読みはじめるまでに1時間くらいかかった本。
『夜ふかしの凡人』
宮沢和史 著 1996 PARCO出版
タイトルを見て、「夜(よ)ふかし」という言葉は、なぜ「夜(よる)ふかし」ではないのか、と思った。
素朴な疑問。
辞書を引いてみた。
よ-ふかし【夜更・夜深】〔名〕(形動)
夜遅くまで起きていること。また、そのさま。
と書いてあった。
その下の段に同じ漢字で
よ-ふか・す【夜更・夜深】〔自サ四〕
夜遅くまで起きている。
と書いてあった。
「よふかす」はあまり聞き慣れない言葉だ。
「よふかす」は元の形で、「し」は「よふかす」が活用されて連用形を名詞化するために出てきたのだろう。
次は「ふかす」で辞書を引く。
ふか・す【更・深】〔他サ五(四)〕
夜をふけさせる。夜のふけるのを待つ。夜のふけるまで起きている。
なあんだ、これだけで「夜更かし」じゃん。「夜」いらないじゃん。
「ふける」だとどうなんだろう。
ふ・ける【更・深・老】〔自カ下一〕ふ・く〔自カ下二〕
①時間が経過し、事態が深まる。②人が年を経て、老齢となる。③夜が深くなる。深夜に及ぶ。
こちらも既に「夜」が含まれている。
でも「更す」は他動詞で「更ける」は自動詞のようだ。
つまり「夜更かし」は意図的に夜を更している状態にあるわけだ。面白い。
たしかに、「気づいたら夜が更けていた」って表現されるもんね。「気づいたら夜が更かしていた」とは表現しないもんね。
なんでわざわざ「夜」をつけたんだ...。
しかも読み方は「夜(よる)」ではなくて「夜(よ)」。
面白いなぁ。不思議だなぁ。
でもさ、「夜更かし」の「ふける」は「耽ける」を使った方がいいんじゃない?
ふけ・る【耽】〔自ラ五(四)〕
(「ふける(更)」と同源)
一つの事柄に度をこして深く心を奪われる。溺れる。専心する。没頭する。
だよ。
こっちの方がよっぽど
「夜耽(よふ)かしてる」
って感じがするのに。
文法的に難ありなのかな。
不思議だね。
さて、「ふける」に関してはもういいかな。
私が知りたいのは、「夜(よる)」の「る」はどこへ行ってしまったのかということ。
また辞書を引く。
よ【夜】〔名〕
日没から日の出までの間。よる。よさり。「よる(夜)」の語源。
と書いてある。
よる【夜】〔名〕
日没から日の出までの時間。太陽が没している間。夜間。よ。
なんかいろいろ書いてあって、最後の方に、
(1)「よ」が複合語をつくるのに対して、「よる」は複合語をつくらない。(並列的な「よるひる」は例外)
と書かれていた。
なるほどな。
「夜(よ)」は複合語を作れるが
「夜(よる)」は複合語を作れないのか。
わがままな言葉だなぁ。
・・・。
じゃあ「夜(よる)ご飯」はなんなんだと思った。複合語じゃないか。(?)
読み進めると、たくさんの「夜」に関する言葉。面白いし、楽しい。
タイトルだけでこんなに遊べてしまった。素敵な本だ。もちろん中身も素敵だった。
この本の著者、宮沢和史さんはTHE BOOMのボーカリストだそうで、バンド以外にも映画・ミュージカルの出演、エッセイを雑誌で連載していた過去を持つ、素敵なミュージシャンみたいです。
魂の叫びのような詩が書かれていた。読んでいて、この本はもしかすると昼と夜とで全然違う文章になって、自分の中に入ってくるのかもしれない、と思った。詩と詩に挟まれた写真も見応えがあった。アジア諸国だろうか。中東の写真かな。少女がこちらを見ていたりする。この本の何がいいかって、目次がないの。だから読んでみなきゃわからない。読み進めないと何が書いてあるのかわからない。ふふっ、面白いね。
もう全部面白いや。あぁ、楽し。
まい
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