「墓地の書」 サムコ・ターレ(ダニエラ・カピターニョヴァー)
木村英明 訳 東欧の想像力 松籟社
出版時はサムコ・ターレ名義で「ドラマツルギー担当」がダニエラ・カピターニョヴァーとなっているのだが、実際には劇場でドラマツルギーを担当しているダニエラ・カピターニョヴァー自身が作者の作品。
サムコ・ターレとは
知的障害を持ちダンボール拾いをしているサムコ・ターレが(作中でも実際にもこの本を出版している)コロマン・ケルテーシュ・バガラが立ち上げたLCAという出版社から出版したスロヴァキアの現代作品。
東欧革命とチェコスロヴァキア解体という時代と、作者ダニエラ・カピターニョヴァーの出身地でもあるコマールノ(ドナウ川に面した街で元々はブタペストのような街であったのが第一次世界大戦後のトリアノン条約により街の主要部分がスロヴァキア側になり、その為スロヴァキアでのマイノリティとなったハンガリー人の割合が高い街)という場所とが関わってくる。「墓地の書」というタイトルからかなり重たい内容なのかと思いきや、正反対の飛び過ぎな内容。
もうやめてくれ(笑)みたいな感じなのだが、二重にひねくれている曲面からアルフ・ネーヴェーリの屈折しているような人物像が浮かび上がってくる場面。じゃ、サムコ・ターレはなんなのさ(笑) とても変テコな本。
(2016 05/15)
長姉マルギタと次姉イワナ
「墓地の書」…印象的な場面は葬列にあるトラック運転手がキャンディーばらまくところ。葬式そっちのけでキャンディー拾う…拾わないのはカンオケだけ…っと、作者?サムコの長姉マルギタと次姉イワナの各夫婦が対照的になっている。前者は民族主義的、後者はそうではない…サムコ自身は前者に近いが、本物の作者はなんとなくイワナに現れているのかな。
(2016 05/17)
サムコ・ターレ暴走中
…なんだけど、まずは違うところから。
「あの時ああ言ってたでしょ」って人は(実際には言ってなくても)言い繕うものだ…
続いてはサムコの「だって」節(笑)。次姉の夫が兵役を逃れる為に不正なやり方?(インチキキノコ?)で健康診断を受けた場面。グナール・カロル博士とは「上の人」で、密告者の取り纏めみたいなことを、どうやらしているみたい…
おいっ、なんで(笑)。 というわけで、サムコ・ターレなんて近くにいてほしくないヤツなんだけど、なんかこの作品の中では憎めないんだよなあ…
あとはアメリカ人の英語教師との人種差別の議論あれこれ…のところもなんだかなあ…の話の持っていきよう(p120~121のところ)。
…えと、この本の帯の文章(HPの紹介文も同じ)だけ読むと、なんかとてつもなく重い内容かと思ってしまうなあ、たぶん(笑)…
(2016 05/18)
原子爆弾の死の灰から身を守る方法
…は次のうち、どれ?
1、キノコ
2、からし
… (しんきんぐたいむ)
答えは…
「墓地の書」を読み終えた。今までいろんな街やところを舞台にした小説読んできたけど、この作品のコマールノほど行ってみたくなる街はないなあ(笑) フラバルの「英国人…」とか、別にキノコつながりじゃないけどトカルチュクの「昼の家…」とか他の中欧作品も連想させる。前者は饒舌な語りに、後者は身近な細かいものへの視線に。もっと遡ればハシェクなのかな。
このサムコ・ターレという知的障害を持つ語り手はこの小さな街での小さな密告者ではあったのだけど、逆の面から言えば共産党政権下ではそういう人達の場を確保・保護してきたとも言える。そのどちらがいいのか、作者(サムコじゃない方)はこの作品を空中に放り投げて読者に考えてもらいたいのかも。そのほかにもいろいろ。
でも、なんで「墓地の書」なんだろう…
(2016 05/20)
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