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「マウントドレイゴ卿・パーティの前に」 サマセット・モーム

木村政則 訳  光文社古典新訳文庫  光文社

ミステリーという基準(訳者の判断による)モーム短篇6編。「雨」も含む。 
(2017 02/20)

ジェインの進行と謎


光文社古典新訳文庫のモーム短編集から冒頭のジェインを昨夜読んだ。
この短編集では広い意味での謎解き作品を集めたと訳者木村氏が書いている通り、この短編も何故ジェインがいきなり義姉を出し抜いて変身したのかがさっぱりわからない。そんなこと気にせずに台詞の素早さを堪能すればいいだけ…劇作家として成功したモームはそう考えているのかも。
そこでもう一点、この作品一応「私」が語り手として登場するのだが、「私」がその場から退場してからも、本来なら見ることのできないその後の経過が事細かに書いてある(後で伝聞したとかいう説明も無し)。視点が曖昧…というか舞台の天井に貼り付いている感じ。ここでも劇的。「私」も単なる一登場人物なのだ。
(2017 05/02)

パーティーの前に幸せな二人


昨日未明から昨夜にかけて、モーム短編集から「パーティーの前に」と「幸せな二人」の二編を読んだ。

前者はボルネオ北サバ州舞台でこの時期はイギリスから委託された会社の駐在員が現地裁判権も行使していた。そんな駐在員が有能なんだけど飲んだくれで、何度も裏切られた妻が殺してしまう…という筋。それがイギリスに妻が戻ってきて、病死とか自殺とか言われていたその死の真実を語るのが、パーティーの前だった、というのがポイント…でも、もしここで殺してなければどうなっていただろう、と考えると…あとは打ち明けられた父親は法曹界の人間みたいなんだよな…

「幸せな二人」は、リヴィエラの別荘生活を背景にした、とある資産家女性殺害事件の話。
解説にある通り、もしその女性と後のグレイグ夫人(当時は処女と認定された)が同性愛関係だったら、ルンドンの説は間違っていることになるけど、それでなくとも読者には状況証拠がいろいろ。夜逃げしたグレイグ夫妻がこれまでの費用を残していったこと(それを記述していること)、ルンドンという判事?が女性に対して古い価値観をちらつかせるなどしていること、それから小説の構造上の証拠なんだけど、別荘生活の女友達の空想したグレイグ夫妻の愛の物語が虚構であるなら、ルンドン判事?の事件推理も対照に虚構ではないだろうか。
意外に長くなった…

でも同性愛説が正しいとすれば、タイトルの「幸せな二人」とは… 
(夫妻になってからは子供もできてるけど)
(2017 05/06)

「雨」と「掘り出し物」とその後


昨日はモーム短編集から「雨」と「掘り出し物」。これであとは解説だけ。前者は実は再読もの。

「雨」はデヴィッドソンに最後に何が起こったのか、「わかったのである」と唐突に書かれて終わっているけど、読者としてはわからないまま突き落とされた感じ(傾向はわかるけど、何故かは謎)。

「掘り出し物」は短編集冒頭の「ジェイン」と似た語り口のスピード短編。これに挟まれるようにいわゆる謎解き短編が並ぶのは…たぶん狙ったのだろう。

「雨」の語りで気になるのはどこの視点だろうということ。第三者的語りなんだけど、誰の内面にも入り込み、そして出ていく。この当時(1921年)には既に語りに重きを置く作品が結構出てきていると思われるだけに…他の謎解き系作品とも見比べたいなあ。
あとはその謎解き系作品のその後…そのあとどうなったのか、気になるなあ…特に「パーティーの前に」と「雨」…
(2017 05/09)

最大の謎


モーム短編集の解説を昨夜読んだ。モーム作品の翻訳家としても知られる中野好夫氏は正反対の性格を併せ持つ(持ってしまう)人間そのものを最大の謎であると「サマセット・モーム研究」という本で述べている、とか。
この短編集にはそうした側面が強く出た作品が並んでいる…それともモーム作品のほとんどがそうしたものなのかな。
(2017 05/10)

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