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プロスポーツクラブの売却と買収
東北楽天ゴールデンイーグルスをイーロンマスク氏が買収するという話が出てきた。球団の売却意向は以前から噂されていたし、マスク氏が三木谷氏と親交があるそうで、かなり具体的に進んでいるのかもしれない。ただし、現在の野球協約では、外資の参入規制があるようだ。なぜかNPBのサイトでは野球協約が見当たらず、日本プロ野球選手会サイトに毎年版が設置されている。
最新が2024とあるが、毎年更新されるものなのだろうか。もしそうだとすると、案外簡単にルール変更が行われるのかもしれない。リーグのレベルが上がらなければ、海外とくにMLBへの選手流出は進んでいくので、強いチームを認めるのか競うリーグを維持するのか議論があるだろうが、すでに強いチームは存在するので、米国からの資本参入が認められてもおかしくはない。
その楽天球団の買収については、売却額が300億円という噂になっている。球団の売上については2021年まで公開されていて、コロナ前の2019年が146億円なので、現在はそれを少し超えたくらいの150億円強だと推定できる。つまり球団売上の2倍が譲渡価格として設定されているということになる。これはNPB球団では普通なのか、過去の事例を探してみたい。
2011年にDeNAがTBSから横浜ベイスターズを買収した際、球団株67%の取得費が65億円とのことで、球団の評価額(時価総額)は97億円ということになる。なお球団買収にあたって日本野球機構に預かり保証金を30億円支払ったらしい。ちなみにTBSはその前のオーナーであるマルハから、2002年に140億円で買収しているようだ。
DeNAは2024年の売上を273億円まで成長させているが、買収時は50億円ほどだったようで、この時の譲渡価格も売上の2倍程度。この事例が今回の楽天イーグルスの評価にあたって前例とされている可能性はある。なお、TBSがマルハニチロから買収した時に、売上が評価額の半分の70億円もあったとは思えない。もしかすると70万株なので1株2万円といった言い値か額面なのかも。仮に売上50億円以下だったとすれば2.8倍以上という好ディールとなる。このとき、筆頭株主ながら東京放送やニッポン放送と共同株主になっている。
2005年にソフトバンクがダイエーホークスを買収した際は、球団株98%を50億円で取得したとのことで、評価額は51億円。ただし、興行権が米投資会社コロニーキャピタルに渡っていたようで、こちらが150億円の合計200億円かかっている。2024年2月期で売上350億円を超えたソフトバンクホークスだが、ダイエー時代も売上170億円あったようで、興行権を含めても1.2倍程度のディスカウント価格で買収したことになる。
以上のように21世紀のNPB球団は、売上の1.2倍から2.8倍の価格で取引されている。実際のデューデリジェンス項目は多岐にわたるだろうが、決めで動く世界でもあるので、2倍がひとつの基準になっていると思われる。
一方で、Jクラブは筆頭株主がそのままオーナーになったサンフレッチェ広島の事例(売上の約1.5倍)を除いて、最近のRB大宮のように純資産程度で売却されていることが多い模様。もちろん、地域や旧オーナーにメリットのある取り組みなのだと思うが、数字が一人歩きする企業売買の世界においてはあまりよろしくない前例となってしまう。
Bリーグでは、サンロッカーズ渋谷が2022年に日立製作所からセガサミーに株式一括譲渡で売却されている。また、2019年にバンダイナムコが島根スサノオマジックの経営権を獲得しているが、いずれも取得額は非公開で、報道も関心をもっていないようだ。おそらくは、さほど大きな金額ではなく、Jクラブと同様に純資産あたりで譲渡されているか、創設時と同じ額面で増資されているのではないだろうか。
同年にミクシィが千葉ジェッツを取得し、前年2018年には東芝からDeNAに川崎ブレイブサンダースが承継されている。ゲーム業界が軒並み参入している感があるが、Jリーグに参入していないクラブにとっても、Bリーグなら参入しやすい、運営しやすいメリットがあるのだろう。一時期滋賀レイクスのオーナーになったマイネットが1年で撤退したように、これらの企業はやめる時の判断も早い。今後どんな評価額が付くのかにも注目したい。