2021年我的電影生活
昨年は『詩人の恋』から『キングスマン:ファースト・エージェント』まで、108本の映画を観ました。その中から洋邦各10作品ずつ、印象に残った作品を挙げていきます。
(各題名のリンクはtwitterの感想)
洋画編
いくら映画好きとはいえ、スパイク・リーのファンでもなければ、デイヴィッド・バーンも、ひいてはトーキングヘッズのファンでもない。でも20年前のリバイバル上映で観た『ストップ・メイキング・センス』は好きだったし、CDも買ったくらいだ。それでもライヴ映画が好き、というわけでもない。
だけど、この映画には圧倒された。ライヴ映画なのにメッセージ性は強いし、人と最小限の楽器だけで織りなされるパフォーマンスの迫力に、そして文学的でウィットに富んでいるけどどこか変なデイヴィッド・バーンのスピーチに圧倒された。圧倒された挙句、4回も観てしまったが、そんなのはファンの人に比べたらまだまだひよっこみたいなものだろう。
コのつくなんだかが世界を覆いつくし、移動が制限されて不誠実な政治が行われる中、がっかりすることばかりなここ2年間であるが、それでも後の世代に胸を張って手渡せるユートピアを作るのは私自身であるし、そのためにどう行動するか、映画を観るたび、曲を聴くたび考え込んでしまうが、なかなかいい案が思いつかない。
でも、ユートピアを作るために、できることは確実にやっていこう。
1秒先の彼女
以上2作品は、先行してblogで発表した中華電影ベストテンでコメントしているので、そちらをご参照下さい。
デューン 砂の惑星
1984年のデイヴィッド・リンチ版はTV放映で観た時、いろいろ自分に合わなさすぎて嫌いになり、返す刀でリンチも主演のカイル・マクラクランも大嫌いになったトラウマ的作品(現在は両名とも名誉回復しているの安心してください)
ドゥニ・ヴィルヌーヴは好きな監督だし、前作があの『ブレードランナー2049』なので、特に心配はしていなかったが、期待以上のものを見せてもらえたので満足はしている。個人的にフレメンが着る給水スーツの鼻の管がどうも納得いかなくて、絵的に醜かったら承知しないぞと思ったけど、そこはちゃんとクリアしたし。続編が決まって嬉しいし楽しみ。
しかし張震は惜しかったな…(みなまで言わぬ)
最後の決闘裁判
特に声を大きくはしていないのだが、私は女性が男に性的に搾取されたり侮辱されることを、母の口癖から取った「男はバカだ」案件と名付けているのだが、#metoo 以降はこの映画のように「男はバカだ」案件をテーマとして「有害な男らしさ」への異議申し立てをする作品が増えていて、辛くてもなるべく観ることにしている。そんな作品。
思えばサー・リドリーの『テルマ&ルイーズ』も「男はバカだ」案件映画だった。
サウンド・オブ・メタル
これまで当たり前に使っていた身体能力を失うことは、老いに向かうこの身からしても恐ろしいし大いに不安でもある。それとどう折り合いをつけるのか、あるいはその喪失に必死に抵抗するのか。主人公はどちらかといえば後者の行動を取るけど、失って初めてわかることもある、そこから別の世界もある、というようなことを読み取った。
プロミシング・ヤング・ウーマン
はい、これも「男はバカだ」案件映画。
医大の女子受験生差別事件やレイプ裁判事件等、日本の女性をめぐる酷い事件を彷彿とさせるのは言うまでもないけど、自分の命と引き換えにしてでも毒を以て復讐を果たすことを描くことで、この問題の根深さや闇を感じるし、その一方でここまで描いてもわからない男もいる絶望も感じて胸が痛い。やっぱり男はバ(もういい加減にしなさい)
Mr.ノーバディ
