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【映画評】リベラルでもなく保守でもなく 『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を見た。
カリフォルニア州とテキサス州が同盟を結び、「西部勢力」となって政府軍に宣戦布告。アメリカは内戦状態となる。大統領は「勝利は目前だ」と強気にカメラに語りかけるが、実のところ敗戦濃厚。一方で戦場カメラマンのリーたち一行は、大統領に単独インタビューを行うためニューヨークから首都D.C.に向かう。
2021年の議事堂襲撃事件以来、分断が進むアメリカの国内情勢を見ると、本作は「起こりうる近未来」だ。それを「恐怖」とする映画評を幾つか読んだ。実際内戦が始まれば沢山の悲劇が起こるはずなので、これが避けるべき恐怖なのは間違いない。
けれど私は恐怖と同時に希望も感じた。というのはリベラル寄りのカリフォルニア州と保守寄りのテキサス州が手を組んで、共通の悪(本作ではファシストな大統領)に反旗を翻す物語だからだ。
現在アメリカで起こっているのは、表面的にはリベラルと保守の対立と分断のように見えるけれど、実際はそう簡単な話ではないようだ。Qアノンに代表される陰謀論の拡大はもはや無視できない勢いだし、キリスト教勢力(の一部)との結び付きも事態をより複雑に、深刻にしている。それに異議を唱えるために(本作のように)リベラルと保守が手を組むのは、実はかなり現実的な選択肢なのではないか。そもそも「リベラルvs保守」という対立構造そのものが、わかりやすいイメージとして意図的に作られたものなのだから(もちろん両者の対立が全くないわけではない)。
だからリベラルと保守がイデオロギーを越えて同盟を結ぶ点に、私は希望を感じた。その意味で邦題の「アメリカ最後の日」は語弊があると思う。むしろ最後でなく始まりではないのか。
本作のもう一つの良い点は、既成概念を打ち壊しているところだ。例えば「自爆テロ」と聞くと、中東系の体格の良い男性が狂信的な目をして対象地点に立つのをイメージするかもしれない。しかし本作で自爆するのは、金髪の白人女性だ。
また戦場をヒロイックなものでなく、あくまで不快なもの、おぞましいものとして描いている。既存の戦争映画はドラマチックなBGMでエモーショナルに戦場を描くものが多いが、本作はポップなBGMの中、人が無惨に死んでいく。見ていて居心地が悪い。が、戦場とはもともと居心地の悪いもののはずだ。
アメリカが内戦状態になる映画といえば、2017年の『ブッシュウィック-武装都市-』がある。同作もテキサス州が政府に反旗を翻す設定になっているので、本作と見比べると面白いかもしれない。ちなみに同作で印象的だったのは、左手の薬指を撃ち抜かれたブリタニー・スノウが直後に「これじゃ結婚指輪が付けられない」と嘆くシーンだ。妙にリアリティがあったと思う。
本作には『エイリアン:ロムルス』で記憶に新しいケイリー・スピーニーが新人カメラマンとして登場する。短い期間で戦場カメラマンとして頭角を現し、危険な撮影に挑む彼女の強さ、タフさも私には希望に見えた。アメリカの若い世代が、本作をどう評価しているのか気になる。
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は10月4日より上映中。