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心を鬼にして、家臣を叱る
本多正信は、江戸幕府草創期、徳川家康の重臣として活躍し、家康から「わが右腕」とまで信頼された人物です。
その正信が、江戸城に詰めていた時のお話です。
一枚隔てた隣の部屋から家康の怒声が聞こえてきました。
相当の怒りようです。
耳をそばだてて聞いてみると、何か粗相をした近習を家康が叱りつけている様子です。
その近習は真面目な男なのですが、しかし家康の怒りは治まりそうもなく、まだ叱りつけています。
その様子を感じ取ると、正信は襖を開けて隣の部屋に飛び込んで行きました。
そして家康に聞きました。
「上様、お腹立ちはいかなることで?」
家康は、怒りをそのまま正信に伝えました。
それを聞き終えるや、「それはそれは、上様のお腹立ちはごもっともなことで・・・・・・」と家康に言ったのち、今度は近習に向かって烈火のごとく怒り始めました。
「お前は、何という呆れ果てた愚か者なのだ。上様がお怒りになるのはもっともなこと。私からすれば、そのお叱りもまだまだ足りぬと思うほどだ。馬鹿者、愚か者、この間抜けめが!」
これを聞いて近習の者は一層平伏したのですが、驚いたのは家康でした。
正信の叱りようは普通ではないのです。
自分が叱っていた様子よりもはるかに激越なものでした。
(まあ・・・・・・ 何もそこまで悪し様にいうこともなかろう)
家康はそう思ったのですが、正信の怒りはまだ続いています。
今にも叩き殺さんばかりです。
その様子を見て、家康は言いました。
「正信、何もそこまでいうこともあるまい。この者は確かに粗相をしたが、見てのとおり十分反省しておる。もうそのくらいにしておけ」
「はっ・・・」
正信は、渋々と言った面持ちで引き下がりましたが、平伏している近習の背が小さく震えているのを見て、ホッとしながら襖を閉めました。
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