懲役ダイアリー 2017年5月14日日曜日『朝読=ASADOKU』
刑務所のゴールデンウィークは疾風のごとくあっという間に過ぎ去ってゆく。しかし受刑者にはゴールデンウィークの楽しみがある。
憲法記念日、みどりの日、こどもの日、こういった国民の祝日には必ず「祝日菜」という名目で受刑者一人ひとりに一つずつ昼食の時間にお菓子が配布される。
普段お菓子を購入することができない、優遇区分が4類(イエローバッジ)や5類(オレンジバッジ)の受刑者ももらえるとあって、みんな心待ちにしている。
「今日のお菓子なんだろうなア!」
「お前、お菓子いらねえだろ!よこせ!」
「早く昼の時間にならないかなぁ!」
あちこちから聞こえてくる子供じみたおじさんの声。
人間の欲深さは恐ろしいものがあるなと感じる、
祝日菜一品目は、
「ヤマザキ 大きなツインシュー」
刑務所ではこういう生クリーム的なものはクリスマス以外食べられる機会がないので、とてもありがたいが、久しぶりに生のものをいただくとやはりお腹を壊してしまう。
祝日菜二品目は
「カルビー 焼きもろこし香ばししょうゆ味」
祝日菜ラストを飾ったのは、こどもの日に出てきた「柏餅」刑務所はこういう季節の食べ物をちゃんと出してくれる。ありがたい。
美味しいお菓子を食べながら、日中は映画を見て平和なゴールデンウィークを過ごした。
5月。この時期になると、朝の光が部屋に差し込むのがとても早い。早朝5時すぎにはもう明るくなっている。どうして時間がわかるのかというと、私の部屋の小窓から多目的ホールに設置された少し大きめの掛け時計がかろうじて見えるからだ。
刑務所というのは不思議なもので、夜間消灯後に本を読む「夜読(やどく)」は禁止されていて、見つかると違反行為になり始末書を書かされるのだが、起床時間前でも朝の光が部屋に差し込んで明るくなっていれば、読書をしても問題ないのだ。
その名も夜読ならぬ・・・
「朝読=ASADOKU」
起床時間前なのになぜ本を読んでいいのかは謎。
刑務所での規則にも特に書いていないし見当たらない。
最初に朝に本を読んでいいと教えてくれたのはある受刑者だった。勇気のなかった私は、部屋に光が差し込んできてもその情報を信用できずに本を読むのをためらっていた。万が一、その情報がガセだったら巡回中の刑務官に注意されて始末書を書く羽目になるからだ。私は始末書を書くのが心から嫌だったので、担当の刑務官に確認をした。朝、起床前でも部屋が明るかったら本を読んでも大丈夫との答えをもらい、それからの私はこの朝の時間を大いに活用することとなった。
目が覚めて、スマホ。。。ではなく本を読む。
目が覚めて・・・英語や韓国語の参考書を読む。
朝は頭が冴えていて、どんどん本の活字が頭にインプットされていく。
起床時間の6時40分までの約1時間半、ベッドの上で布団の中に入り、少しだけ冷える独房の中でリラックスしながらの読書は至福の時。
ただでさえ制限、管理されている刑務所での時間。この朝の貴重な自由時間は私のボーナスタイムになった。
社会にいた頃は、朝起きてすぐに読書なんて考えられなかったが、実際にやってみると意外といいもので、社会復帰した時には起床してコーヒーでも飲みながら優雅に読書をしてみたいなと感じた。
この貴重な朝の時間・・・。
みんながみんな静かに読書をしている訳でもない。大半の受刑者は起床の時間まで熟睡している。そして、早起きしたからといって規則を破り居室内で筋トレをする受刑者もいる。そして刑務官に怒られる。
刑務所での過ごし方で社会復帰した時に、人によって様々な面で差が出ると思う。
規則を守れないものは社会でも規則は守らないだろうし、ここで何かの目標もなく過ごしていれば、きっと社会でも目標なんて作らない。自堕落な生活をしてしまえば、社会でもそうなってしまう。
「目標を作ってやれることをやれよ」
以前に刑務官が言っていたことというのが、刑務所に来て半年でなんとなくわかり始めてきた。
自分を律し目標のために今できることをやっていく。
いつもいつもそんなことを自分に言い聞かせ、
日記にも綴っているけれど、
何度もなんども言い聞かせることがとても大切だと考えた。
「朝読=ASADOKU」の時間
静寂に包まれた刑務所の独房で五光のような朝陽を浴びながら自分と対話できる唯一の時間でもある。
これからもきっと私にとっての大切な時間になるに違いない。
全ては順調に進んでいる。人生の成功に向けて。