「中東欧音楽の回路 ロマ・クレズマー・20世紀の前衛」 伊東信宏
岩波書店
伊東信宏氏について
今日読んだCDジャーナルで中・東欧のロマミュージックの紹介記事があった。そこに本(「中東欧音楽の回路―ロマ・クレズマー・20世紀の前衛―」)が紹介されている伊東信宏氏は、前に読んだ「バルトーク」と、図書館で借りて全部読み切れなかったけど面白かった「ハイドンのエステルハージソナタを読む」の著者でもある。
さて、この本は、どうやらハンガリーの辺りを中心に西欧クラシック音楽と民族音楽の境目をほじくり返して新たな視点を導入している人…らしい。この本もストラヴィンスキーからモルドヴァのロマバンドからペギー葉山まで(笑)、引用音楽や文献は幅広い。自分にとってもエミール・クストリッツァやタラフ・ドゥ・ハイドゥークスの起源がどのようなものなのか、とてつもなく興味がある。
(2009 04/18)
上記補足
「ピアノはいつピアノになったか? (阪大リーブル001)【CD付】 」なんてのもあるらしい。
あと、バルトーク関連で楽譜の校訂も結構行っている。
(2012 02/25)
アマゾンで注文し、入手して気づいたのだけれど、なんとCD付き。様々な民族を越えて複数域に活動していた村の楽師の音楽を、クラシックも世俗音楽も両側で取り入れた。自分などもこういう中東欧の移民は西欧やアメリカの方向の移動は思い描けていたけど、ここにあったペギー葉山から小澤征爾に至るまでのハルビンなどの東進ルートというのは見えてなかった。
(2013 05/11)
ショスタコーヴィッチのピアノ三重奏曲
標題のショスタコーヴィッチのピアノ三重奏曲だが、第2番の終楽章がクレズマー音楽のリズムではないか、と「中東欧音楽の回路」に書いてあったので、昨晩聴いてみた。
この曲自体、ショスタコーヴィッチの友人に捧げられたものなのだが、その友人の出身地というのかヴィプテスク…現ベラルーシの都市、シャガールもここの出身)…であることから、シャガールが幼少の頃に聴き、後に描いた村の楽士やバイオリンの音楽はこのようなものではなかろうか、と著者伊東氏は述べている。
ちなみに、第1番の方は単一楽章の割りと短めのもの。
(2013 05/22)
通貨としての民族音楽
伊東氏の「中東欧音楽の回路」第4章はモルドヴァのブラスバンドの取材から。
もともとバルカン地域では、ロマ達が弦楽を中心にしたタラフ(ここではルーマニアでの表記)という編成が盛んだったが、1920年代くらいから弦楽を金管に持ち変えたバンドという編成となった。こちらは1940年代くらいが盛期でそれ以降はドラムなど入れた一般的ないわゆるバンド(でも当人達はオーケストラと呼ぶらしい)となる…これが1990年代にクストリッツァ監督の映画「アンダーグラウンド」等でリバイバルしたらしい。
(第一次世界大戦後、弦楽から金管に持ち替えたのは、オスマン帝国が滅亡して、オスマン軍楽隊(メフテル)の楽器が余ったから、という説あり)
で、標題なのだけど、3章で出てきたコダーイやバルトークそれからクンデラの小説の登場人物達は、各民族固有の真の音楽があるはずと思って調査したりしていた…けど、実際に何の機縁もない時に歌う民謡ってどれくらいあるのかな。少なくとも、ここのロマ達はそういうのはない、と言う。いろいろ民族音楽とか聴いてきたけど、そういう音楽の場の問題とかは、研究者のレベルでは論じられているかもしれないけど、自分では考えたことなかったな。
そこにあるのは周辺の貴族や農民等に差し出す通貨としての音楽。
(2013 05/28)
ファリャと粉屋の話
ファリャのペドロ親方の人形芝居ほかを聴きました。ファリャと言えば三角帽子か恋は魔術師かという感じでしたが、こういう新古典主義(でよかったかな、名称)的なのもあるんですね。原作はドン・キホーテの後編のからで、ドン・キホーテが人形劇見ているうちにどっちが現実かわからなくなる、といういつもの?パターン。それ全体を(ファリャの作品のもともとは)人形劇で上演するというなかなか面白げな作品。ソプラノの早口言葉みたいな名人芸も楽しみ。
(この曲冒頭が、ダブルリード楽器と太鼓のアンサンブルで、中東欧の音楽そっくり)
で、「中東欧音楽の回路」ではオペレッタからエネスクへ。その中のコラムで、シューベルトの「美しき水車小屋の娘」、ヤナーチェクの「死の家の記録」(原作はドストエフスキー)、そしてさっきも挙げたファリャの「三角帽子」、これらに共通する粉屋という存在について書いてあった。粉屋はヨーロッパの農民達にとって、年貢を納めさらにそこから粉挽き料(農民が個人で挽き臼などを持つことは禁じられていたという)を取られる、という存在。そして村外れに位置し旅籠や酒場も開いていた例も多いという。
(粉屋といえばギンズブルグ「チーズとうじ虫」も参照…)
ところで、昨日聴いたファリャのアルバムの中にあったチェンバロの協奏曲的な曲は、かなり前に聴いたチェンバロ協奏曲と同じものかな。また、プシュケという曲は、(「プシュケとエロス」というフランクの曲とは全く雰囲気違う)これまたチェンバロの楽しい曲。ファリャリバイバルが続きそうな気配…
(2013 05/30)
「中東欧音楽の回路」読み終わり
標題の本、昨日読み終わり。リゲティへのインタビューとバルトークの民謡収集の旅の追行(現地追跡取材)。この本読むと、20世紀初頭のストラヴィンスキーやバルトーク、今のリゲティなどいわゆる前衛と、村の楽士達の音楽が土台として共有しているものの多さがわかる。でも、オケコン(バルトーク「管弦楽のための協奏曲」)のフィナーレのどこに、添付CDの豚飼いの旋律使われているのかよくわからない…
(2013 05/31)
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