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圧巻のウエストミンスター寺院と、イギリス最古の本屋でナンパされた話【ロンドン旅行記】

この夏、イギリスとスペインに一人旅をした時の日記です。

6月27日(木) 午後


ロンドンで噂のインド料理を初体験


「ロンドンで食べるものに困ったら、インド料理屋にいくといいですよ。」

そういってくれたのは、梅屋敷にある本屋、葉々社の店主さんだった。

「インドはイギリスの植民地だったから、インド料理のレベルが高いんですよ。」


その言葉が記憶に残っていたせいか、

ウエストミンスター寺院に向かうためパディントン駅をめざして歩いていたつもりが、気づくと吸いこまれるように、駅の途中にある「インディアンレストランMughal’s」に入ってしまっていた。

この店は人気店で、夜に前を通るたび、入り口に人だかりができるほど混んでいる。

しかし待つのが嫌いな私は、入りたいとは思っていなかった。

でも、今の時間は2人しかお客さんがいなくて見るからにすいていたので、気づいたら扉を開けていた。

店内は明るく、テーブルに白いクロスが引いてあり、銀のカトラリーが用意されている。

黒いシャツでかちっときめたスタッフがスタンバイしており、広いテーブルに通してもらったあと、メニューを丁重に手渡してくれる。


日本とイメージが違う。

日本でインド料理屋というと、、

ナンとカレーの安いセットが基本のメニューで、薄暗い店内に、金の縁取りの布やガネーシャの絵が飾ってあって、ネパールかインドの風景のポスターが貼ってあり、スタッフは黒いポロシャツを着ている。

だいたいそんなイメージである。

イギリスではそうではなく、インド料理はもっと一つのジャンルとして確立されていて、高級店もたくさんあり、王室やセレブが御用達の店も多いようだ。風格が違う。

ふと入ったこの店はもっとカジュアルだけれど、メニューの種類が多い。「curry」という文字はどこにもない。「全然味が想像できないから教えて」と店員さんにお願いして、ようやく注文できた。


まずは、豆を煮込んで、豆がもはや溶けてカスにみたいになっている「ダル」というスープ。

味が薄めなのだが、スパイスの複雑な味とレモンが組みあわさり、すみに置けないおいしさである。


こちらはたまねぎと一緒に炊いたビリヤニ。別皿にカレーがついてきたので混ぜて食べる。

スパイスの使い方が日本で食べるものより複雑だ。辛味に酸味にいろいろな刺激が混ざりあって、ハーブのような絶妙なバランス。

香りが鼻にぬける。

体にも効いている気がする。

こりゃおいしいわ。

パクパクパク。



でもね、食べながらふと思い出す。無計画に衝動的にこの店に入ってしまったことを。


もうそろそろ、ここを出発しないと14時のウエストミンスター寺院には間に合わないよ!

あわてて我に帰る。

目の前の料理の量を考えて、店員さんに残りを持ち帰りできるか聞いてみた。すんなり対応してくれ、しっかりしたタッパに包まれビニール袋に入れた状態で渡してくれる。

ありがとう。支払いはたしか、15ポンド、3000円くらいだった。

初のインド料理体験と引き換えに、時間がギリギリになってしまった。

ウエストミンスター寺院に入れるだろうか。


イギリスらしさが濃縮されたウエストミンスター寺院


あわててパディントン駅に向かい地下鉄に乗り込む。

しかしここで、グーグルマップに示された地下鉄の、本線と支線のどちらかに乗ればいいのかわからない。

ホームで居合わせたヒシャブを被った女の子たちに聞こうかどうか迷っているうちに電車を乗り過ごしてしまう。次は10分後。

ようやく乗れた地下鉄で、最寄駅についたものの、時刻はすでに14時26分である。

14時30分までに入場しないとまずいんだ!!!

