見出し画像

想いを、馳せる。「ポルトガル短篇小説傑作選」

  ポルトガルのアズレージョ、手描きのタイルが貼り付けられたかのような、シンプルだが美しい装丁、手に取ると思っていたよりも薄めで、その分コンパクトで手になじみがいい。ジャケ買い、じゃないけど、本屋さんで目にして、これは!と確信した。
 昨年末、イタリアの現代文学の短篇を集めた「どこか、安心できる場所で」と、ちょうど時を同じくして出版されたこの本は、書評などでも共に取り上げられることも多かった。「どこか・・・」のあと、すぐにこちらも読みたいと思いながらも、なんとなく手元にずっとおいたままになっていた。

 20世紀を代表する重鎮から現代の新鋭まで、テーマも文体もさまざまなこの短篇集は、なるほど「あとがきにかえて」で編者の黒澤直俊さんが解説されているように、ポルトガルは1970年代まで言論統制を含めた「鬱屈した惰眠状態」にあったために、文学があまり国外から注目されることも少なかったのだろう、イタリアの「どこか・・・」と比較するとややクラシックでノスタルジックな印象を受けた。それは、カルヴィーノだ、エーコだと国際的に知られる大作家たちを擁したイタリアが、「その後」の21世紀の文学を紹介に努めたのに対し、こちらはまず、20世紀を振り返るところから始める必要があったということだろう。

 『ガルヴェイアスの犬』のジョゼ・ルイス・ペイショットは記憶に新しいが、おそらく他の作家の作品はこれまでに読んでいない(と思う)。
 現代の(あるいは前世紀の)ポルトガルを構成する普通の人々、どちらかというと、社会の中で底辺や周辺でひっそりと息を潜めて生活しているかのような人々の日常が淡々と炙りだされる。と同時に、前述のペイショットの「」首都リスボンで観光名所の1つでもある大航海時代のモニュメント、大海をめざし旅立っって行ったあの晴れ晴れとした誇りと栄光は、ここにいはない。ヨーロッパ大陸の端っこで、ひっそりと息を潜めているような、そんなポルトガルという国自身を象徴しているようでもある。
 最後のリカルド・アドルフォの作品はそんな中で、あっ!と言わされた。シュールで不思議で、空想を超える物語は案外身近にあるのかもしれない。

・・・ポルトガルも、また行きたいなあ・・・。

画像1


ポルトガル短篇小説傑作選
よみがえるルーススの声
ルイ・ズィンク、黒澤直俊 編

#ポルトガル #ポルトガル短篇小説傑作選 #エッセイ #リスボン #読書 #現代企画室 #東京  
Fumie M. 09.17.2020

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?