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秋の夜長に〜「星に仄めかされて」、多和田葉子
バラバラのピースが、バラバラすぎて不安だった、焦るようなこのままずっと繋がらないのではないかと恐れるような、不協にすらならない音が単独で、あちらでボーンとなってはこちらでカーンと鳴る、そんな前作が「地球にちらばめられて」というタイトルだったことに、あらためて、あ!と気づく。地球のそこここにちりばめられた、バラバラだったパズルのピースがだんだんと間を埋め、引き寄せあい繋がっていく「星に仄めかされて」、あるいは月に導かれるように。
留学中に故郷の島国が消滅してしまったHirukoの焦りが、真っ白な濃霧の中で空回りするような、アンバランスで終わりの見えない展開に胸の奥がどきどきというか、ズキズキさせられるようだった前作が、ゆるやかにほぐされ、少しずつ霧が晴れていくような、やみくもだった手探りの先に手応えが見え始めるような、そんな意味で、少し先を急ぐように一気に読んだ。読み進めるが怖いような、ビクビクとページをめくった前作とは違って。
祖国が無くなるなんて、そんなバカな。そんなの、荒唐無稽な映画の中のお話だけだよ、とか、政情不安のちっぽけな国だけだろ、なんてひとごとでは決してない。故郷は何よりまず自分を育んできた文化であり、アイデンティティであり、言葉であること。
絶対、なんてありえない。世界中の安心と常識が揺らいだこの2020年で学んだこと、そう、ある日祖国がなくなることだってないとは決して言い切れない。地球上のあちこちに、今、この瞬間にも、祖国を失い、追われ、あるいはまた言葉を禁じられている人が、いる。ファンタジーの世界でいるはずが、ふと気づくと現実の世界にいる。
地球の上の旅から心の旅へ。多和田ワールドからまだまだ、逃れられそうにない。
星に仄めかされて
多和田葉子
講談社
https://bookclub.kodansha.co.jp/buy?item=0000339207
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Fumie M. 10.17.2020