人混みをかきわけかきわけダッシュで向かう。

およそ10分で到着して、受付でスマホのチケットをみせると、時間なんてまるで気にしてない風だった。拍子抜けだよ。


というわけでウエストミンスター寺院の中に入った。日本語の音声解説がついたイヤホンを借りて装着する。


うあわー。

入るなり、これは圧巻の美しさだ。

カラフルなステンドグラスから入る光。

天井へと視線がみちびかれる美しいアーチの支柱。

そして、目にみえる高さの壁のいたるところは、彫刻がほどこされている。






順路に従い、ぞろぞろと見て回る。

ステンドグラスの模様はカラフルだが一つ一つが綿密に作り込まれ、直線的でパターン化され、理性的な印象をうける。



10年以上前、イタリアやバチカンでみた教会は、もっと曲線が多かった気がして、同じステンドグラスも全然イメージが違う。


あとで調べてみたら、ウエストミンスター寺院の現存のステンドグラスは中世ではなく、19世紀に作られたものだそうだから、作られた時期の違いもあるかもしれない。

ここは多くの王族や政治家が埋葬されてきた場所であり、◯◯王が眠る墓といった小部屋がたくさんあり、過去から引き継いだものの重たさがただよっている。

そんな空間が装飾的なデザインで飾られ、不気味さは、神聖で華やかな権威へとかわる。

ここでは、戴冠式の椅子もみれて満足。

『The Crown』というイギリス王室ドラマのファンである私は、若きエリザベスの頭に王冠が置かれたシーンを忘れてはいない。


旗のデザインが素晴らしいお部屋。

あとで調べたらずらっと並んだ旗は騎士団の受勲者の大紋章旗だそうだ。


そもそも、この寺院は、普通の教会ではなく、エリアの中心的な教会である大聖堂(カテドラル)でもない。

「ロイヤル・ペキュリア」といって、主権者、つまり、国王の下にあり、大司教や司教の管轄を受けない特別な場所なのだそうだ。

ここは、全てにおいて、イギリスらしさをぎゅっと濃縮したような独特で象徴的な空間だった。

いや、大満足。きてよかった。




外に出ると行列ができていて、たくさんの人が入場するのを待っている。

時刻は16時半ごろ。何かが始まるのだろうか。

疑問に思いながら、この場を離れた。

あとで調べたら、夕方17時に礼拝があるそうで、クワイヤが讃美歌を歌うのだそうだ。

ここで讃美歌を聞いてみたかったな。



バス乗り場で次に行き先へのバスに乗るころ、ちょうど、背後から時刻を知らせる鐘の音が聞こえてくる。2音の繰り返し。どこか切なくて、ずっと耳に残っている。

バスに乗ったら、階席の窓から右手側にさっきの行列が見えた。


イギリス最古の書店Hatchards


次の目的地はピカデリーサーカス。

帰ってもいいのだが、なにせロンドンは夜の8時くらいまで昼のように明るいものだから、帰る気がしない。

気になっていた本屋を訪ねてみようと思い、ハッチャーズ書店 「Hatchards」とグーグルマップで検索をかけて、向かった。

ここは1797年からあるイギリス最古の本屋で、ロンドンでも内装が美しいと評判だそうだ。

近くのバス停から歩いていくと、ピカデリーサーカスの通りは銀座のようなショッピングストリートで、服屋や雑貨屋、革製品、カフェやレストラン、さらに劇場やホテルがある。

