ラファエロとペルジーノ
先月9月17日、イタリア美術界のニュースが、世界を賑わせた。ラファエロ・サンツィオ、レオナルド・ダ・ヴィンチとミケランジェロと並び、ルネサンスの三大巨匠と称されるラファエロの新たな作品が発見されたと言う。
ラファエロの師、ペルジーノが自らの夫人をモデルに描いた「マグダラのマリア(Maria Maddalena)」と非常によく似た個人蔵のこの作品が、ラファエロの生地近くで開催されていたラファエロに関するシンポジウムにおいて、ラファエロの作品であるとする研究結果が発表されたとのこと。確かに画像で見る限りは、ラファエロ風でもあり、また、これもあくまでも画像上とはいえ、師匠ペルジーノの作品と比較しても、フィレンツェのピッティ美術館所蔵の師の作品はやはりペルジーノらしいのに対し、話題の作品は全体に色彩もタッチも柔らかく甘く、素人目には、そう言われればそうなのかな、と思える。が、全くありえないと真っ向から反対意見を述べている専門家もあり、今後さらなる研究の進むことを期待する。
大きな話題になるのも、活発な議論になるのも、やはりラファエロとペルジーノと、知名度の違い、すなわち、つまりのところ経済的価値が大きく異なってくるためもあるだろう。だが、誰でも名前くらいは聞いたことのあるだろう「ラファエロ」も、師ペルジーノなくしては存在し得なかった。
春にペルージャで開催されていた、ペルジーノ展「Il meglio maestro d’Italia. Pergino nel suo tempo(要約 : イタリア最高の画家、ペルジーノと彼の時代)」は、そのタイトル通り、ペルジーノの画家としての力量とその果たした役割について知る、よい機会だった。
師ヴェロッキオの作品と、同じ工房で学び競い合った画家らの作品と、ペルジーノ本人の若い頃の作品。そしてある時点で、これぞ「ペルジーノ」!という独自のスタイルを確立する。人気を博し、大きな工房を構え、多くの注文を抱え、多くの弟子を使い作品を量産する。工房で注文を受けて大勢で仕上げる、それは中世から続いてきた「絵師」の当然のやり方だった。絵画はアーチスト個人の作品ではなく、教会の祭壇や壁、あるいは君主や有力者のお屋敷の壁を飾る「機能」品だった。受注の際に、同じような内容、同じような大きさの作品であっても、工房長たる師匠による直接の筆が中心なのか、あるいは大方を弟子らに任せるのか、予算に応じて異なるのはあたり前のことだった。
そしてまた、絵画や彫刻が、工房での受発注から作家個人の作品が求められるようになる、過渡期となったのが、まさにレオナルド・ダ・ヴィンチやラファエロの登場だった。今もなお世界中の人を魅了し続けるラファエロ、ペルジーノの工房で育った彼の初期の作品は、師の作品に酷似していて、(主な)作者がどちらなのか、評価の揺れている作品は他にもたくさんある。
展覧会は終了しているが、ペルージャの国立美術館には、ペルジーノの作品が何点も常設されている。また、ペルージャのペルジーノとしては、コレッジョ・デル・カンビオのフレスコ画も欠かせない。(ここのみ撮影禁止)
サン・セヴェーロ礼拝堂(Cappella di San Severo)は、ラファエロとペルジーノの共作の例。ただし、師弟が同時に筆を振るったのではなく、上半分をラファエロが描き、彼の夭逝後に老師が下半分を完成させている。
先月まで、バチカン美術館では、ペルジーノの祭壇画「キリストの復活」が特別に展示されていた。1499年にペルージャのサン・フランチェスコ・アル・プラート教会の中の一礼拝堂のために、ペルジーノが依頼され描いたもので、1797年、ナポレオンのフランス軍により接収され、その後1815年にローマ教皇に返却されたもの。バチカン美術館に所蔵されていたが、教皇パオロ6世が教皇の図書室にと望み、以来、ふだんはそこに飾られている。VIPの教皇謁見の際などに、写真でチラ見することはあるものの、間近で見る機会のなかった作品だが、ペルジーノ没後500周年の機会に修復作業を行い、この夏の間、こうして一般に公開された。ペルジーノらしく、かつ、ラファエロへの影響もよく見て取れる大変美しい作品で、(ナポレオンがルーヴルにと望んだのも、)教皇が手元にと求められたのもわかる気がした。
Il meglio maestro d’Italia. Perugino nel suo tempo.
Galleria Nazionale dell’Umbria
4 marzo - 11 giugno 2023
https://gallerianazionaledellumbria.it/mostre/mostra-perugino/
"Excellentissimus pictor” La Resurrenzione di Cristo del Perugiono
Sala XVII, Pinacoteca, Musei Vaticani
28 giugno - 15 settembre 2023
https://m.museivaticani.va/content/museivaticani-mobile/it/eventi-e-novita/iniziative/Eventi/2023/museums-at-work-perugino.html
1° ottobre 2023
#ペルージャ #ペルジーノ #ラファエロ #ラッファエッロ #バチカン美術館 #展覧会めぐり #イタリア
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