウエビは「女王」のいる社会、秘密を解明女王が複雑なコロニーを支配する社会を持つテッポウエビ。その興味深い進化が最新の研究で明らかに。
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