どういうわけか『ジョン・ウィック』シリーズをスルーしてきた(そういえば『マトリックス』も2作目以降スルーしている。決してキアヌが嫌いなわけではないのに。でも『スピード』も以下略)身なのだが、そのスタッフが作ったという、平凡でも過去が確実にヤバそうな中年男のこの映画は非常に面白かった。そしてジョン・ウィック4は必ず観なければと思うのであった(ドニー・イェンが出るのでね)
逃げた女
やっとホン・サンスのよさがわかってきたような気がする。と思う自分は遅すぎるのか。そして、どうして『チャンシルさんには福が多いね』を地元で上映してくれなかっただろう、と思った次第。
子供のころからムーミンは大好きで、彼が風刺漫画から誕生したことや、政治との関わりがあることも知っていたし、生涯独身を貫いたトーべの人生も興味があった。昨年から今年は女性同士の恋愛映画が多く、この映画でも描かれているのでつながって見えるけど、彼女の生き方を決定づけた時代を抜き出すのなら愛に生きたこの頃なのだろう、ということはよくわかるのであった。
邦画編
カンヌ映画祭脚本賞から始まり、現在ゴールデングローブ賞最優秀非英語長編映画賞受賞等、米国の映画賞の台風の目になっているこの作品、私も一目観て好きになり、ベストワンに選んだ作品。アカデミー賞の国際長編映画賞の候補にはなるのだろう。
これまで『おくりびと』や『万引き家族』などが世界的に高い評価を得た日本映画は数あれど、興味深いのは主演を務めた西島秀俊くん(同世代なのでくん付け)の各賞での高評価。無個性が個性と言われ、役を生きるタイプである彼が、徹底的に台詞を叩き込んでから本番で感情を込める濱口監督の演出で力を発揮したことが評価されたので、長年彼を見てきた身としても非常に嬉しい。
今後彼が国際的に注目されることは間違いないだろうけど、そんな西島くんの今年の参加作品が『シン・ウルトラマン』と配信ドラマ『仮面ライダーBLACK SUN』というのもなんともよろしくて、ついついニヤリとしてしまうのであった。
震災後、ボランティアとして陸前高田に移住し、人々の営みを記録するなどの活動をしてきたアートユニットが試みた、記憶の伝承とそれを未来に手渡す記録。人々の暮らしを聞いて語りなおすのはそれぞれ被災地から遠く離れた場所からやってきた4人の若者たち。
東日本大震災から10年を迎えたが、被害が大きかった地域を抱えるこの地から見ても、あの震災の記憶が風化しつつあるのではないかという危惧する気持ちがある。私は震災前から年に1度茶摘みのために大船渡や陸前高田に入っているのだが、震災直後の風景は衝撃的であったし、あの風景に上書きされつつある現在の景色に安堵しても、その下にあったものが思い出されなくなるのは当地の人間でなくても寂しく思う。忘れ去られそうになるなら、ずっと語って心に刻みつける。このような試みを長年行ってきたふたりの監督の決意も見えるような映画だった。
偶然と想像
実は昨年の邦画ベストが、濱口監督が脚本を共同で手掛けた『スパイの妻』だったので、やっぱりすごいわ濱口監督、とだけ言って終わらせるのはあまりにも安直すぎるか。
会話だけで物語を転がしていくのは、下手をすればひとりで全部えんえんと状況を語るだけで終わってしまうので陳腐になりがちなのだが、全3話で展開される登場人物たちの会話は、どこに連れていかれるかわからないスリルもあるし、その結果がとんでもない事件を引き起こしたとしても、だれかしらかかわった者には多少の救いはもたらされるので、観ていてストレスにはならない短編集だった。
2年前の東京フィルメックスのコンペ参加作品で、非常に評判が良かったようなので気になっていたら、年も押し迫った頃にこちらでも公開。そして評判通りすごい作品で圧倒され、この位置に。
伝えたいものを撮りたいドキュメンタリストと、父の罪を償うように生徒を守る塾講師としての狭間で苦悩する主人公が背負うものはあまりにも重い。積み重ねて核心に迫った時に語られる真実がすべてをひっくり返してしまう恐ろしさもあり、何を信じていいかわからなくなるものだ。
