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【読書記録】がらんどう(大谷朝子)
わたしの産みたさは、
一体どこから来るのだろう。
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「リビングで、菅沼が死んだ犬を作っている。」
──この物語の最初の一文です。
最初の一文で えっ?と惹き込まれ、
ユニークな文章の引力に引かれながら
ぐんぐん読み進めました。
「わたしは揺れる車内でやや寄り目になりながら、自分の存在を消すことに集中した。」
「わたしには蕎麦の個体差がよくわからないから、とろろ蕎麦が想像通りの味や食感であることに満足した。」
など、所々に様子のおかしい描写があり
そこが私にとっては
ずるいよなぁ〜と思うくらいに 魅力的。
読者が引っ掛かりを覚える「フック」が
計算してなのか 無意識か
地の文に沢山仕込まれているような印象を
受けました。
村田沙耶香さんや、藤野可織さんの文が
好きなわたし好み。
これまでの人生で一度も男性に恋愛感情を
抱いたことがない “わたし” と
結婚を 負ける可能性の極めて高いギャンブル
だと思っている“菅沼”の、女性2人の
シェアハウスのお話🏠
それをもとにして“わたし”や“菅沼”の
悩みや揺らぎが描かれます。
彼女たちが女性で「アラフォー」と呼ばれる
年齢であるから、「アラフォー女性ならでは」
の悩みと捉えることも出来るけれど、
アラフォーだけのものでなく
女性だけのものでもない 生きにくさと
それでも生きていかなきゃならない
一種の苦しさを感じました🕊🕊
一冊を通して、暗めの雰囲気で
希望はあんまり描かれていないけれど、
淡々とした文のおかげかスルッと読めます。
この会社を離れたら、もうきっと「いてくれて助かる」と言われることはないだろう。一時期会社によく届いていた業務効率化やシステム化の営業メールやちらしを、わたしはいつもそっと捨てていた。システム化されてしまったら、わたしの仕事が奪われそうで怖かった。
引っ越しとか、親が死んだとかはいちいち発表しないのに、なんで結婚や出産は特別なことみたいに取り上げるの?どっちも芸能人のプライベートじゃん。アイドルのプライベートなんて全部謎でいい
苦しくならないで、何もかもすべて諦めて、生きていくことはできない。わかりきっていたことを噛みしめて、わたしは身体を丸めた。