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限りなく“普通”の自分︰映画『すばらしき世界』
ずっと躊躇っていた。やっと観ました。
あらすじ>>>
13年の刑期を終え、旭川刑務所から出所した元殺人犯の男性。今度こそカタギとしてまっとうに生きるとの決意を胸に上京した彼は、身元引受人となった弁護士とその妻に温かく迎えられる。一方、あるテレビディレクターのもとに、社会復帰を目指す前科者のドキュメンタリー番組を制作するという依頼が持ち込まれる。受刑者の経歴を記した身分帳の写しに目を通したディレクターは、その壮絶な過去に怖気づきながらも、下町のアパートで新生活をスタートさせた前科者への取材を始める。
簡単には観返せないと思うけど、観てよかった!超面白かった!
役所広司さん、本当に大好きです・・・❤️
一番やめてーーーー!!となったシーン。
三上の出所後の取材をするディレクター津乃田(仲野太賀)とプロデューサー吉澤(長澤まさみ)。3人で歩いていたところ、三上が正義感から道で喧嘩を始め、相手を何度も殴り始めてしまう。
最初はカメラを回していたが、いたたまれなくなった津乃田はカメラを吉澤から奪い逃走。
そんな津乃田に対して、
「撮らないんなら割って入ってあいつ止めなさいよ!
止めないんなら撮って人に伝えなさいよ!
上品ぶって…あんたみたいのが いちばん
なんにも救わないのよ!」
自分に言われてるようだった。
吉澤は三上をエンタメとして消費しているけど、テレビマンとしては多分、正しい。そしてそれを間違っていると思う正義感も、きっと正しい。
「蓋をして逃げるのも解決策である」。
それは実際そうであるけれど、それをカッコいいと思えず、でも突破する度胸も決断力もない。(津乃田は最終的に行動していたけど)
そんな自分は、限りなく社会が定義する“普通”の人間なのだなと実感した。
だって、蓋をするのがめちゃくちゃ上手い人は、多分生きるのが上手でのらりくらりと成功する鋭敏さがあるから。
そのどちらにもなりきれず、そして傍観者として嘲笑するほど浅薄にも過ごせない。ただ自分の心の中の美徳が渦を巻いて、黒い感情が溜まっていく…。
そんな自分を情けないと思ってしまうけれど、そんなとこまで含めてめちゃくちゃ普通の人間すぎる。ヤクザ映画とかが大好きなのも何か非日常でカッコいいからだし。普通ー!
でも、社会の片隅に、“普通に”なるためにもがいて苦しんで懸命に生きている人がいること、それを「知る」ことが出来た。
他者を知ること、それが少しでも自分の想像力の基盤になっていたら、与える強さがなくても感じ取る優しさが少しでも身に付いたのなら、それだけで今は十分だ。
私は私なりの精一杯でやっていくしかないのだ。
「何をしようが追い出されんのは、
ムショだけかもしれんね」
この台詞が無性にカッコいいと思ってしまったのも、ヤクザやマフィアに若干の憧れがある“普通”の自分だからか…。むむむ。
どうしても三上正夫という人間を愛おしく感じてしまうけど、彼の暴力性や両手に収まらない受刑歴、底に存在する倫理の歪みから目を逸らさないように、、、でもそれは決して見放していいということでもない。バランスを取って歩んでいきたいね。
『すばらしき世界』というタイトルには、どういう意味が込められているんだろう。
残酷な世界の皮肉だという人もいれば、六角精児さんは「まんざら捨てたもんじゃねえ」というメッセージだと解釈したという。
最期、三上は世界のことをどんな風に思ったんだろう。
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私は、秋桜を片手に抱えて自転車を漕ぐ三上の姿を、あの情景を、一生忘れないだろう。