厚労省老健事業について
厚生労働省の「老人保健健康増進等事業」という事業をご存じでしょうか?
通称「老健事業」と呼ばれます。
事業の実施要綱によれば、「本事業は、高齢者の介護、介護予防、生活支援、老人保健及び健康増進等に関わ る先駆的、試行的な事業等に対し助成を行い、もって、老人保健福祉サービスの一層 の充実や介護保険制度の適正な運営に資することを目的とする」とあります。
事業を実施する主体としては、
(1)都道府県又は市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む) (2)厚生労働大臣が特に必要と認めた法人
とありますが、令和3年度の事業実施主体を見ても、都道府県や市町村がやっている例はなく、ほとんどが民間の研究機関、いわゆるシンクタンクや一般社団法人、公益社団法人、社会福祉法人や認定NPOなどが実施しています。
報告書など見てもらえるとわかりますが、かなり気合の入った事業で、厚労省も行政説明等で報告書を引用することも多いです。
そんなとても大切な事業なのですが、福祉や医療の現場で働く職員でこの事業のことを知っている人はあまりいない印象。
認知症関連で言えば、自治体の認知症施策担当になった職員で、例えば「認知症カフェをがんばってやっていこう!」と思い立った人がいろいろ調べてるうちに報告書にたどり着く、みたいなイメージ・・・。
「なんだかもったいないないなぁ」と思っている自分も、実際にかかわる前にはまったく知らなかったくちです。
でも、今となっては、この事業への参画で色々な人と出会ってネットワークが広がったし、トップランナーの人たちとたくさん議論をすることができて知見も深まる、そんなとても贅沢な時間で、自分にとってはなくてはならないものとなっています。
そんなこんなで、せめて自分がかかわった事業くらいは、誰かの参考になるようにまとめておきたいなぁ(自分の思いでも添えて)と思い立ちました。
2017年度(平成29年度)
「企業等における若年性認知症の人の継続雇用に関する調査研究事業」
実施主体:認知症介護研究・研修大府センター
この事業はいっしょに活動をしていた若年性認知症当事者の山田真由美さんが当事者委員として参画しており、そのサポート役として参加していました。当時はまだ当事者がこうした会議に入ることも珍しく、大府センターさんもはじめての経験だったのではないかと思います。
報告書にもありますが、セミナーを愛知と東京で開催し、愛知では山田真由美さんといっしょに、東京では単独で話をさせてもらました。東京での大城勝史さん(当事者)と中野沙織さん(若年性認知症支援コーディネーター)の講演が本当に素晴らしかったのを憶えています。
2018年度(平成30年度)
「若年性認知症の人の社会参加等への支援体制強化に関する調査研究事業」
実施主体:認知症介護研究・研修大府センター
この事業では、報告書の中にある「企業等を対象とした若年性認知症の理解促進に向けたテキスト」=企業向け研修テキスト作成の作業部会にかかわりました。
なかなか苦労してつくったテキストですが、今でも若年性認知症支援コーディネーターのみなさんが使ってくれているのかな?
前年度に続いて若年性認知症の人の就労についてしっかり考える機会になり、認知症に限らない、仕事と治療の両立支援や就労支援といった文脈の知見やネットワークも広がりました。
※テキストは非公開なので、知りたい方は都道府県の若年性認知症支援コーディネーターに問い合わせてみてください。
2019年度(令和元年度)
「認知症カフェを活用した高齢者の社会参加促進に関する調査研究事業」
実施主体:認知症介護研究・研修仙台センター
仙台センターの矢吹知之さん、藤田医科大の武地一さん、ジャーナリストのコスガ聡一さんといった「認知症カフェといえば」という錚々たる面々と「認知症カフェとはなにか」という議論をできたことは、本当に学びの多い贅沢な時間でした。
成果物のリーフレット「私たちの認知症カフェ」とても思いのこもったものなので、ぜひご覧ください!
「認知症高齢者等の意見を企業等における消費者への対応や商品開発等につなげる仕組みの構築に関する調査研究事業」
実施主体:特定非営利活動法人イシュープラスデザイン
「デザイン」という概念に出会った、自分にとっては大きなターニングポイントになった事業でした。堀田聰子さんや徳田雄人さん、筧裕介さんともごいっしょできたし、名古屋市北区で取り組んでいる「北区認知症フレンドリーコミュニティ事業」も、この事業を通して出会った名古屋芸大の水内智英さんなしでは考えられなかった。
認知症フレンドリーデザインを広めていきたいという思いをもつ直接的なきっかけになった事業でした。
2020年度(令和2年度)
「認知症カフェにおける新型コロナウイルスの影響と緊急事態宣言等の状況下における運営のあり方に関する調査研究事業」
実施主体:認知症介護研究・研修仙台センター
コロナウィルスの大きな影響を受けた認知症カフェ。その火を消さない、という強い思いで緊急プロジェクト的にはじまった事業でした。プロジェクト立ち上げから報告書と成果物のまとめまで、異例のスピード。事務局の仙台センターのみなさんには尊敬と感謝しかありません。
自分自身もオンラインツールを使ってborderless barというつどいを始めたところだったので、実践と全国の状況を知ること、これから目指すところを考えていくことを同時進行でやれて、とても充実していました。
「認知症高齢者等の安全・安心な移動手段・環境実現に向けた企業等の取り組みにつなげる仕組みの構築に関する調査研究」
実施主体:特定非営利活動法人イシュープラスデザイン
この事業では検討委員とともに、山田真由美さんといっしょに名古屋から東京神保町までの実際の移動をフィールドワークとして行いました。それまで感じていた社会の中の移動のバリアをあらためて考えさせられたし、移動の問題にすごく関心が出たのも、この事業に参加したことが大きかったと思います。多様な企業のみなさんとのワークショップを通して、認知症と企業ということについて考えを深めるきっかけにもなった事業でした。
2021年度(令和3年度)
「認知症の人の地域における参加・交流の促進に関する調査研究」
実施主体:人とまちづくり研究所
この事業では、検討委員とともに、報告書の中の「診断後の暮らしと外出・交流や参加に関する認知症のある方による語りあい」の場のひとつとしてborderless hikerz@伊良湖での語り合い(本人ミーティング)を実施しました。13人の本人が、ひとりひとりの発言に深く耳を傾け、呼応するように語りが沸き起こってくるような、そんなすごい場となった。こういう機会を事業の一環として持てたことがうれしかったです。
「認知症の当事者と家族を一体的に支援する支援プログラムのあり方に関する調査研究事業」
実施主体:認知症介護研究・研修仙台センター
認知症の人と家族の一体的支援プログラムに関心があったので、矢吹知之さんと堀田聰子さんに「オブザーバー参加できますか?」とたずねたら「委員やっちゃいなよ!」と言われ、なにもわからないまま・・・笑
全国10のモデル地区のみなさんの熱い想いと実践にふれたこと、一体的支援が、自分がこれまでやってきたことにっても通じることを感じ、これから力を入れていきたいことになりました。一体的支援プログラムを広めるため、facebook上で「学びあいプラットフォーム」もやっています。
ウェブサイトや手引きのデザインも素敵なのでぜひ!
まとめ
このようにあらためて振り返ってみると、自分のかかわってきた事業では、若年性認知症、認知症カフェ、本人ミーティング、認知症フレンドリーデザイン、社会参加、移動、認知症の人と家族の一体的支援、といったあたりがキーワードと言えそうです。
2022年度は、チームオレンジもキーワードに加わりそうです。