アート系の本屋などおしゃれ空間も多い。

そして通りは混雑している。

道すがら、和菓子屋、源吉兆庵の店もあった。どらやきが1つ3ポンド。他に羊羹や金魚のモチーフのゼリーなどがある。

こういうところで日本的なものに出会うのは、妙にくすぐったい。


さてハッチャーズ書店についた。


感動するほどでもないが、黒い本棚が空間をひきしめて品格を感じさせる。

6階くらいまであってフロアごとに選書されている。

1階にガーデニングやロイヤルファミリーの写真集がある。

2階は小説コーナーで、日本人作家だと川口俊和の『コーヒーが冷めないうちに』や三島由紀夫の作品が並んでいる。

すると突然、右手側から、見知らぬ人に声をかけられる。

「この本屋、素敵だよね」

男の人がたっていた。

話しかけられるままに返事をする。

「そうね。とても綺麗」

「どこからきたの?」

「日本だよ」

「どのくらい、ロンドンにいるの?」

「5日間」

「そのあとはどこにいくの?」

「オックスフォードとコッツウォルズだよ」

「ああ、とってもいいところだよね。景色が綺麗だよ」

「イギリスははじめてなの?」

・・・・・

こんな感じ。英会話の練習みたいだ。

「笑顔が可愛いね。帽子をとればもっと可愛いのに。」

(余計なお世話だなー)と思いつつ、話は妙な方向へ。

「あなたは結婚しているの?」

「別れたの」

「僕もなんだ」

「何年結婚していたの?」などなど。

あとから思えば、「そんなこと、あなたに関係ないでしょ」と言えばよかったか。私はなんとも無防備だった。

そして、目の前の男はこう言った。

「僕はすごく長い間結婚していたんだけど、最近別れたんだ」

聞いてもいない情報提供に疑問が浮かぶ。

”こういう場合は、I'm sorry お気の毒に、というのが正しいのだろうか?”

実際、どんな答えをしたのか。

自分でも思い出せないが、あとから気になって気になって仕方ない。

どういう顔をして聴いていたのか。

悲しそうな顔をしたのか、あ、そう、と事務的に答えたのか。

はたまた、その情報どうでもいいし、という嫌悪感をにじませたのか。

そもそも、長年連れ添った妻と別れたというのはこの人にとってどういう状況なのだろうか。

嬉しい状況ならば、おめでとう、やっと解放されたのね!、という風なわけだし、落ち込んでいるなら、悲しくて辛いでしょうね、と声をかけたいところ。

別にどっちでもいいのだが、妙にそのポイントがあとから気になって仕方ない。

その後、「今日、夕飯一緒にどう?」と言われて、

「明日早いから遠慮しとく」といったら、

「そっか、じゃあね」といって目の前の男は去っていった。


これはいわゆるナンパだったのか、その人が去ってから気づく。

でも嫌な気はしない。

まず、本屋の中でこうやって声かけるんだという新鮮な発見があった。

日本でこの状況を例えるならば、新宿の紀伊國屋で声をかけられる、だろうか。


あまり想像しにくい。真面目な人が黙々と本を探しているイメージだから。

一方、ロンドンでは違うのもしれない。

この書店の最上階からはビール片手に喋ったり笑ったりする声が聞こえていて、とても華やかな雰囲気だったので場違いな場所にきたと、フロアから退散してきたところだった。

そして「ノッティングヒルの恋人」という映画もジュリア・ロバーツとヒュー・グラントは、ロンドンの本屋で出会うのだそうですね。

そう考えると本屋は社交場でもあるのかもしれない。


もう一つ、新鮮だったのは、私に声をかけてくる人がいたことだ。

ロンドンにいると、背の高く骨格もしっかりした人が多くて、皆、大柄なものだから、私なんて小学生に思われているだろうなと思っていたので。

それはそれで気楽だったのだが、誘ってくる人もいるんだ。

これだけの大都会。色々な志向の人がいるよな。

顔も好みじゃなかったし、ときめく気持ちはなかったが、間違いなく一つの思い出になったので、声をかけてきたその人にそれなりに感謝した。


空が青い もう夕方なのに

本屋を出たら小腹が空いたので、散歩しながら良い店があったら入ろうと思う。

ここはチャイナタウン。

RegentStreet の我らがユニクロ。並んでいる服のランンナップは日本とあまり変わらない。


通りには、たくさんの服屋やセレクトショップがあるけれど、正直欲しいものがない。

日本でも見たことがあるようなデザインのものが多く、珍しさがたりない。それでこの値段であれば、日本で買った方がマシだ。


歩いていたら、ファーストフード店に混じって、丸亀製麺をみつけた。


店内はなかなか混んでいる。ここで食べてみよう。

釜揚げうどんにセルフでトッピングをつけるあたりは日本と同じシステムだ。

一方で、焼き鳥うどんに豚骨うどんといった、うどんに他の日本食を合体させたメニューがあるのがおもしろい。

うどんに、かぼちゃと海老の天ぷらをトッピングした。

天ぷらの揚げ方がいまいちで、衣がフランクフルトみたいだった。汁の味も濃い。

これで8ポンド。

でも、正直、暑さと緊張と疲れで、あまり食欲がわかなくなってきていたので、汁物の温かさがありがたい。

さあ、これを夕食がわりにしてバスに乗って帰りましょう。明日は朝が早い。

(つづく)

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