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サードプレイス横丁~緊急事態に酒愛を⑧


マジカルミステリーな横丁が好きだ。最近ではバルやピッツェリアなど、お洒落な洋風店舗も増えて、窺い知れないカルチャーの奥行を感じる。小さな店が多く、空席がない場合もあるので独り飲みをおすすめしたい。

今日のように満席だったとしても「あ、俺帰るからここ座んな。」的な優しいおじさんも確実に存在する。僕はありがとうございますとお礼をすると、カウンターの奥から3番目の席に腰をおろした。奥側には初老の男性二名。

カフェで聞こえてくるマダムたちの噂話は身体によろしくないが、こういった人の賑わいは結構好きだ。カラオケは勘弁していただきたいが、野球中継や大相撲の取り組みの結果なんかが丁度いい。

瓶ビールをオーダーすると、隣の男性が冷蔵庫から大瓶を一本出してきてくれた。「ここのビールは自分で持ってくんだよ。」初見の場合は、常連客が親切に店のシステムを教えてくれたりもする。隣席との距離はかなり近いし気軽に話しかけても大丈夫だ。オーダーした筑前煮をおすそ分けすると、食いさしのだし巻き卵を頂いた。

物理的にはかなり近いが、この人たちは必要以上に他人のエリアに踏み込んでこない。防弾ガラス製パーテーション並みだ。どこにお勤めですか?ご出身はどこの学校ですか?という他人を評価するための質問ばかりを繰り出す、人間的魅力を感じない人とうんざりするほど酒を飲んできたせいか、今ここが楽しい時間は、偶然見つけた宝箱のように心躍る。野球の采配と料理の安くて旨い店の話、政治家の滑稽さや明日の仕事の話、リアルな市井の生活音が感じられる場所が、ただただ嬉しい。

「だからよ、まあ元気でいようや。死ぬんじゃねえぞ。」
「お前もな」
野球中継が終わると一番奥の男性が立ち上がってお会計をすませ店を出ていった。贔屓のチームが勝利を納めたのでご機嫌な様子だ。
「仲がいいんですね。幼馴染とか、ですか?」
「いや、1時間めえにここで初めて会った」

またそれも都会の酒場あるある、である。

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