旅行土産という呪縛
「だったらベタなマルセイバターサンドとか買ってくればいいのにさ。手近な物とウケ狙いで選ぶから失敗すんだよ。」
旅行土産の話。どうせ何処に行ってもそれは「物」でしかないんだから、気持ちがちょこっと形になったらいいだけのことなんだけども。できることなら悪い印象は残らないほうがいい。マナーとか相手への気遣いとかに疲れてしまう最近の僕は、黙って旅行に出かけて土産なんか買わずに帰ってくることにしている。
「ウエノくんてさ、旅行土産のセンスがおじいちゃんなんだよね。うちの父親が、よかれと思ってデカイ水晶玉とか買ってきて母親にブチ切れられてたの思い出すよ。有給休暇とって『スキーに行ってきました!』焼き菓子とかテンション高めのやつは上司と女子にはウケてない上に、かえって腹立つから配らんでくれ。」
そんなやりとりの後のウエノくんは、僕にだけ根性キーホルダーとか民芸こけしとかを買ってくるようになった。いやがらせに金と手間をつぎ込むあたりは、さすが僕の見込んだ親友である。どうでもいい場所ふさぎの迷惑グッズが会社のデスク回りに積み重なっていった頃、僕はまた余分な一言を発してしまう。
「せめて食い物にしろ」
そんなある日、栃木土産だとか言ってかんぴょうを持ってきた。一人暮らしのオッサンにチョイスする土産ではない。明らかないやがらせである。
かんぴょうってどうやって使うんだったっけ。そういえばおせち用に母親が昆布巻きを作る時に使っていたな。
たしか夕方から雨予報だった。ちょうどいい。
僕は昼休みを費やし、かんぴょうをウエノくんのスニーカーの穴に通した。
※その後スタッフで美味しくいただきました
(162日)
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