るろうに剣心 最終章 The Final
地元出身の大友啓史監督が10年間手がけてきたシリーズの4作目にして完結編。大友監督のことはこれまでもここでさんざん語ってきたから繰り返さないが、4年前に地元で『影裏』を撮影後すぐにこの最終章2部作の製作が発表されたときは、正直『伝説の最期編』までで充分満足していたので、またわざわざ…と少し思ったことをあえて書いておく。
しかし、これまでの3作品を確実に超えていくという大友監督や谷垣健治アクション監督、そして全シリーズほぼ不動のスタッフ&キャストの熱量は非常に高く、日本のアクション映画史上最高の作品となって幕を引いたので素晴らしかった。
でも、2部作ではこの作品だけ評価します。だって、原作はいまだに未読だし、なんか読まなくても映画だけで満足しちゃって。だから『The Beginning』は原作と映画のファンのためのようで、自分はどうも置いていかれている感があって…すみませんね、めんどくさい性格で。
サマーフィルムにのって
2021年の掘り出し物。
高校生ものは恋愛が絡みがちで(特にアイドル主演のものだったり、共演者同士の熱愛が期待されたり、ねぇ…)もう若くないからお腹いっぱいで敬遠しちゃうよとなるが、オタクでポンコツな女子高生の映画作りと聞けば黙っていられないし、映画作りの映画にハズレはないと信じているので、その期待にしっかり応えてくれた。主演を張った伊藤万理華嬢の名前も覚えておこう。
街の上で
ここ数年来よく観ている、今泉力哉監督のこの作品も映画作りの映画。それを中心に下北沢に集う若者たちの人間模様を描いているので、この時代のユースカルチャーがうかがえて面白かったし、出ている役者たちもTVドラマ等でよく観るようになったので興味深かった。
(ところでユースカルチャーといえば『花束みたいな恋をした』が今年はライト層から映画好きまで評判を呼んだけど、正直いうとちょっとな…と思ってしまうのは、あの脚本家の人の話題を呼ぶ作品にあまりひかれないからだろうか、とのはタイムラインを日々眺めて至った結論であり、意見には個人差があります)
昨年はうっかりモルカーにハマってしまってさあ大変だったのだが、アニメファンはやめられても人形アニメやストップモーションアニメはもう好きで好きでたまらないってことに改めて気づく。
ディストピアでブラックでちょっとグロくて世界の全貌が見えてこないけど、これはどんなに時間がかかってもいいので見続けていきたいなと思った。年末に堀監督のインタビュー番組があって観たのだが、ハリウッドから続編のオファーが多数あっても全部断ったとか言ってたのが実に痛快で笑ってしまった。
Arc/アーク
大宇宙や未来世界のセットを大々的に組んで撮られるものだけがSFじゃない。アンチエイジングと不老不死をテーマにしたこの映画は規模も小さく未来的には感じにくいかもしれないけど、SFの持つセンスオブワンダーはちゃんと体現していて、劇中で展開するボディワークス施術を始めとしたダンスの優雅さもあって美しかった。
茜色に焼かれる
昨年最も観たのが石井裕也監督作品で3本。香港や釜山で高く評価されたアジア映画育ちらしく、香港と釜山からそれぞれサポートを受けた『生きちゃった』も『アジアの天使』もよかったけど、1本選ぶならこの作品。
一昨年からのコのつくなんと禍にある現在に、怒りをもって母と子の貧困と彼女たちの受難を描いていて確かに辛いのだが、社会の理不尽を告発しつつも主人公たちには敬意をこめており、茜色の夕空にかすかな希望を感じさせる締めくくりにしているので絶望して観てはいけないと思った。
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