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『牡蠣殴って、書きなぐった、夏季』#短編小説

「当たりますように」

人生をイージーモードで過ごすためにはお金が必要。お金があれば高望みしない限り、それなりに楽な人生を送れるだろう。みんなで祈れば怖くない。神様もきっと聞き飽きた願いを胸に、宝くじを買った。バラで30枚。

「9000円ってことは飲み会3回分だな」

「3回我慢して一生暮らせるお金を手にできるなら安いよ」

「夢あるね〜。300円が3枚だけ当たる未来が俺には見えてるけど」

「大金を手にしてる未来しか僕には見えてない」

「それは何より。万が一外れたら、飲み会3回分のお金を使ってマクドナルドで900円相当のハンバーガーでも食べような」

「そこは当たったら旅行しようとかにしてよ」

「ま、そうだな。当たったら宇宙旅行にでも行こうか!」

「バカにしやがって」

猛暑日の連続更新日数が過去最高を連発。24時間冷房を稼働させ続けなければ倒れてしまう。当たる気がしまくる宝くじの結果を見るまでは、倒れるわけにはいかない。抽選まであと1日。

「明日だよな?」

「宝くじの発表?うん」

「高額当選の前祝いでもしようぜ!」

「当たってからで良くない?」

「求めよ、さらば与えられん。でしょ!当たりを願って飲みに行こうぜ!」

我ながら自分はチョロい男だ。誘いに乗せられ宝くじ当選の前祝い飲み会にそそくさと向かう。

「よっしゃ!始めるか!好きなもん食べようぜ!」

「いや、だからまだ当たってなくて」

「でもさ、当たると思ってるんでしょ?」

「え、うん。当たるよ。今回はいつもと違う。絶対に当たる」

「じゃあいいじゃん!普段食べないようなものを食べよっと!」

「手持ちで払えなくなるほどはやめてね?」

「もち!」

彼が手当たり次第に料理とお酒を注文する。

「当店は、刺身、蟹、鮑、牡蠣がオススメですので!」

店員を気取る彼。

「おまたせいたしました!」

「キタキタ!生牡蠣、最高!」

牡蠣を食べる機会なんてこれまでなかった。初めての牡蠣。どんな味がするのだろう。

「初めて食べる」

「牡蠣?まじか!ポン酢をつけてあとはすすればいいよ!」

彼に言われるがままに牡蠣を食す。初めての牡蠣。プリプリの食感。ポン酢とマッチする。

「お、美味しい!」

「でしょ?やっぱり牡蠣は最高だわ!記念に貝殻持って帰りなよ!」

「記念に持ち帰る!?バカにしやがって!」

「痛っ」

見慣れた天井。自宅だ。激しい頭痛に襲われ目が覚めた。無事帰ってきていたか。初めて牡蠣を食べたところから、その後何があったか思い出せない。あれから相当飲んだようだ。外が暗い。最悪だ。丸1日布団と友だちになっていたらしい。

「う……」

気持ちが悪すぎて思わず声が出る。冷蔵庫から水を取り出し応急処置を図った。

「あ!」

わずかに冷静さを取り戻して思い出した。宝くじの当選番号が発表される日。スマホを手に取り当選番号を調べる。

ハズレ、ハズレ、ハズレ……。当たりが出てこない。10枚調べた結果、安定の300円が当選。

ハズレ、ハズレ、ハズレ……。20枚目で再び300円。計600円の当選。残り10枚。大丈夫。きっと大丈夫だ。

「いざ」

プルルルル。

「うわ!」

タイミングが良いのか悪いのか、彼から電話がかかってきた。

「よ!元気?」

「元気?じゃないよ!」

「あー、元気そうだね!沢山飲んでたから心配になって」

「今の話聞いてた?」

「それより宝くじはどうだった?」

「今のところ600円当選」

「おっ!今のところってことは結果見てたとこか!600円!これはマクドナルドの会にリーチかな」

「いや、残り10枚で当てる」

「おー!楽しみにしてるわー」

「調べるから待って」

ハズレ、ハズレ、ハズレ。むむ。マズい。ハズレ、ハズレ、ハズレ。

「どう?」

「6枚ハズレ。あと4枚」

「マクドナルド!マクドナルド!」

「やめろぉ!」

ハズレ。お。

「300円」

「300円?おめでとう!合計900円か!」

「いや、あと2枚あるから」

「当たる?」

ハズレ。ラスト1枚。

「当たった」

「マジ!?900円超えた?」

「1000円当選」

「おぉ!やったじゃん!合計1900円!」

「やっぱり当たらないか……」

「俺は最初からそう言ってたけどね」

「当たる気がしたのは何だったのか」

「牡蠣に当たってお腹下したりは?」

「それすらもない。当たらない」

「あ、そういえば!カバンに牡蠣の貝殻入れてたね!」

「え」

カバンを調べる。たしかに牡蠣の貝殻が入っていた。

「記念品だね!」

「いらないよ!」

「それから昨日はごちそうさま!」

「ごちそうさま?」

「会計が所持金オーバーしちゃったけど、絶対当たるから全額カードで払うって意気揚々と」

「は?」

財布を確認する。折り畳まれた長いレシートが現れた。

「じゅ、10万!?」

「ごちそうさま!」

「ふざけるなぁ!!!!」

理性を飛ばすのは怖いもので。近くに置いていた牡蠣の貝殻を思わず殴った。

「痛っっっ!」

自滅。牡蠣に拳がやられた。

「どうした?」

「感情に任せて牡蠣を殴って自滅した」

「はっはっは!やばっ。牡蠣に当たるなって!」

「くっそ!」

「マクドナルドじゃなくてハンバーグ屋にでも行こうか!1900円もあるなら」

「バカにしやがって!!!!」

10万円を容易く払う余裕はない。せめてもの、起きたことを綴って誰かの人生のアクセントにでもなれたらいい。投げ銭の1つや2つでももらえたら嬉しい。

続く暑さも相まって、追い込まれると人は、冷静なときに考えもしないことを思いつくようだ。

一連の出来事を書きなぐってネットで公開した。

「当たりますように」

今度は書きなぐった文章が注目されて、大当たりすることを願っている。



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